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スポットライトリサーチ

ジンチョウゲ科アオガンピ属植物からの抗HIV活性ジテルペノイドの発見

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第354回のスポットライトリサーチは、東邦大学薬学部 生薬学教室の博士課程1年 張 米(ちょう まい)さんにお願いしました。

東邦大学の生薬学教室は、様々な薬用植物について有効成分の単離・化学構造の決定・生物活性の探索などを行い、創薬シーズの発見や探究を推進する研究室です。

生薬といえば、風邪に効く漢方薬として有名な葛根湯の材料である「葛根(カッコン。マメ科植物であるクズの根)」や「甘草(カンゾウ。マメ科植物であるカンゾウの根。甘みがある)」などが有名ですが、今回張さん達が研究対象としたのは、ジンチョウゲ科アオガンピ属というあまり研究されていないグループに分類される植物だそうです。

この植物から新規化合物2種を含む計8種のジテルペノイドを単離精製し、それらの機能性を見出したという張さんの成果は、Journal of Natural Products原著論文およびプレスリリースとして公開されています。なんと、論文が掲載されたJournal of Natural Products誌2021年84巻8号のカバーピクチャーにも選ばれたということです!

“LC-MS Identification, Isolation, and Structural Elucidation of Anti-HIV Tigliane Diterpenoids from Wikstroemia lamatsoensis”

Mi Zhang, Kouharu Otsuki, Takashi Kikuchi, Zi-Song Bai, Di Zhou, Li Huang, Chin-Ho Chen, Susan L. Morris-Natschke, Kuo-Hsiung Lee, Ning Li*, Kazuo Koike, Wei Li*

Journal of Natural Products, 2021, 84, 2366-2373.

DOI: 10.1021/acs.jnatprod.1c00570

 

張さんを指導した東邦大学生薬学教室 教授の李 巍(り ぎ)先生より、張さんの人物像についてコメントをいただいています。

張さんの第一印象は大人しくてのんびりした学生という印象でした。研究は上手くいくことばかりではないので、途中で彼女が挫けてしまわないか少し心配をしていました。しかし私の心配をよそに、彼女はいい結果が得られなかった時でも挫けることなくひたむきに研究に向き合っていました。日本に来て短い期間で、これまでの成果を挙げられたのもまさに彼女の努力の賜物だと思います。張さんが研究室に来てからそろそろ3年が経ちますが、日々着実に実力をつけて成長しているのを感じます。今後も張さんの活躍が楽しみです。

 

それでは、張さんのインタビューをお楽しみください!

 

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください】

今回私たちはこれまでに研究されていないジンチョウゲ科アオガンピ属植物Wikstroemia lamatsoensisについて、抗HIV活性を有するジテルペノイドを含むことを初めて明らかにしました

ジンチョウゲ科植物は約50属800種以上が寒帯を除く全世界に広く分布しています。この科の植物には抗がん、抗HIVなどの優れた生物活性を有するチグリアン型やダフナン型ジテルペノイドが特徴的に含まれています。ジンチョウゲ科の属の一つである、アオガンピ(Wikstroemia)属植物は約70種が知られていますが、そのうち数種の植物についてしか研究は行われていません。中でもジテルペノイドに関する研究はほとんどありません。本研究で着目したW. lamatsoensisは主に中国の雲南省に分布しており、中国では金絲桃蕘花(キンシトウジョウカ)と呼ばれています。高度2600-3200 mの谷に生育する低木で、芳香のある黄色い花を咲かせるのが特徴です。私たちはW. lamatsoensisに含まれる生物活性ジテルペノイドに着目した化学成分研究を行い、8種のチグリアン型ジテルペノイドを単離し、MSやNMRなど各種スペクトル解析により2種が新規化合物であることを明らかにしました(図1)。さらに、単離した化合物のHIV複製阻害活性を評価し、チグリアンの7員環の構造が抗HIV活性の発現に大きく影響することが明らかになりました。

 

図1. Wikstroemia lamatsoensisより単離したチグリアン型ジテルペノイド

 

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください】

ジンチョウゲ科アオガンピ属植物の多くは私の故郷でもある中国雲南省に分布しています。今回論文を発表した植物を含め、私がこれまでに研究してきた植物はいずれも雲南省で採取されたものでした。まさか留学した先で故郷に関連のある研究ができるとは思ってもいなかったので、修士課程でこのテーマをもらった時には特別な使命感にかられました。しかし、私は学部時代に中国の薬科大学で臨床薬学を専攻しており、天然物の探索研究に関してはほとんど知識がありませんでした。化学用語に関する日本語の知識もほとんどなかったので、先生に頼んで大学院の講義に加えて学部生が受ける天然物化学などの講義にも出席させてもらい、研究に必要な基礎知識を日本語で一から学び直しました。そして、先生と研究室メンバーのサポートもあって幸運にも今回の成果を得ることができました。自分が故郷の植物から新規化合物を発見し、その成果を論文に発表できたことをとても嬉しく思っています。

 

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?】

ジンチョウゲ科植物由来のジテルペノイドは多様性に富んだ化学構造に、優れた生物活性を有することから天然物創薬のターゲットとしてとても魅力的な化合物群です。しかし、これらジテルペノイドの植物中の含量は低いことが多く、単離は決して簡単ではありません。私は特にこれまでに誰も研究していないアオガンピ属植物に着目してジテルペノイドの探索を行ってきましたが、時間をかけて1つの植物を研究しても全く成果が得られないこともありました。そこで、先生のアドバイスもあり修士課程の後半からは高速液体クロマトグラフィー質量分析計(LC-MS)を活用することになりました。同じテーマの先輩と一緒にサンプルの前処理法や分析条件を模索しながら、少しずつ分析方法を確立していきました。まだまだ完全ではありませんが、単離の早い段階から植物に目的のジテルペノイドが含まれているかどうか可視化することで、以前よりも効率よく目的化合物を単離することができるようになりました。

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?】

もともと将来は薬学に関わる仕事をしたいと茫然と考えていましたが、今の研究テーマに出会ったことで天然物創薬の面白さに魅了されました。博士号を取得して大学院を卒業した後も、天然物創薬の分野で活躍する研究者となり薬学の発展に貢献していきたいです。また、自分の経験を活かして、いずれは自分と同じように留学して研究を志す学生たちのサポートができるような人物になりたいと考えています。

 

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

私が常に大事にしていることは、どんなときでも固定概念で自分を縛ることなく新たなことにチャレンジし続けることです。研究者という道を歩むことも日本に留学するということも、これまでの私の人生の中では非常にチャレンジングな選択でした。大変で苦しいと思う時が全くないとは言いませんが、それ以上にこの選択をしたことで私は自分を魅了する研究、尊敬する師、大切な仲間に出会うことができました。

「勇于走出自己的舒適圈,会有意想不到的収穫」

勇気を出して自分の居心地の良い環境から一歩踏み出すことは、あなたに予想していない収穫をもたらすでしょう。

最後になりましたが、研究を進めるにあたって多くのご指導ご助言を頂いただけでなく、日本での生活を温かくサポートしてくださった李巍教授、研究室の皆様、そして日本への留学を後押ししてくれた両親に心より深く感謝申し上げます。

 

【研究者の略歴】

名前:張 米 (ちょう まい / Zhang Mi)

所属:東邦大学大学院薬学研究科 生薬学教室

研究テーマ:ジンチョウゲ科アオガンピ属植物の成分研究

 

 

 

関連リンク

1. 東邦大学薬学部 生薬学教室

2. 東邦大学プレスリリース「ジンチョウゲ科アオガンピ属植物から抗HIV活性物質を発見」

 

Shirataki

Shirataki

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目には見えない生き物の仕組みに惹かれ、生体分子の魅力を探っていこうとしています。ポスドクや科学館スタッフ、大学発ベンチャー研究員などを経て放浪中。

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