[スポンサーリンク]

ケムステニュース

千葉県産の天然資源「ヨウ素」が世界の子どもたちを救う

[スポンサーリンク]

千葉県が世界の4分の1を産出する天然資源「ヨウ素(ヨード)」から作った粉末状の「ヨウ素酸カリウム」が、ヨウ素欠 乏症に苦しむアフリカ南部の島国マダガスカルに贈られることになり、31日、県庁で贈呈式が行われた。順調にいけば2月2日に横浜港を出発し、3月7日に同国に到着する。  (引用:産経新聞1月31日)

日本は天然資源の乏しい国であり、産業に必要な化石燃料や無機原料の多くを輸入に頼ってますが、日本にも輸出できるほど産出される元素があり、それがヨウ素です。その生産量全世界の約30%を占め、チリに続いて第2位の規模となっています。そしてその日本で産出されるヨウ素の約75%が千葉県で生産されていて、これは千葉県全域の地下に国内最大級の水溶性天然ガス鉱床「南関東ガス田」があり、天然ガスと同時にヨウ素を多量に含む地下水(かん水)も同時に産出されているからです。実際、チーバくんのおしりから背中にあたる地域にはいくつかの化学企業がヨウ素の製造を行っています。

そんなヨウ素が豊富に採れる千葉県がマダガスカルにヨウ素を贈ったというのがニュースの内容です。ヨウ素は、ヒトの甲状腺ホルモンの合成に必要であり、ヨウ素が不足すると、胎児や乳児の発達に深刻な悪影響を及ぼすことが知られています。日本では、海産物を食べる習慣があり欠乏することは稀ですが、WHOは世界人口の30%以上が、ヨウ素の摂取が不十分であると推定しています。

マダガスカルもヨウ素欠 乏症に苦しむ国の一つであり、千葉県では850 kgのヨウ素酸カリウムを提供しました。ヨウ素酸カリウムの製造に使われたヨウ素は千葉県産であり日本ヨウ素工業会が提供し、京葉天然ガス協議会が輸送費の協力を行ったそうです。ヨウ素酸カリウムは横浜港から発送済みのようで、順調に行けば3月上旬に到着し食塩に混ぜる形でマダガスカルの方が摂取されるそうです。

この千葉県によるヨウ素の支援は平成8年度に開始され、マダガスカルへの提供は4回目となり、モンゴルやカンボジア、スリランカにも複数回提供してきました。この支援に関わった日本ヨウ素工業会と京葉天然ガス協議会は千葉県でヨウ素の製造を行っている企業の多くが加盟しているようで、千葉県の官民が協力して実現した事業だと言えます。

現状、水溶性天然ガスの生産量は横ばいであり、また500年分のヨウ素が埋蔵されていると見積もられているため、安定したヨウ素の生産が千葉県で続くと考えられます。ヨウ素化合物は、有機合成において欠かせないものであり、また半導体や医療分野でも活用されている化学品です。さらにこのヨウ素資源の価値を高めるための活動として、ヨウ素を生産している伊勢化学工業株式会社株式会社合同資源日宝化学株式会社、株式会社ナックテクノサービスと千葉大学では平成30年に共同研究の協定を締結しました。そして千葉大学西千葉キャンパスにある千葉ヨウ素資源イノベーションセンターにてオープンイノベーションを推進し、社会的インパクトの高い高機能ヨウ素製品の社会実装を目指しています。経済活動としてのヨウ素生産だけでなく、世界中の人々の健康のための活動を今後も続けてほしいと思います。

千葉ヨウ素資源イノベーションセンターの 橋本 卓也 特任准教授の研究グループによって開発された不斉アミノオキシ化反応向け触媒の構造(出典:千葉大学プレスリリース

関連書籍

ヨウ素に関するケムステ過去記事

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. がん治療にカレー成分-東北大サイエンスカフェ
  2. JAMSTEC、深度1万900mに棲むエビから新酵素を発見 &#…
  3. がん治療用の放射性物質、国内で10年ぶり製造へ…輸入頼みから脱却…
  4. タンチョウ:殺虫剤フェンチオンで中毒死増加
  5. 京大北川教授と名古屋大学松田教授のグループが”Air Liqui…
  6. 武田や第一三共など大手医薬、特許切れ主力薬を「延命」
  7. 化学企業のグローバル・トップ50が発表
  8. 【第一三共】抗血小板薬「プラスグレル」が初承認‐欧州で販売へ

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. (+)-sieboldineの全合成
  2. Q&A型ウェビナー マイクロ波化学質問会
  3. Louis A. Carpino ルイス・カルピノ
  4. 世界的性能の質量分析器開発を開始
  5. 第48回―「周期表の歴史と哲学」Eric Scerri博士
  6. 第38回「分子組織化の多様な側面を理解する」Neil Champness教授
  7. 植物改良の薬開発 金大・染井教授 根を伸ばす薬剤や、落果防止のものも
  8. 化学のあるある誤変換
  9. 振動円二色性スペクトル Vibrational Circular Dichroism (VCD) Spectrum
  10. 人工嗅覚センサを介した呼気センシングによる個人認証―化学情報による偽造できない生体認証技術実現へ期待―

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2022年2月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28  

注目情報

最新記事

フローマイクロリアクターを活用した多置換アルケンの効率的な合成

第610回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院理学研究科(依光研究室)に在籍されていた江 迤源…

マリンス有機化学(上)-学び手の視点から-

概要親しみやすい会話形式を用いた現代的な教育スタイルで有機化学の重要概念を学べる標準教科書.…

【大正製薬】キャリア採用情報(正社員)

<求める人物像>・自ら考えて行動できる・高い専門性を身につけている・…

国内初のナノボディ®製剤オゾラリズマブ

ナノゾラ®皮下注30mgシリンジ(一般名:オゾラリズマブ(遺伝子組換え))は、A…

大正製薬ってどんな会社?

大正製薬は病気の予防から治療まで、皆さまの健康に寄り添う事業を展開しています。こ…

一致団結ケトンでアレン合成!1,3-エンインのヒドロアルキル化

ケトンと1,3-エンインのヒドロアルキル化反応が開発された。独自の配位子とパラジウム/ホウ素/アミン…

ベテラン研究者 vs マテリアルズ・インフォマティクス!?~ 研究者としてMIとの正しい向き合い方

開催日 2024/04/24 : 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足…

第11回 慶應有機化学若手シンポジウム

シンポジウム概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大…

薬学部ってどんなところ?

自己紹介Chemstationの新入りスタッフのねこたまと申します。現在は学部の4年生(薬学部)…

光と水で還元的環化反応をリノベーション

第609回のスポットライトリサーチは、北海道大学 大学院薬学研究院(精密合成化学研究室)の中村顕斗 …

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP