[スポンサーリンク]

海外化学者インタビュー

第138回―「不斉反応の速度論研究からホモキラリティの起源に挑む」Donna Blackmond教授

[スポンサーリンク]

第138回の海外化学者インタビューはドナ・ブラックモンド教授です。2009年12月現在、インペリアル・カレッジ・ロンドン化学科に在籍(現在、スクリプス研究所化学科教授)です。彼女は、不斉触媒反応の速度論的側面と生物学的ホモキラリティ起源のモデル開発を研究しています。それではインタビューをどうぞ。

Q. あなたが化学者になった理由は?

告白します。自分は化学者としての訓練を受けたわけではなく、化学技術者としての訓練を受けています! 父は電気技師で、子供たちは全員エンジニアになるべきだと考えていました。私は化学が好きでしたが、「化学」工学が私のイメージにかなり近かったのです。化学工学の博士号を取得してから約10年後、メルクで働いていたときに、仕事で有機化学を学びました。この仕事ではエド・グラボウスキーポール・ライダーのような人たちからの挑戦を受けることにもなり、自分のキャリアを決定づける経験となりました。

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

脳神経外科医かNASAの物理学者のどちらかです。結局のところ、今していることは脳外科やロケット科学ではないんです・・・よね?

Q. 現在取り組んでいることは何ですか?そしてそれをどう展開させたいですか?

生物学的ホモキラリティの起源に関する2つのモデルの側面を、概念を一般化しうる方法で組み合わせるアイデアに、最近「ピン」ときました。アミノ酸・糖両方のホモキラリティがどのようにして生まれたのかが、一気に理解できることを期待しています。

Q.あなたがもし 歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

科学では、ヤコブス・ヘンリクス・ファント・ホッフです。彼は物理化学と有機化学の両方に、基礎的かつ実用的に重要な貢献をしました。また彼はキャリア初期に懐疑論者の一端を担っていました。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

今の仕事は、学生時代に訓練されたことと全く関係がないので、研究室ではいつも困難を覚えます。2002 年にハーバード大学でEric Jacobsen のところでサバティカルをしていたとき、セプタムキャップの反応バイアルに水を注入して、エポキシド加水分解開環反応の開始を大学院生たちが手伝ってくれました。しかし結局、反応熱量計に水をこぼしてしまいました。本来は彼らに使い方を教えるべき立場でしょうから、恥ずかしかったです。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

本はもちろん、ウィリアム・シェイクスピア全集です(「このハムレット、たとえ胡桃の殻のなかに閉じこめられていようとも、無限の天地を領する王者のつもりになれる男だ。悪い夢さえ見なければな」(福田恆存訳))

音楽は、息子のダニエルがギターとピアノで弾き語りをしている彼自身の曲(特に彼の代表曲である “Remember to Forget”)と、クイーンサイモン&ガーファンクルニュートン・フォークナーリチャード・シンデルカール・ジェンキンスアディマスのボーカル曲(非常に幅広いジャンルにわたる趣味ですが)などについて、彼がカバーしたベスト版をCD収録したものにします。

Q.「Reactions」でインタビューしてほしい化学者と、その理由を教えてください。

エナンチオマー過剰率の定義を教えてくれた元メルクの同僚、エド・グラボウスキーです。逆境の時に彼が見せる対応は、自分としても見習うべきものがあります。数年かけて研究した主要な医薬品候補が臨床試験で失敗したという知らせに直面したとき、エドはすぐさまフォアグラとシャトー・ディケムのグラスで自分を慰めていました。

 

原文:Reactions – Donna Blackmond

※このインタビューは2009年12月4日に公開されました。

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 第76回―「化学を広める雑誌編集者として」Neil Wither…
  2. 第137回―「リンや硫黄を含む化合物の不斉合成法を開発する」St…
  3. 第65回「化学と機械を柔らかく融合する」渡邉 智 助教
  4. 第70回―「ペプチドの自己組織化現象を追究する」Aline Mi…
  5. 第47回「目指すは究極の“物質使い”」前田和彦 准教授
  6. 第112回―「生体分子センサー・ドラッグデリバリーシステムの開発…
  7. 第64回「実際の化学実験現場で役に立つAIを目指して」―小島諒介…
  8. 第114回―「水生システムにおける化学反応と環境化学」Krist…

注目情報

ピックアップ記事

  1. アンモニアで走る自動車 国内初、工学院大が開発
  2. 兵庫で3人が農薬中毒 中国産ギョーザ食べる
  3. ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ニッケル(II)ジクロリド : Bis(tricyclohexylphosphine)nickel(II) Dichloride
  4. プレヴォスト/ウッドワード ジヒドロキシル化反応 Prevost/Woodward Dihydroxylation
  5. 【書籍】パラグラフ・ライティングを基礎から訓練!『論理が伝わる 世界標準の「書く技術」』
  6. フラックス結晶育成法入門
  7. 有機合成化学協会誌2020年1月号:ドルテグラビルナトリウム・次亜塩素酸ナトリウム5水和物・面性不斉含窒素複素環カルベン配位子・光酸発生分子・海産天然物ageladine A
  8. 大分の高校生が特許を取得!
  9. 電気ウナギに学ぶ:柔らかい電池の開発
  10. 笑う化学には福来たる

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年1月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

【JAICI Science Dictionary Pro (JSD Pro)】CAS SciFinder®と一緒に活用したいサイエンス辞書サービス

ケムステ読者の皆様には、CAS が提供する科学情報検索ツール CAS SciFind…

有機合成化学協会誌2025年5月号:特集号 有機合成化学の力量を活かした構造有機化学のフロンティア

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年5月号がオンラインで公開されています!…

ジョセップ・コルネラ Josep Cornella

ジョセップ・コルネラ(Josep Cornella、1985年2月2日–)はスペイン出身の有機・無機…

電気化学と数理モデルを活用して、複雑な酵素反応の解析に成功

第658回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 農学研究科(生体機能化学研究室)修士2年の市川…

ティム ニューハウス Timothy R. Newhouse

ティモシー・ニューハウス(Timothy R. Newhouse、19xx年xx月x日–)はアメリカ…

熊谷 直哉 Naoya Kumagai

熊谷 直哉 (くまがいなおや、1978年1月11日–)は日本の有機化学者である。慶應義塾大学教授…

マシンラーニングを用いて光スイッチング分子をデザイン!

第657 回のスポットライトリサーチは、北海道大学 化学反応創成研究拠点 (IC…

分子分光学の基礎

こんにちは、Spectol21です!分子分光学研究室出身の筆者としては今回の本を見逃…

ファンデルワールス力で分子を接着して三次元の構造体を組み上げる

第 656 回のスポットライトリサーチは、京都大学 物質-細胞統合システム拠点 (iCeMS) 古川…

第54回複素環化学討論会 @ 東京大学

開催概要第54回複素環化学討論会日時:2025年10月9日(木)~10月11日(土)会場…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP