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スポットライトリサーチ

アスピリンから生まれた循環型ビニルポリマー

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第212回のスポットライトリサーチは、信州大学線維学部 化学・材料学科 ・風間 茜さん にお願いしました。

風間さんの所属する高坂研究室では、ポリアクリレートを様々に機能化した高分子材料から魅力ある特性を引き出す研究を主軸テーマとしています。今回は有名な医薬品であるアスピリンをモノマーとして活用することで、新規なリサイクルポリマーを創り出せるというユニークな成果です。本成果はPolymer Chemistry誌原著論文、およびプレスリリースとして公開されています。

“Radical polymerization of ‘dehydroaspirin’ with the formation of a hemiacetal ester skeleton: a hint for recyclable vinyl polymers”
Kazama, A.; Kohsaka, A. Polym. Chem. 2019, 10, 2764. doi:10.1039/C9PY00474B

研究室を主宰されています高坂泰弘 准教授から、風間さんについて以下の人物評を頂いております。

風間さんは修士課程2年の大学院生で,他のM2とともに中心メンバーとして研究室を支えています。

風間さんは、驚くほどに幸運の持ち主です。今回の研究テーマは、研究室内での前評判がすこぶる悪く、先輩達から忌避されたアイディアでした。私自身、ギャンブルだと思っていたので、風間さんがこのテーマを選択したときには、ちょっと焦りました。期待していた学生だったので、ギャンブルに巻き込んで申し訳なく思ったのです。ところが、なんと当初の予想を遙かに超えて、斜め上の成果が結実しました。この点に限らず、風間さんは何かに導かれるように幸運や奇縁を引き当て、現在に至っています。

また、社交的で交友が広く、初対面の人ともすぐに意気投合することができます。もちろん、努力する才能は折り紙付きです。一意専心、猪突猛進の性格で、自ら道を切り開いていきます。

それでは今回も、現場からのコメントをお楽しみ下さい!

 Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

アセチルサリチル酸、いわゆるアスピリンを原料とする、ケミカルリサイクルが可能なビニルポリマーを開発しました。

アセチルサリチル酸を塩素化し、次いで塩基で処理すると、脱水アスピリンと呼ばれる環状化合物が生成します。私たちは、脱水アスピリンを電子豊富な二重結合を有するモノマーと捉え、そのラジカル重合を試みました。重合に伴い、二重結合が単結合に変化すると、ヘミアセタールエステル骨格が出現します。研究当初、これを酸加水分解すると、メチレン基とカルボニル基が交互に配列したポリケトンが得られると考えました。ところが、実際にビニルポリマーを塩酸で処理すると、酢酸とサリチル酸に分解することが明らかとなりました。これらはアセチルサリチル酸の出発物質なので、ポリマーがモノマー原料に分解されたことになります。このことから、脱水アスピリンのビニルポリマーは循環型の高分子材料と捉えることができます。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

この研究は、学部4年生の時に私が髙坂研究室に配属されて初めて与えられたテーマで、実験操作や研究の考え方、論文執筆の基本をこのモノマーを通じて学んできました。いうなれば、オー〇ド博士からもらった最初のポ〇モンのような感覚で、このような点から本研究全体に思い入れがあります。また、このポ〇モンの特性を存分に発揮させてあげられるように、自分なりに勉強してこのテーマに取り組みました。
例えば、より簡便に脱水アスピリンを合成する手法を自分なりに工夫しました。当初は論文記載の手法に従って合成していましたが、スケールアップに際して効率のよさや安全性を重視し、現在の合成経路に改良しました。また、研究全体を通して、先輩や先生と深い議論ができました。その際に自分の考えを評価して貰えたことは、今の自信に繋がっています。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

脱水アスピリンの単独重合体は溶解性が悪く、構造解析や分解反応の追跡に苦労しました。そのため、NMRで可溶部のみの構造を決定し、それから可溶部と不溶部のIRを比較することで評価を行いました。分解反応では、サイズ排除クロマトグラフィー (SEC) による分子量変化の追跡が困難であったため、DOSYスペクトルを使用しました。また、論文に記載した成果と平行して進めている関連研究では、COSY、 NOESY、 HSQC、 HMBCといった各種2次元NMRを併用してポリマーの構造解析を進めています。当時の私には、装置や測定の原理を理解することもままならず、解析手法も含めて多くを学ぶことは大変でしたが、努力の甲斐あって正確に構造を特定することができました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

私は研究室の3期生で、本テーマは先代のいない新規テーマとして研究がスタートしました。最初はどのように研究を進めてよいか戸惑いましたが、先生や先輩方の面倒見の良さに助けられ、今回の成果をあげるに至りました。私はそんな研究生活の中で、“自分で勉強し知識を吸収する力”がとても伸びたと感じています。広い分野に対する好奇心の強さと猪突猛進な性格とが相まって、現在は研究室で先例のない重合系を行うなど、積極的に新領域開拓に挑戦をしています。今後は博士課程に進学を予定しており、複数の分野を複合したような研究ができたらいいなと考えています。卒業後はどのような形であれ、化学に携わる人生を歩みたいと考えています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

私は化学が好きで、現在は高分子の中でも合成高分子の分野を研究しています。学年が上がるにつれて学会に参加する機会が増え、多くの先生が様々な研究をしていらっしゃることを知りました。また、それに伴い沢山の(研究、性格共々)面白い先輩や友人達と交流することができました。そのたびに、研究室という空間から生まれた研究結果は、とても広い世界に繋がっているのだと実感します。もちろん、いつもいつでもうまくいくなんて保障はどこにもないですが、これからもそのような人たちとの出会いを楽しみに、自分に恥ずかしくない自分でいられるように、精進していきたいと思います!

最後に、素晴らしい研究環境とご指導をいただいた高坂泰弘先生をはじめ、研究室のメンバー、高校時代の、また学部やサークルといった学内をはじめ学会で交流した他大学の友人達、そして支えてくれた家族に、この場を借りて心より感謝申し上げます。

研究者の略歴

風間 茜(かざま あかね)
信州大学 大学院総合理工学研究科繊維学専攻 髙坂研究室 修士課程2年(博士進学予定)
研究テーマ:脱水アスピリンをモノマーに用いた機能高分子の合成

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cosine

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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