[スポンサーリンク]

ケムステニュース

熱を効率的に光に変換するデバイスを研究者が開発、太陽光発電の効率上昇に役立つ可能性

[スポンサーリンク]

Scientists at Rice University in Texas have developed a device which converts heat into light by squeezing it into a smaller bandgap. The ‘hyperbolic thermal emitter’ could be combined with a PV system to convert energy otherwise wasted as heat – a development the researchers say could drastically increase efficiency. (引用:pv-magazine 7月29日)

家の屋根や空き地に設置して太陽光を使って発電することができる太陽電池ですが、市場で使われているシリコン型の太陽電池の発電効率は高くても20%で、最も発電効率が高い多接合型太陽電池でも現状47.1%という値がチャンピオンレコードとなっています。この発電効率が半分以下になってしまう理由ですが、太陽光には紫外光から赤外光まで様々な波長の光が含まれている一方、太陽電池に使われている材料はそれぞれ決まった範囲の光のみ電気に変換し、太陽光すべてを電気に変換できないことが挙げられます。そのため太陽光すべての光、特に太陽電池による発電に適さない赤外線を活用する研究が行われています。

発電効率世界記録(引用:NREL

物体は高温になると輻射光と呼ばれる光を発することが知られていて、太陽光もその放射光の一つであり、ハロゲンヒーターやカーボンヒーターはランプから発せられる輻射光=赤外線によって人が温まることができる装置です。輻射光は一般的に連続スペクトルですが、物体が波長が整った光を放射させることができれば、太陽光の中の赤外線を使ってその物体を加熱し、そこから発生する輻射光を太陽電池に照射すれば、太陽光だけの発電よりも効率よく発電することができます。本研究では、まさに特定の波長の光を発する構造体の開発に成功しました。

前置きが長くなりましたが、本研究では平均長さが1.4nmのカーボンナノチューブを使って薄膜を作製し、それをタングステンの基板上に移すことで巨視的に整列されたカーボンナノチューブの構造体を作製しました。具体的には、下の写真のように、数μmごとにカーボンナノチューブの薄膜が整列しているような構造体で、これを減圧下で700度に加熱すると数μmに極大波長を持つ発光スペクトルが得られました。様々な薄膜のサイズにてスペクトルを測定したところ、スペクトルに違いが表れ、0.7μm×1.05μmのカーボンナノチューブの薄膜を整列されたときに最もシャープな極大波長を持つ発光スペクトルが得られました。これは、カーボンナノチューブが熱を吸収する際にはどこからでも吸収できるものの、内部では電子が一方向にしか動くことができないため、輻射光として放出されるときは、狭い波長領域を持つ光になると主張しています。

開発した構造体、白い直方体がカーボンナノチューブの薄膜と上に成膜されたSiO2(引用:Rice University News and Media Relations

この研究を発表したのはアメリカ、ライス大学河野淳一郎教授らのグループで、以前にもケムステでカーボンナノチューブの研究について紹介させていただいたことがあります。本研究も、向きがそろったカーボンナノチューブ薄膜を使ったからこそ成功した成果であるようです。実験では、太陽光ではなくヒーターを使って加熱していましたが太陽電池と組み合わせた実験も計画していて、この発光体を組み合わせると太陽電池の発電効率を理論上80%まで向上できるとこの研究グループは主張しています。同様の輻射光による発電は京都大学工学研究科電子工学専攻の野田進教授のグループでも進められていて、こちらはシリコンナノロッドの構造体を使った成果を2016年に発表しています。

他の太陽光の赤外線を活用する研究として、太陽光発電と水の加温を同時に行う研究も行われていて太陽電池と組み合わせて65%の総合発電効率を示すシステムが開発されていますが、温水の応用は限定的です。そのため、このような輻射熱による変換は有用であると考えられます。ただし、太陽光による発電と、集光した光による加熱、と輻射光による発電をどのようなモジュールで効率よく行うのかが気になる点です。日本では、太陽光発電に関する補助金の問題から話題が少なくなってきていますが、発電効率の記録が毎年更新されているように、太陽光発電に関する研究は世界中で続けられています。そのためこの技術もいつか実用されることを期待します。

関連書籍

[amazonjs asin=”4797399929″ locale=”JP” title=”炭素はすごい なぜ炭素は「元素の王様」といわれるのか (サイエンス・アイ新書)”] [amazonjs asin=”4061568035″ locale=”JP” title=”光化学―基礎から応用まで (エキスパート応用化学テキストシリーズ)”]

関連リンク

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 炭素ボールに穴、水素入れ閉じ込め 「分子手術」成功
  2. 富士フイルムが医薬事業に本格参入
  3. 2009年度日本学士院賞、化学では竜田教授が受賞
  4. サノフィ・アベンティスグループ、「タキソテール」による進行乳癌の…
  5. 材料費格安、光触媒型の太陽電池 富大教授が開発、シリコン型から脱…
  6. 独メルク、電子工業用薬品事業をBASFに売却
  7. 2012年10大化学ニュース【前編】
  8. 第六回サイエンス・インカレの募集要項が発表

注目情報

ピックアップ記事

  1. 学生・ポスドクの方、ちょっとアメリカ旅行しませんか?:SciFinder Future Leaders 2018
  2. 第一回 人工分子マシンの合成に挑む-David Leigh教授-
  3. 湿度変化で発電する
  4. 化学反応を“プローブ”として用いて分子内電子移動プロセスを検出
  5. 化学者のためのエレクトロニクス講座~代表的な半導体素子編
  6. 有機反応を俯瞰する ー芳香族求電子置換反応 その 1
  7. 夏休みのおでかけに最適! 化学にまつわる博物館5選 ~2024年版~
  8. 劣性遺伝子押さえ込む メンデルの法則仕組み解明
  9. ヘイオース・パリッシュ・エダー・ザウアー・ウィーチャート反応 Hajos-Parrish-Eder-Sauer-Wiechert Reaction
  10. 徹底比較 特許と論文の違い ~その他編~

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年8月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

理研の研究者が考える“実験ロボット”の未来とは?

bergです。昨今、人工知能(AI)が社会を賑わせており、関連のトピックスを耳にしない日はないといっ…

【9月開催】 【第二期 マツモトファインケミカル技術セミナー開催】有機金属化合物 オルガチックスを用いたゾルゲル法とプロセス制御ノウハウ①

セミナー概要当社ではチタン、ジルコニウム、アルミニウム、ケイ素等の有機金属化合物を“オルガチック…

2024年度 第24回グリーン・サステイナブル ケミストリー賞 候補業績 募集のご案内

公益社団法人 新化学技術推進協会 グリーン・サステイナブル ケミストリー ネットワーク会議(略称: …

ペロブスカイト太陽電池開発におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用

開催日時 2024.09.11 15:00-16:00 申込みはこちら開催概要持続可能な…

第18回 Student Grant Award 募集のご案内

公益社団法人 新化学技術推進協会 グリーン・サステイナブルケミストリーネットワーク会議(略称:JAC…

杉安和憲 SUGIYASU Kazunori

杉安和憲(SUGIYASU Kazunori, 1977年10月4日〜)は、超分…

化学コミュニケーション賞2024、候補者募集中!

化学コミュニケーション賞は、日本化学連合が2011年に設立した賞です。「化学・化学技術」に対する社会…

相良剛光 SAGARA Yoshimitsu

相良剛光(Yoshimitsu Sagara, 1981年-)は、光機能性超分子…

光化学と私たちの生活そして未来技術へ

はじめに光化学は、エネルギー的に安定な基底状態から不安定な光励起状態への光吸収か…

「可視光アンテナ配位子」でサマリウム還元剤を触媒化

第626回のスポットライトリサーチは、千葉大学国際高等研究基幹・大学院薬学研究院(根本研究室)・栗原…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP