[スポンサーリンク]

ケムステニュース

構造化学の研究を先導する100万件のビッグデータ

[スポンサーリンク]

Cambridge Structural Databaseに収録された結晶構造が100万件に到達し,構造データの創薬や材料開発への利用の可能性がさらに拡大

【英国ケンブリッジ発,2019年6月6日】 構造化学データや材料科学・生命科学研究用ソフトウェアの分野で指導的役割を果たしている CCDC (The Cambridge Crystallographic Data Centre) は,構造化学における金字塔として,ケンブリッジ結晶構造データベース (Cambridge Structural Database, CSD) に100万件目の構造が登録されたことを発表しました(2019年6月19日 化学情報協会プレスリリース).

CSDとは

CSDは,実験により決定され吟味された有機および有機金属結晶構造の世界的リポジトリで,固体内で分子が三次元的にどのように配列し相互作用するか,さらにその分子配列が固体としての物性にどのように影響するかを知るために,全世界70ヶ国以上の研究者に利用されています.

機械学習とオートメーション化が医薬,農薬,その他多くの産業のあり方を変革しつつあり,いわゆる「ビッグデータ」への関心が高まっている現在,この意義深いマイルストーンに到達したことはCCDCにとっても,このリソースの情報源であり利用者でもある科学コミュニティにとっても,顕著な業績といえます.

このように膨大なデータを利用することで,研究者は広範かつ多様な情報から一層豊富な知見を引き出すことができ,データから得られた結論の信頼性が高まることにつながります.さらに,CCDCはCSDに収録するデータに対し,各工程で厳格に品質管理を行っており,これによって最高品質の情報が研究に利用できることになります.

CCDの利用

CCDCの提供する豊富なデータと高度な検索・3Dデータマイニング・分析・可視化の機能を持つソフトウェアを利用することで,産業界・学術界を問わず,研究の推進や新知見の予測が一層効果的になります.またCSDから得られる知識は計算化学や分子モデリングの基礎として,産業界では新薬の開発・製造において,学術界では化学教育において信頼を得ています.

CEOのコメント

CCDCのCEOを務めるDr. Jürgen Harterは「これはCCDCばかりでなく科学コミュニティ全体にとっても重要な金字塔です.このような巨大なデータ集合が研究や意思決定の助けとなっていることに加え,我々のデータベース・チームの努力によってデータの高い品質を維持していることも私たちが誇りとするところです.データを厳格に吟味する方針を堅持することによって,CSDから引き出されるさまざまな知見の価値が保証され,誤った情報による時間・資源・費用の無駄を避けることができます」とコメントしました.

100万件目の化合物はなに?

CCDCの発表によれば,この100万件目の構造はN複素環式化合物で,複数の反応段階を順次活性化するカルコゲン結合触媒を用いて得られたものです.原著論文には一群の特殊なカルコゲン結合触媒が報告されており,これにより小さい分子を組み立てる方法でN複素環式化合物を極めて効率的に合成することができます.この構造を決定した山東大学(中国)のYao Wangらの論文は,Journal of the American Chemical Society (JACS) に発表されました.

記念すべき100万件目の構造

 

Dr. Wangは「我々の発表した1-(7,9-diacetyl-11-methyl-6H-azepino[1,2-a]indol-6-yl)propan-2-one (CSD Refcode: XOPCAJ) がCSDの100万件目に登録されたことを喜んでいます.我々はCSDを10年以上利用していますが,それはCSDが新しい結晶構造を報告するための優れたプラットフォームであり,発想のもととなる化学構造を見出すのに最適なデータベースであるからです.我々を含めて世界の多くの研究者にとって価値ある資源であるCSDの記念すべき大きな節目に寄与できたことは我々の誇りとするところです」と語りました.

JACSのPeter Stang編集長の言葉

JACSのPeter Stang編集長は次のように話しています.「JACSに発表された構造がCSDの100万件目の登録データであったのは嬉しいことです.CSDが構造データの信頼し得るリポジトリであることはJACSの読者には周知のことで,このリソースが科学研究を促進することもいくつかの論文で実証されています.CCDCと我々の継続的な協力関係によって,この豊富なデータの利用が一層容易になり,また我々の雑誌に発表されるデータの信頼性が保証されることになります.我々はこのような重要な節目に関われたことを誇りに思います.」

CSDの展望

Dr. HarterはCSDの次の計画に関する質問に答えて,CSDの利用は医薬・農薬産業では既に十分確立されているのに対して,電池・塗料・顔料・染料などの分野での材料の研究,特にガス貯蔵物質やテーラーメード触媒の開発においては,基本的なリソースとしての認知が急速に高まっている状況であることを指摘しました.環境汚染問題やサステイナビリティの重要性がますます高まるなか,グローバルに見たCSDの潜在的需要には極めて大きなものがあります.

また,中国で行われた研究の登録件数が継続的に増えていることをCCDCは指摘しています.

「中国のような大市場を持つ国が生命科学・材料開発の研究で科学的発見を先導する興味深い時代です.このような市場の動向から何が読み取れるかに強い関心を持っています」とDr. Harterは述べています.

CCDCではデータから得られる知見や傾向を活用して,各産業分野において将来の研究動向に刺激を与える計画を進めています.

関連サイト

  • CSD One Million:100万件目の登録を記念した特設サイト。件数の推移、最も小さな化合物、大きな化合物など様々な分析データが掲載されている。

本記事は化学情報協会のプレスリリースを受けて作成したものです。

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 非選択性茎葉処理除草剤の『ザクサ液剤』を登録申請
  2. エストロゲン、閉経を境に正反対の作用
  3. 「薬学の父」長井博士、半生を映画化へ
  4. 花粉症 花粉飛散量、過去最悪? 妙案なく、つらい春
  5. 硫黄化合物で新めっき 岩手大工学部
  6. Merck 新しい不眠症治療薬承認申請へ
  7. 化学五輪で日本の高校生2人が金メダル
  8. 偶然生まれた新しい青色「YInMnブルー」の油絵具が日本で限定発…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 銀ジャケを狂わせた材料 ~タイヤからの意外な犯人~
  2. 有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズ
  3. 原子のシート間にはたらく相互作用の観測に成功
  4. ホイスラー合金を用いる新規触媒の発見と特性調節
  5. Reaction and Synthesis: In the Organic Chemistry Laboratory
  6. 萩反射炉
  7. トムソン・ロイターのIP & Science事業売却へ
  8. 【追悼企画】化学と生物で活躍できる化学者ーCarlos Barbas教授
  9. 「重曹でお掃除」の化学(その1)
  10. ジェームズ・ロスマン James Rothman

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年6月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930

注目情報

注目情報

最新記事

無機物のハロゲンと有機物を組み合わせて触媒を創り出すことに成功

第449回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(椴山グループ)5年…

熱化学電池の蘊奥を開く-熱を電気に変える電解液の予測設計に道-

第448回のスポットライトリサーチは、東京工業大学 工学院 機械系 機械コース 村上陽一研究室の長 …

毎年恒例のマニアックなスケジュール帳:元素手帳2023

hodaです。去年もケムステで紹介されていた元素手帳2022ですが、2023年バージョンも発…

二刀流センサーで細胞を光らせろ!― 合成分子でタンパク質の蛍光を制御する化学遺伝学センサーの開発 ―

第447回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院 理学系研究科化学専攻 生体分子化学研究室(キャ…

【12月開催】第4回 マツモトファインケミカル技術セミナー有機金属化合物「オルガチックス」の触媒としての利用-ウレタン化触媒としての利用-

■セミナー概要当社ではチタン、ジルコニウム、アルミニウム、ケイ素等の有機金属化合…

化学ゆるキャラ大集合

企業PRの手段の一つとして、キャラクターを作りホームページやSNSで登場させることがよく行われていま…

最先端バイオエコノミー社会を実現する合成生物学【対面講座】

開講期間2022年12月12日(月)13:00~16:202022年12月13日(火)1…

複雑なモノマー配列を持ったポリエステル系ブロックポリマーをワンステップで合成

第446回のスポットライトリサーチは、北海道大学 大学院工学研究院 応用化学部門 高分子化学研究室(…

河崎 悠也 Yuuya Kawasaki

河崎 悠也 (かわさき ゆうや) は、日本の有機化学者。九州大学先導物質化学研究所 …

研究者1名からでも始められるMIの検討-スモールスタートに取り組む前の3つのステップ-

開催日:2022/12/07  申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の…

Chem-Station Twitter

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP