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産総研より刺激に応じて自在に剥がせるプライマーが開発される

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産業技術総合研究所機能化学研究部門スマート材料グループ 相沢 美帆 研究員は、刺激を加える前には接着力を高め、光や熱を与えた際には接着物を剥離できる解体性プライマーを開発した。開発した解体性プライマーは、光や熱によって化学結合が切れる分子を部分構造として組み込んでおり、接着対象物に本プライマーを塗布することで界面から剥がしやすくなる新しい剥離技術を提供する。刺激を加える前は、開発したプライマーを介して基材と接着剤との間に形成される化学結合によって接着力が向上し、さまざまな基材同士の接着に適用することができる。一方で、光や熱といった刺激によって化学結合が切断されることから、簡単にきれいに剥がすこともできる。 (引用:産総研プレスリリース9月8日)

先日あるペットボトルのラベルを剥がしたら、べたべたしたのりがボトル側に残り、これでリサイクルできるのかとモヤモヤした気持ちになりました。接着は身の回りで活躍している技術で長年研究されているものの、より自由に、また様々な素材に対して接着できるように技術発展が今も進んでいます。今回は、外部刺激によって接着力を弱め、剥離を容易にする技術についての論文を紹介します。

論文冒頭では、エネルギー使用効率向上の観点から様々な素材を自由に接着する技術は重要であることを論じています。外部刺激によって簡単に剥離できる解体性接着剤についてはリサイクルや修理の促進においてニーズがあり、熱、光、電場、磁場、化学処理によって粘着性を落とす研究が進められてきました。これらの例では外部刺激を与えた後は、外部刺激を遮断しても粘着性が回復することはないので、剥離を容易にしています。ただしその進歩が報告されているものの、機能性接着剤は現状広く普及しているわけではありません。その理由として考えられるのがバルクでの分解が限定的で接着剤全体の挙動を変化させるには多くのエネルギーが必要であることが挙げられます。また接着剤全体が関連するため、高い接着力と剥離性能を両立させることは難しいことが課題としてあります。

次に本文では接着における表面処理について触れており、素材に応じて様々な化合物がプライマーとして使用され、接着性の向上に役立っていることが記されています。プライマーは接着剤と基材の間で薄膜となり、それが分子レベルで接着力に影響を与えています。しかしながら、コーティングプロセスに基づいて接着界面から接着剤の分解をコントロールするテクニックは、まだ開発されていません。そこで本研究では、外部刺激によって化学結合が変化する分子に着目し、化学結合によって接着力を高める効果と、熱や光といった刺激によって化学結合が開裂することで接着力を弱める効果とを併せもつ、解体性プライマーの開発に取り組んだそうです。

目指したプライマーの構造(出典:産総研プレスリリース

では実験の結果に移ります。研究グループでは、先行研究においてアントラセンを使って外部刺激に反応する分子膜を見出しており本研究においても同様の骨格を持つ分子を使用しました。具体的には単量体N-(9-Anthracenecarbonyl)aminopropyltriethoxylsilane (9AC-Si_amide)に405 nmの光を照射し、その反応物をカラムクロマトグラフィーで生成し二量体N-(9-Anthracenecarbonyl)aminopropyltriethoxylsilane dimer (Di9AC-Si_amide) を合成しました。

単量体と二量体の吸収スペクトルの違い(出典:原著論文

次に分子膜の開裂が起きる外部刺激の条件を確認するためにDi9AC-Si_amideを石英に成膜し、180度に加熱か254nmの光を照射しました。加熱の場合、一分後には単量体の吸収ピークが確認され、それ以降スペクトルに変化がなかったので熱に対しては数分で開裂が完結することを確認しました。一方、光の場合にも直ちに単量体の吸収ピークが現れ、5,6分で開裂が完結することを確認しました。ただし長時間の照射により吸収ピークが徐々に小さくなることも確認され、光照射によって副生成物が生成していると考察しています。

成膜方法(出典:産総研プレスリリース

a:加熱 b:光照射した場合の吸収スペクトル(上)の変化、下は366 nmにおける吸光度の処理時間ごとの変化(出典:原著論文

開裂の減少をAFMでも確認しました。シリコンウェハにDi9AC-Si_amideを成膜し加熱か光照射前後で表面粗さを測定しました。すると、高さの減少が確認され、外部刺激によって表面で二量体が単量体に変化したことをこの実験からも確認されました。

a:加熱 b:光照射前後でのAFMでの表面粗さの変化(出典:原著論文

最後に実際に接着力を評価しました。具体的には90度剥離試験にてポリエステルフィルムを石英基板から剥離の際にかかる荷重を測定しました。剝離初期では、接着した試験片の影響で高い荷重がかかっているため、比較には測定中期の荷重を使用しました。

a:試験サンプルの様態 b:剥離試験後の基板の様子 c:剝離強度の変化 d:剝離強度の違い(出典:原著論文

すると外部刺激が無い状態では、Di9AC-Si_amideをプライマーとして使用すると剥離強度が2倍になり、また基板に接着剤が残る結果になりました。プライマーなしでは、基板に接着剤が残ることはなかったので、シラン修飾されたプライマー剤が支えとなり基盤と接着剤を強固に結合していると考察されています。次に外部刺激ありを比べると、プライマーなしでは特に変化は見られず、熱や光そのものが接着力に影響を与えないことが確認されました。一方、プライマーありで180度で一分間加熱した場合は強度が60%減少し、基板にプライマーが残る結果となりました。UV-Visで剥離後の基板の吸収スペクトルを測定するとアントラセン部位の吸収ピークが確認され、Di9AC-Si_amideが開裂して剥離している現象に合理的な証拠となりました。

加熱や光照射後に剥離試験を行った基板の吸収スペクトル(出典:原著論文

プライマーなしとプライマーありで熱を加えた後の剥離強度を比べると後者の方がわずかに低い値を示しています。これは、開裂したアントラセン同士の非共有性の相互作用は、接着剤と基板の相互作用よりも低いと本文中で推測されています。また、最大60%の剝離強度の減少が確認されましたが、外部刺激を与える前の試験ではフィルムから接着剤がはがれてしまった場合から減少であり、より強度の高い接着剤でかつ十分に外部刺激を与えるとその前後でより顕著に差が表れるだろうとコメントしています。光を照射した場合は、33%の剝離強度の減少にとどまり、部分的に接着剤が基板に残る結果になりました。剥離後の基板の吸収スペクトルを確認しても加熱した場合と同様にアントラセン部位の吸収ピークが確認され加熱の場合よりも限定的ですが、Di9AC-Si_amideが開裂して剥離していることが確認されました。光照射において使用したエネルギーを先行研究と比べると、この方法では4–10%にとどまりエネルギー効率の高い方法であることが確認されました。

このような研究成果を見ると産業への応用ばかり考えてしまいますが、熱でも光でも短時間で接着力を弱めることができるのであれば応用できる分野が広く、まさにプラスチックの分別に寄与しリサイクルを加速させる技術だと思いました。冒頭のペットボトルの例においてこの技術が応用されれば、人がわざわざわラベルを剥がすことなくリサイクルプロセスの中で剥離できるようになるかもしれません。電気製品はプラスチックの筐体の中に電子デバイスが収められていて、金属部品が接着剤で固定されている場合もあります。プラスチックが溶ける前に接着剤が弱くなり、分解できるようになれば金属もプラスチックも分別してリサイクルできるようになることも想像できます。

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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