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ケムステニュース

日本で発展する化学向けAIと量子コンピューターテクノロジー

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 日立ハイテクソリューションズは、化学分野における研究開発プロセスの高度化・高効率化に伴い、付加価値の高い新素材の早期市場投入を支援するソフトウエア「Chemicals Informatics」を発売した。(時事通信11月10日)

NEC、 産総研、三井化学、オメガシミュレーション)は、化学プラントなどの大規模インフラの運転を支援する論理思考AIとシミュレータ上に再現したミラープラントを組み合わせた運転支援システムを構築し、運転員の手動操作と比較して40%効率的な運転ができることを三井化学のプラントで実証した。(産総研プレスリリース11月16日)

量子コンピュータのアプリケーション開発などを手掛けるQunaSysは10月20日、量子コンピュータ上で量子化学計算を行うクラウドサービス「QunaSys Qamuy」の試験提供を始めた。将来の機能拡充に向けて企業からフィードバックをもらい、研究開発に反映する。(引用:ITmedia news10月21日)

しばらくケムステニュースを更新できておりませんでしたが、またぼちぼちニュースを紹介したいと思います。

今回は、AIと量子コンピューターについて化学に関連した三つほどのニュースを紹介します。

まず日立ハイテクソリューションズは、Chemicals Informaticsというマテリアルズ・インフォマティクスを行うソフトウェアを発売しました。通常新しい特性を持った化合物を開発する場合には、先行研究を調べて過去の傾向からどんな構造にすればよいのかを人が考えます。そしてその新しい化合物を実際に合成、評価を行い、その結果をもって新しい化合物を考えるのが一般的な材料開発のサイクルです。しかし、数個の新規物質で目的の特性を得ることは難しく、たった一つの新製品を商品化するにも長い年月とリソースが投入されます。そこで機械が要求される特性を持つ新規構造を予測してもらうアプローチが最近よく行われています。もちろん機械は論文は読むことはできませんが、過去の膨大な研究データを蓄積し、分子構造と特性の複雑な傾向を掴むことができ、この傾向を元に希望の特性を持つ化合物を予測することができます。これがマテリアルズ・インフォマティクスであり、大幅な開発時間とリソースを節約することができるため、活発な応用の検討が行われています。

マテリアルズ・インフォマティクスを使った新しい物質、材料を探索する方法の紹介

Chemicals Informaticsでは、既存化合物や新規デザイン化合物、特徴などを入力すると、独自のAIプログラムが1億を超える化合物データを使って有望な化合物の構造を予測し、特性の予測結果や新規構造の提案、関連特許、論文情報などが出力されます。分析する際に、過去のデータは多いほうが精度が良くなりますが、たくさんの過去のデータを人力でまとめるのは困難です。そこで日立ハイテクソリューションズでは、自然言語処理技術を用いて論文や特許から、この1億を超える化合物データをまとめ上げたそうです。AIによる化合物の探索ですが、生物進化を模した独自のAI探索手法で、今までの発想にとらわれない新たな領域の有望化合物の探索が可能としています。ある分野の研究している中で全く異なる分野をヒントに新しい化合物を試すことはなかなかできませんが、Chemicals Informaticsでは、全く新しい発想の構造を提案できるようなAIが組み込まれているようです。また、AIの活用ではパソコンの処理速度も重要であり、Chemicals Informaticsでは、業界最高レベルのNVIDIA社のGPU搭載サーバーを契約者ごとに用意し、計算速度についても抜かりはないようです。

有用な化合物が見つかる確率がこのChemicals Informaticsを使うと1000倍になるとしているため、大幅な時間とコストの削減に役立てるのではないでしょうか。Chemicals Informaticsのサンプル画面などは公開されていませんが、ReaxysやScifinderのように化学者が簡単に使えるようなソフトであることを期待します。また、分野が変われば要求される物性も全く異なるわけであり、どこまでマニアックな物性も検索できるかが気になるところです。

次にAIによる化学プラントの効率化のニュースですが、化学プラントにおける化学品の製造では常に一定で製造しているわけではなく、製造する量が変わったり、製造品が変わることもあります。安全を確保しつつこれらの変化に対応するため、プラントをコントロールするエンジニアは決められた操作を繰り返して徐々に状態を変化させるそうです。しかし、運転変更の試行を繰り返すと原料やエネルギーが無駄になるため、効率化が望まれていました。そこで、AIを用いて安全になるべく早く次の定常状態になる研究が発表されました。

化学プラント運転における本技術の効果(引用:産総研プレスリリース)

まず、AIの種類ですが、強化学習を基本としたアルゴリズムを使用したそうです。プラントの主作業はいろいろなところに設置されているバルブを開閉して流体をコントロールすることですが、一つのプラントには多数のバルブがありシミュレーションが膨大になってしまい、最適な解を得るまでの学習が完了しませんでした。つまり、プラントについて素人の機械が絨毯爆撃的にバルブ操作を改良しようと思っても時間がかかりすぎてできなかったということになります。そこで、プラントの運用マニュアルや配管情報を知識として組み込み、機械が取りうる行動を制約することで探索範囲を絞ったそうです。これにより計算時間を減少させることができました。また、AIが示した操作手順について操作の根拠がないと安全なのかわからずエンジニアが本当に操作してよいのか判断が困難でした。しかし、この研究でマニュアルに紐づいた操作の根拠と想定されるシミュレーション結果を運転員に提示することで、運転員が操作の可否を判断することができるようになりました。結果、生産量を75%に抑えるタスクにおいて人の操作よりも40%高速で定常状態に移行させることが可能になりました。これには、ミラープラントという技術も活用されていて、実プラントから得られる測定値以上のデータを計算することで、より精度の良い計算を行うことができたようです。

実証システム(引用:産総研プレスリリース)

グラフを見る限り、AI操作で細かく生産量が変動しています。マクロでみれば一気に生産量を落としていますが、ミクロでみれば細かい操作によって生産量を変動させているのかもしれません。プラントによっては、一つの設備で日ごとに生産品目を変えている場合もあります。そんなときにAIが生産スケジュールから製造操作までトータルにアシストできるようになれば、現場の負担を減らすことができるようになるのではないでしょうか。

AIによる操作と手動操作の比較(目標状態-黄色い部分-内に30分間入った時点を運転変更完了点として比較 引用:産総研プレスリリース)

最後は、量子コンピューターに関するニュースです。量子コンピューターは、現在のコンピューターの延長でただ速いわけではなく、動く仕組みが全く異なるため、計算が桁違いに早くなります。動く仕組みが異なるということは、走らせるソフトウウェアも量子コンピューターに合わせて設計する必要があり、QunaSysでは、量子化学計算を行うソフトウウェア「QunaSys Qamuy」を開発しました。QunaSys Qamuyを使うことで、量子コンピュータの実機やシミュレーターで量子化学計算アルゴリズムを実行できるそうです。従来のコンピュータ上で行う量子化学計算や、各アルゴリズムとの性能比較などの検証も可能で量子コンピュータ向けのサービスとしては「世界最高性能・最多機能」だそうです。

量子コンピューターの仕組みについてはQunaSysの解説スライドにて詳細に解説されていますが、どの応用についても計算範囲が広がってくると、現在のコンピューターでは処理速度が足りなくなるため、量子コンピューターへの期待が高まっています。例えば、M個の原子にN個の電子を配置する組み合わせは、MCN通りあり、大きな分子になればなるほど、現在のコンピューターでは計算時間が指数関数的に増大します。そんなときに量子コンピューターを使えば、計算量が少なくなり計算の適用範囲が広くなる可能性があります(スライド55ページ)。ただし、何でもかんでも劇的に計算が早くなるわけではなく、特定の系において簡単に応用できることが予想されています(スライド72ページ)。量子コンピューターを使いこなすには、量子コンピューター向けのソフトウェアが必要であり、ハードだけでなくソフトウェアも開発する必要があるようです。QunaSysは戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の光・量子を活用した Society5.0 実現化技術に参画していて、仮想空間と現実空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会の実現に向けた研究を行っているようです。

いずれのニュースも急速に活用が進んでいるコンピューターテクノロジーを利用して、より効率的に化学に関連した研究や製造を進めるものです。昨今の変化が激しい世の中において、研究機関や企業が生き残るためには従来の方法にとらわれずに活用できるものはすべて活用していく必要があると感じます。今後は、化学企業によるAIベンチャー企業の買収なども頻繁に起こるかもしれません。以前のニュースでもコメントしましたが、化学者としてAIや機械学習をすべて理解する必要はないですが、これらの応用を考慮した研究・開発の遂行が求められると考えられます。化学の知識はもちろんのこと、海外とのやり取りに必要な語学力と発言力、発明を権利化する特許の知識、効率よく研究を行うためのAIに関する知識と様々なことに精通することが化学者には求められているようです・

関連書籍

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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