[スポンサーリンク]

N

求核置換反応 Nucleophilic Substitution

[スポンサーリンク]

 

概要

各種の電子豊富な化学種(求核種:Nu)は、求電子剤としての基質を攻撃し、脱離基(L)と置換反応を起こす。これを求核置換反応(Nucleophilic Substitution)と総称する。

脂肪族炭素上における反応の場合、sp3炭素に脱離基を有する基質とは反応する。sp2もしくはsp炭素上に脱離基があっても、特別な場合以外には求核置換を起こすことはない。

芳香族化合物も通常求核置換に対して不活性であるが、電子求引性置換基をもつ芳香環や、ピリジンなどの電子不足複素環などを基質とする場合には、求核置換反応を起こしうる(芳香族求核置換反応)。

カルボニル炭素はsp2混成であるが、カルボニル基の電子求引性ゆえに、求核置換反応を考えることができる(求核的アシル置換)。

基本文献

<Walden Inversion>

  • Walden, P. Ber. 1895, 28, 1287, 2766.
  • Bent, H. A. Chem. Rev. 1968, 68, 587. DOI: 10.1021/cr60255a003

 

反応機構

一般に脱離基Lは、脱離した状態が安定である=その共役酸のpKaが高いほど、性能が良いとされる。たとえば脂肪族求核置換反応におけるハロゲン脱離基の性能序列は、I>Br>Cl>>Fとなる。

脂肪族炭素上の求核置換反応は、以下のように大別される。

①単分子求核置換反応(SN1反応)

・まず脱離基が解離して平面状のカルボカチオン中間体を生じ、そこへひき続き求核剤が反応する二段階的機構で進行する場合、これをSN1反応と呼称する。
・ 一般に脱離基の解離が律速段階である。反応速度は基質の濃度のみに依存し、求核剤の濃度には非依存。1次の反応速度式で表される。
・求核攻撃はカルボカチオンの前背面いずれからも起こりうる。このため、攻撃を受ける炭素の立体化学は一部消失する。
・溶媒はカルボカチオンを安定化に十分な双極子モーメントを持ち、かつ脱離基を溶媒和して安定化できるものが反応を加速させる。果たして水やアルコールなどのプロトン性極性溶媒が好んで用いられる。
・求核剤の性能が低く塩基性の強い場合には、カチオン性中間体からの脱離反応(E1脱離)が競合する。またカチオン性転位反応(Wagner-Meerwein転位)も競合反応の一つ。

SN12_3.gif

・基質が生じるカルボカチオンの安定性が高いほど、SN1反応は起こりやすくなる。すなわち、SN1の反応性は3級>2級>>1級>>メチルとなる。ベンジル位やアリル位などもカルボカチオンを安定化する効果があるため、SN1反応を起こしうる。
・ 級数が高いほどカルボカチオンが安定になる理由は、隣接置換基からの超共役(hyperconjugation)で説明される。すなわち、カルボカチオンの空p軌道の隣接位に、電子の充填されたσ軌道が存在する場合、これが同一平面上に並ぶとσ→pへと電子の流れこみ(非局在化)が起こり得る。置換基の数が多いほど、この効果は大きくなるので、カルボカチオンの安定性は3級>2級>1級>メチルとなる。

SN12_6.gif

②二分子求核置換反応(SN2反応)

・求核試薬の結合と、脱離基の解離が同時(協奏的)に起こる場合、これをSN2反応と呼称する。求核剤・脱離基が中心炭素を挟んで反対方向に位置する、三方両錐型の遷移状態を取る。求核攻撃を受ける炭素の立体化学は反転する(Walden反転)。
・反応速度は基質と求核剤の濃度双方に1次ずつ依存する。すなわち、全体で反応速度は2次の速度式で表される。
・背面が立体的に混み合っていない基質ほど反応が早くなる。すなわち、SN2の反応性はメチル>1級>2級>>3級となる。3級炭素上においては、特別な場合を除きSN2は起こらない。
・溶媒としては、DMFやDMSOといった、非プロトン性極性溶媒が好んで用いられる。カウンターカチオンに溶媒和しつつも、求核剤を溶媒和せず裸のアニオンにすることで、反応性を向上させる効能を持つ。
・求核剤の性能が低く塩基として働いてしまう場合には、脱離反応(E2/E1cb脱離)が競合する。

SN12_2.gif

③分子内求核置換反応(SNi反応)

ある特別な場合には、分子内で求核置換反応が起こる。典型例は塩化チオニルによるアルコールの塩素化である。この場合には脱離と求核攻撃が同じ側から起きるため、立体化学は保持される。求核剤担持型脱離基などを用いる系でも、SNi反応を起こすことが可能。

SN12_4.gif

④アリル位求核置換反応(SN1’/SN2’反応)

アリル位に脱離基をもつ基質での置換反応は、反応点が2通り考えられる。脱離基に対してα位での置換反応を起こす場合は、通常のSN1/SN2反応と同様である。しかし脱離基に対してγ位にあるsp2炭素に対する攻撃も許容である。この場合には2重結合の移動を起こしつつ、脱離基を追い出す形式をが取られる。SN1’/SN2’反応と呼ばれる。

SN12_5.gif

芳香族求核置換、求核的アシル置換に関しては別項を参照。

  • 反応例

超脱離基であるヨードニウムイオンをもつアルケンは、sp2炭素上においても反転を伴って求核置換反応を起こすことが知られている。

SN12_7.gif

実験手順

 

実験のコツ・テクニック

 

参考文献

 

関連反応

 

関連書籍

[amazonjs asin=”551131918X” locale=”JP” title=”Substitution Reaction”]

 

外部リンク

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. チロシン選択的タンパク質修飾反応 Tyr-Selective P…
  2. ファン・ロイゼン試薬 van Leusen Reagent (T…
  3. ボラン錯体 Borane Complex (BH3・L)
  4. tert-ブトキシカルボニル保護基 Boc Protecting…
  5. ガブリエルアミン合成 Gabriel Amine Synthes…
  6. フェリエ転位 Ferrier Rearrangement
  7. 超原子価ヨウ素 Hypervalent Iodine
  8. カバチニク・フィールズ反応 Kabachnik-Fields R…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 並行人工膜透過性試験 parallel artificial membrane permeability assay
  2. ダイセルが開発した新しいカラム: DCpak PTZ
  3. 合成生物学を疾病治療に応用する
  4. 宇宙に漂うエキゾチックな星間分子
  5. 五員環を経て三員環へ!ジ-π-“エタン”転位
  6. BulkyなNHCでNovelなButadiyne (BNNB) アナログの反応
  7. <理研研究員>「論文3本」の実験データ改ざん
  8. 自己治癒するセラミックス・金属ーその特性と応用|オンライン|
  9. 第14回「らせん」分子の建築家ー八島栄次教授
  10. イベルメクチン /Ivermectin

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2011年1月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31  

注目情報

最新記事

水分はどこにあるのか【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか3. 反応操作をし…

「MI×データ科学」コース 〜LLM・自動実験・計算・画像とベイズ最適化ハンズオン〜

1 開講期間2026年5月26日(火)、29日(金) 計2日間2 コースのねらい、特色近…

材料の数理モデリング – マルチスケール材料シミュレーション –

材料の数理モデリング概要材料科学分野におけるシミュレーションを「マルチスケール」で理解するた…

第59回天然物化学談話会@宮崎(7/8~10)

ごあいさつ天然物化学談話会は、全国の天然物化学および有機合成化学を研究する大学生…

トッド・ハイスター Todd K. Hyster

トッド・カート・ハイスター(Todd Kurt Hyster、1985年10月10日–)はアメリカ出…

“最難関アリル化”を劇的に加速する固定化触媒の開発

第 703回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院 理工学府 博士課程前期で…

「ニューモダリティと有機合成化学」 第5回公開講演会

従来の低分子、抗体だけでなく、核酸、ペプチド、あるいはその複合体(例えばADC(抗体薬物複合体))、…

溶融する半導体配位高分子の開発に成功!~MOFの成形加工性の向上に期待~

第702回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理学部(田中研究室)にて助教をされていた秋吉亮平 …

ミン・ユー・ガイ Ming-Yu Ngai

魏明宇(Ming-Yu Ngai、1981年X月XX日–)は米国の有機化学者である。米国パデュー大学…

第55回複素環化学討論会

複素環化学討論会は、「複素環の合成、反応、構造および物性」をテーマとして、化学・薬学・農芸化学など幅…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP