[スポンサーリンク]

odos 有機反応データベース

歪み促進型アジド-アルキン付加環化 SPAAC Reaction

[スポンサーリンク]

アジド-アルキン付加環化(Huisgen付加環化)は多種多様な官能基に直交性を持つため、生体共役反応として用いられる。室温程度での反応加速を達成すべく銅触媒などの添加が必要となるが、得てしてその毒性が問題となり、生細胞系での使用には適していない。

その問題解決を意図してC. R. Bertozziらは、電子不足な歪アルキンを用いるアジド-アルキン付加環化反応(strain-promoted azide-alkyne cycloaddition, SPAAC)を開発した。本反応は銅触媒非存在下に生体条件下でも問題なく進行し、アジド含有タンパク質・細胞などの特異的ラベル化に活用可能であることが実証されている。

歪シクロアルケン―テトラジン逆電子要請型Diels-Alder反応も、同様の目的で用いることができる。こちらの方が反応速度は速い傾向にある。

基本文献

  • Wittig, G.; Krebs, A. Chem. Ber. 1961, 94, 3260. DOI: 10.1002/cber.19610941213
  • Agard, N. J.; Prescher, J. A.; Bertozzi, C. R. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 15046. DOI: 10.1021/ja044996f
  • Baskin, J. M.; Prescher, J. A.; Laughlin, S. T.; Agard, N. J.; Chang, P. V.; Miller, I. A.; Lo, A.; Codelli, J. A. Bertozzi, C. R. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2007, 104, 16793. doi:10.1073/pnas.0707090104
  • Chang, P. V.; Prescher, J. A.; Sletten, E. M.; Baskin, J. M.; Miller, I. A.; Agard, N. J.; Lo, A.; Bertozzi, C. R. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2010 107, 1821. doi:10.1073/pnas.0911116107
  • Nikić, I.; Kang, J. H.; Girona, G. E.; Aramburu, I. K.; Lemke, E. A. Nat. Protoc. 2015, 10, 780. doi:10.1038/nprot.2015.045
<Review>
  • Jewett, J. C.; Bertozzi, C. R. Chem. Soc. Rev. 2010, 39, 1272. doi:10.1039/B901970G
  • Debets, M. F.; van Berkel,  S. S.; Dommerholt, J.; Dirks, A. J.; Rutjes, F. P. T. J.; van Delft, F. L. Acc. Chem. Res. 2011, 44, 805. DOI: 10.1021/ar200059z
  • Escorihuela, J.; Marcelis, A. T. M.; Zuilhof, H. Adv. Mater. Interface 2015, 2, 1500135. DOI: 10.1002/admi.201500135
  • Dommerholt, J.; Rutjes, F. P. J. T.; van Delft, F. L. Top. Curr. Chem. 2016, 374, 16. doi:10.1007/s41061-016-0016-4

原理・反応機構

電子不足かつ歪みエネルギーが大きい(≒sp2炭素豊富骨格に組み込まれた)アルキンほど反応速度が速くなる[1]。大まかなアルキン基質の反応速度は以下の順列[2]に従う。ただし、反応性の高いアルキンは化学的不安定性に懸念があることが多いので注意が必要。

反応例

ダブルNicholas反応によって合成されるヘテロ原子置換型歪シクロアルキンDACNは、SPAAC反応の良い基質となりつつも、化学的に安定である[3]。試薬は市販されている。


BCNは合成および入手が容易で、市販もされているため、多くの事例で活用されている[4]。

実験手順

実験のコツ・テクニック

※AAC反応に用いられる銅-配位子の組み合わせについて各種細胞毒性が調べられており、その毒性については配位子によって大きく変わるとの報告がある[5]。総じてIC50=10~200 μMの範囲にある。

参考文献

  1. Bach, R. D. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 5233. doi:10.1021/ja8094137
  2. Ramil, C. P.; Lin, Q. Chem. Commun. 2013, 49, 11007. DOI: 10.1039/c3cc44272a
  3. Ni, R.; Mitsuda, N.; Kashiwagi, T.; Igawa, K.; Tomooka, K. Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 1190.  DOI: 10.1002/anie.201409910
  4. Dommerholt, J.; Schmidt, S.; Temming, R.; Hendriks, L. J.; Rutjes, F. P.; van Hest, J. C.; Lefeber, D. J.; Friedl, P.; van Delft, F. L. Angew. Chem. Int. Ed. 2010, 49, 9422. doi:10.1002/anie.201003761
  5. Kennedy, D. C.; McKay, C. S.; Legault, M. C. B.; Danielson, D. C.; Blake, J. A.; Pegoraro, A. F.; Stolow, A.; Mester, Z.; Pezacki, J. P. J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 17993. doi:10.1021/ja2083027

関連書籍

[amazonjs asin=”0123822394″ locale=”JP” title=”Bioconjugate Techniques, Third Edition”][amazonjs asin=”3527320857″ locale=”JP” title=”Click Chemistry: In Chemistry, Biology and Macromolecular Science”]

外部リンク

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 光延反応 Mitsunobu Reaction
  2. コーリー・バクシ・柴田還元 Corey-Bakshi-Shiba…
  3. ルーシェ還元 Luche Reduction
  4. カテラニ反応 Catellani Reaction
  5. 野依不斉水素化反応 Noyori Asymmetric Hydr…
  6. ドウド・ベックウィズ環拡大反応 Dowd-Beckwith Ri…
  7. 四酸化ルテニウム Ruthenium Tetroxide (Ru…
  8. ポロノフスキー開裂 Polonovski Fragmentati…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 有機合成化学協会誌2021年10月号:フッ素化反応2010-2020
  2. 癸巳の年、世紀の大発見
  3. 臭素系難燃剤など8種を禁止 有害化学物質の規制条約
  4. V字型分子が実現した固体状態の優れた光物性
  5. 反芳香族化合物を積層させ三次元的な芳香族性を発現
  6. 太陽電池を1から作ろう:色素増感太陽電池 実験キット
  7. 日本国際賞―受賞化学者一覧
  8. 林 雄二郎博士に聞く ポットエコノミーの化学
  9. これならわかる マススペクトロメトリー
  10. ジョン・トーソン Jon S. Thorson

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年11月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  

注目情報

最新記事

ペーパークラフトで MOFをつくる

第650回のスポットライトリサーチには、化学コミュニケーション賞2024を受賞された、岡山理科大学 …

月岡温泉で硫黄泉の pH の影響について考えてみた 【化学者が行く温泉巡りの旅】

臭い温泉に入りたい! というわけで、硫黄系温泉を巡る旅の後編です。前回の記事では群馬県草津温泉をご紹…

二酸化マンガンの極小ナノサイズ化で次世代電池や触媒の性能を底上げ!

第649回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院環境科学研究科(本間研究室)博士課程後期2年の飯…

日本薬学会第145年会 に参加しよう!

3月27日~29日、福岡国際会議場にて 「日本薬学会第145年会」 が開催されま…

TLC分析がもっと楽に、正確に! ~TLC分析がアナログからデジタルに

薄層クロマトグラフィーは分離手法の一つとして、お金をかけず、安価な方法として現在…

先端の質量分析:GC-MSおよびLC-MSデータ処理における機械学習の応用

キャラクタライゼーションの機械学習応用は、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)およびラボオートメ…

原子半径・電気陰性度・中間体の安定性に起因する課題を打破〜担持Niナノ粒子触媒の協奏的触媒作用〜

第648回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科(山口研究室)博士課程後期2年の松山…

リビングラジカル重合ガイドブック -材料設計のための反応制御-

概要高機能高分子材料の合成法として必須となったリビングラジカル重合を、ラジカル重合の基礎から、各…

高硬度なのに高速に生分解する超分子バイオプラスチックのはなし

Tshozoです。これまでプラスチックの選別の話やマイクロプラスチックの話、およびナノプラスチッ…

新発想の分子モーター ―分子機械の新たなパラダイム―

第646回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機反応論研究室 助教の …

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP