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抗体-薬物複合体 Antibody-Drug Conjugate

抗体-薬物複合体(Antibody-Drug Conugate, ADC)とは、モノクローナル抗体(mAb)と低分子医薬(payload)を適切なリンカーを介して生体共役反応(bioconjugation)によって結合した構造を有する医薬群である。

低分子医薬、抗体医薬の良いところを併せ持つ次世代医薬群として、世界中から注目を集めている。

ADCとは何か

低分子医薬に続いて台頭した抗体医薬群は、その有効性から医薬品のトップセールスを席巻するに至った。しかし抗体医薬も万能では無く、数々の欠点を抱えている。たとえば製造に時間と費用がかかること、膜透過性に乏しいため細胞内標的を狙いにくいことなどが代表的問題点である。一方、従来型の低分子医薬はこういった問題が無い一方で標的選択性が低く、副作用や体内動態などが読みづらい問題がある。

ADCはこの問題を解決しうるハイブリッド医薬品である。すなわち、抗体を標的の精密認識・デリバリー機能を担当する部位として使い、実質的な薬効(抗ガン作用が多い)は低分子医薬に担わせるというコンセプトで設計されている。

ADCは主に3つの要素から構成される。

①抗体
②共有結合性リンカー
③低分子医薬

これらは投与~血中循環の間、安定に存在することが求められる。細胞表面の抗原に結合した後は、エンドサイトーシスや輸送過程によってリソソームに取り込まれ、抗体およびリンカーの切断を伴って低分子医薬が放出される。

市場性

2016年3月までに上市されたADCは3種存在(下記)し、およそ40以上のADCが臨床試験段階にある[2]。がん治療目的で開発されているものがほとんどである。その市場は2018年までにおよそ30億ドル以上に成長すると試算されており、次世代医薬群としては最も大きな注目を集める一つである。

  • ミロターグ(Mylotarg):オゾガマイシンを結合させた、2000年にファイザー/ワイスの共同開発によって上市されたADC。2010年に撤退。
  • カドサイラ(Kadocyla):ヒト化抗体トラズツマブ(ハーセプチン)に非開裂性リンカーを介して強力な抗ガン低分子医薬エムタンシンを結合させている。2013年米国FDA承認。ロシュ社とジェネンテェック社の共同開発。
  • アドセトリス(Adcetris):キメラ抗体ブレンツキシマブに対し、プロテアーゼ感受性リンカーを介して微小管阻害薬モノメチルアウリスタチンEを結合させている。ホジキンリンパ腫の治療薬として2013年承認。シアトルジェネティクス(武田製薬が買収)社とミレニアム社の共同開発。
文献[3b]より引用

文献[3b]より引用

課題

【医薬結合位置と結合数の制御】

品質管理の観点から、位置選択的かつ医薬/抗体比(Drug antibody ratio, DAR)を制御しつつ医薬を結合できるような化学反応の使用が求められている。

抗体に低分子医薬が結合する場所次第で、ADCの薬物動力学が変化しうることが示されている。たとえば溶媒接触度の低い領域に低分子医薬を結合させると、リンカー切断速度が遅くなるため、応じて薬物放出速度も遅くなる。

既存のADCは、リジンやシステインを標的とした共役反応を用いて製造されている。この技術に頼る必然としてDARが制御されない不均質なものしか作れないが、DAR分布を一定範囲に収めることで品質を担保している。たとえばカドサイラは表面リジン残基に対して平均3.5個、アドセトリスは表面システイン残基に対して平均4つの低分子医薬を結合させた構造を取っている(上図)。

より均質性の高いADC創製を目的とした技術として、非天然アミノ酸の組み込みによる選択的生体共役反応、遺伝子改変による遊離システインの導入(THIOMAB法)、N末端や遊離システインを含む配列からアルデヒドを露出させて共役反応の足がかりとする方法(SMARTag法)、酵素によるライゲーション法などが提案されている。

【リンカー分解速度の制御】

リンカー構造は薬効に大きく影響を与える。体内環流時には結合が保たれるが、標的到達後には速やかに切断され小分子医薬を放出する程度の結合力で無くては成らない。この事情からリンカー構造の最適化がADC開発における重要なポイントとなる。

たとえばジスルフィド型リンカーの場合、その周りの立体障害を適度に調節することで、切断されやすさ(薬物放出速度)を制御することができる。ミロターグのジスルフィド隣接位にあるgem-ジメチル基は、還元的環境における切断速度を立体障害により適度に抑える働きをしている。

【医薬担持密度の向上】

Cys法に依る限りDARが概して8未満に留まるため、担持可能な低分子薬量は限られる。この事情を反映して、ADCには非常に強力(sub-nM活性)な低分子薬が使われる。薬物動態に影響を与えずに、より多数の小分子医薬を担持できる方法論は、この縛りを越えることが可能である。たとえばデンドリマー型リンカーを用いることで解決を意図した研究例も存在する。

【結合位置周辺への薬効発現】

抗ガン剤を担持させたADCは結合したがん細胞のみ殺すが、そのまわりにもダメージを与えることができればより治療効果が高くなる。放射性元素を担持することでこれが達成される(クロスファイア-効果)。しかし抗体は体内滞留期間が長いため、投与~標的集積までに生じる非選択的被曝が問題となる。

ADCに関するケムステ記事

関連動画

関連文献

  1.  “モノクローナル抗体医薬品の現状と将来展望” 山口照英 Bull. Natl. Inst. Health Sci. 2014, 132, 36.
  2. “Maturing antibody–drug conjugate pipeline hits 30” Mullard, A. Nat. Rev. Drug Discov. 2013, 12, 329. doi:10.1038/nrd4009
  3. Representative reviews for ADC: (a) “Antibody−Drug Conjugates: Linking Cytotoxic Payloads to Monoclonal Antibodies” Ducry, L.; Stump, B. Bioconjugate Chem. 2010, 21, 5. DOI: 10.1021/bc9002019 (b) “Chemistry of Antibody–Small Molecule Drug Conjugates” Garbaccio, R. M. Comp. Org. Syn. II, Vol 9, Capter 9.17 doi:10.1016/B978-0-08-097742-3.00942-3 (c)“Antibody-Drug Conjugates: An Emerging Concept in Cancer Therapy” Chari, R. V. J.; Miller, M. L.; Widdison, W. C. Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, 3796. DOI: 10.1002/anie.201307628
  4. Representative reviews of bioconjugations for ADC:  (a) “Construction of Homogeneous Antibody-drug Conjugates using Site-selective Protein Chemistry”Akkapeddi, P.; Azizi,S.-A.; Freedy, A.; Cal, P, M, S, D.; Gois, P.M.P.; Bernardes, G. J. L. Chem. Sci. 2016, DOI: 10.1039/C6SC00170J (b) “Site-Specific Antibody−Drug Conjugates: The Nexus of Bioorthogonal Chemistry, Protein Engineering, and Drug Development” Agarwal, P.; Bertozzi, C. R. Bioconjugate Chem. 2015, 26, 176. DOI: 10.1021/bc5004982 (d) “Recent advances in the construction of antibody–drug conjugates” Chudasama, V.; Maruani, A.; Caddick, S. Nat. Chem. 2016, 8, 114. doi:10.1038/nchem.2415

関連書籍

外部リンク

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。 関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。 素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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