[スポンサーリンク]

ケムステニュース

マスクの効果を実験的に証明した動画がYoutubeに公開

[スポンサーリンク]

慶應大学理工学部の奥田知明教授は、様々な素材のマスクを使って実験を行い、空気中の粒子を除去する効果を検証した。(引用:タイムアウト東京4月16日)

昨今の状況によりマスクに関する話題は絶えませんが、その中でもマスクの素材によるウィルスをブロックする性能の差については様々な議論があります。不織布マスクのウィルス補集率は布マスクよりも優れていることは確かですが、不織布マスクは売り切れていることが多く、政府から支給されるマスクも布マスクです。さらに単に布マスクといっても生地の種類や厚さによってウィルスの補集率が変わることは容易に想像できます。

そんな中、慶應大学理工学部の奥田知明教授は、粒子数を測定できる装置を使ってマスクが捕捉できる粒子の測定を行い、Youtubeで実験の結果を公開する試みを行っています。様々な角度からマスクの効果を検証し、現在までに8本の動画が公開されていますが、どれも実験的にマスクの性能を評価していて興味深い内容になっています。基本的な手順はどの動画でも同じで、空気中の粒子の数を粒径別に測定できる装置を使ってマスクを通過する粒子の数とバックグラウンドを測定し補集率を算出しています。

素材による粒子補集率の違い

マスク、ペーパータオル、床掃除用ごみ吸着シート、ハンカチ、マフラーで粒子の捕集率の違いを比べています。ペーパータオルやハンカチでも何層かに重ねるとマスク並みの捕集率があるということが示されています。布マスクは無意味であるという意見もありますが、この実験により少なくともマスクと同等の粒子の捕集する能力は持っていることがわかります。クッキングペーパーをマスクの中に挟むと効果が増すことも合理的であると証明されていますが、厚手でフワフワしたクッキングペーパーは捕集する能力が低いことが驚きです。

マスクからの漏れの確認

マスクのわきからどれだけ漏れているのかも検証されています。人間の顔の形は三次元の曲線であり、いくら密着させてもマスクのわきから漏れてしまうことが確認できます。先生自ら顔に両面テープを張って実験してもあまり効果がなく、「けっこう粒子とれないものですね」と空笑いされているのが印象的です。マスクの密着度を向上させる商品の検証では一定の効果が示されており、マスクを着用する習慣ができたからこそ、より効果的にするためにこのような商品が普及されればと思います。また、N95マスクの効果は絶大で圧倒的な捕集能力が証明されています。一方でマスクが人間が吐き出す空気からは粒子をある程度捕集できていて、ウィルスにかかった時にマスクをつけることの意義はやはり大きいようです。

マスクを洗濯した時の影響

使い捨てマスクを洗って再利用する試みも行われているため、先生が自宅で洗濯し効果を検証されています。結果、小さい粒子の捕集率が低下したため、洗って繰り返し使う際には、キッチンペーパーを入れることをお勧めしています。

先生のご専門は環境化学であり、PM2.5といった微小な粒子に関連する研究を行っていて、最近では地下鉄駅構内のPM2.5が高いことを報告しています。そのため粒子のスペシャリストとして、マスクのフィルター能力を検証する実験を行ったようです。

マスクを通過する粒子の計測には、レーザの散乱光を使って調べる気中パーティクルカウンターと、荷電された粒子の移動度によって粒子径の分布を測定する走査型移動度粒径測定装置が使われています。

実験で使われている気中パーティクルカウンター(出典:リオン株式会社

実験で使われている走査型移動度粒径測定装置(出典:東京ダイレック株式会社

マスクの漏れについては、専用の装置を使って確認しています。どちらの装置でもマスクを着用した状態の内外の粒子数を同時に測定してどれだけの粒子がマスクを通過しているのかを測定しています。

労研式マスクフィッティングテスター MT-05U型(出典:SIBATA

PORTACOUNT RESPIRATOR FIT TESTER 8048 KIT(出典:TSI

布やペーパータオルの捕集効果が示されており不織布以外のマスクでも一定の効果があることが言えます。しかしながら人間が吸い込む空気をフィルターする能力は高いとは言えず、マスクが感染の予防にならないこともこの実験から証明されています。そのため、コロナウィルス感染拡大を食い止める策としては人の接触を最小限にすることが最も効果的であることは確かです。マスク以外にもいろいろな保護具がありますが、代替を使用してまでも効果があるのかは気になるところであり、何らかの実験的な評価によって効果が確認され、正しく使われるようになることを期待します。

関連書籍

[amazonjs asin=”4621081772″ locale=”JP” title=”濾過工学ハンドブック”] [amazonjs asin=”4882318393″ locale=”JP” title=”機能性不織布の開発 (CMCテクニカルライブラリー)”]

コロナウィルスに関連するケムステ過去記事

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 武田薬の糖尿病治療薬、心臓発作を予防する効果も
  2. エーザイ 巨大市場、抗ガン剤開発でライバルに先行
  3. ダイセル化学、筑波研をアステラス製薬に売却
  4. 東亜合成と三井化学、高分子凝集剤の事業統合へ
  5. 「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律施行令の一部を改正す…
  6. 炭素ボールに穴、水素入れ閉じ込め 「分子手術」成功
  7. 米デュポン株、来年急上昇する可能性
  8. ブドウ糖で聴くウォークマン? バイオ電池をソニーが開発

注目情報

ピックアップ記事

  1. マシュー・ゴーント Matthew J. Gaunt
  2. ゼナン・バオ Zhenan Bao
  3. 異なる“かたち”が共存するキメラ型超分子コポリマーを造る
  4. 天秤で量れるのは何mgまで?
  5. 2018年1月20日:ケムステ主催「化学業界 企業研究セミナー」
  6. 上村大輔教授追悼記念講演会
  7. 2009年1月人気化学書籍ランキング
  8. 【ワイリー】日本プロセス化学会シンポジウム特典!
  9. ヘテロカンシラノール
  10. トムソン:2006年ノーベル賞の有力候補者を発表

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年4月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP