[スポンサーリンク]

A

交差アルドール反応 Cross Aldol Reaction

[スポンサーリンク]

 

概要

LDAなどの強塩基によってドナー側カルボニル化合物のα位を完全に脱プロトン化させ、金属エノラートを前調製し、自己縮合を抑えて交差アルドール体を得る方法。エノラートの幾何異性に応じて、立体特異的にアルデヒド及びケトンと反応し、syn/anti-アルドール体を与える。

トランスメタル化により、Li、Na、Mg、Zn、B、Al、Tiなど様々な金属種を用いることができるが、中でもシリルエノラートとスズエノラートは単離精製が可能である。特にルイス酸条件下にシリルエノラートをアルドール付加させる反応を向山アルドール反応と呼ぶ。

全合成におけるフラグメントカップリング反応として用いられる例も少なくない。他の例や詳細は文献・Reviewを参照。

基本文献

<review>
・Mukaiyama, T. Org. React. 1982, 28, 203. DOI: 10.1002/0471264180.or028.03
・Heathcock, C. H. Comprehensive Organic Synthesis 19912, 133.
・Kim, B. M. et al. Comprehensive Organic Synthesis 19912, 239.
・Paterson, I. Comprehensive Organic Synthesis 19912, 301.
・Machajewski, T. D.; Wong, C.-H. Angew. Chem. Int. Ed. 200039, 1352. [abstract]
・Palomo, C.; Oiarbide, M.; Garcia, J. M. Chem. Eur. J. 20028, 36. [abstract]
・Mahrwald, R. ed. Modern Aldol Reactions Wiley-VCH, 2004
・Palomo, C.; Oiarbide, M.; Garcia, J. M. Chem. Soc. Rev. 2004, 33, 65. DOI: 10.1039/b202901d
・Schetter, B.; Mahrwald, R. Angew. Chem. Int. Ed. 200645, 7506. doi:10.1002/anie.200602780

反応機構

Zimmerman-Traxler六員環遷移状態モデル(J. Am. Chem. Soc. 195779, 1920)が立体化学を上手く説明するモデルとして受け入れられている。アルデヒドの置換基はequatorialを向く遷移状態が安定であるとされ、エノラートの幾何異性に依存して生成物の立体化学は決定される。すなわち、Z-エノラートからはsyn体、E-エノラートからはantiのアルドール化合物が得られる。

一般にM-O結合が強い金属(ハードでキレート能のある金属)を用いれば六員環遷移状態がtightになり、立体選択性は向上する傾向にある。
on-ol-001
HMPAのようにリチウムなどの金属と強く配位する配位性溶媒を加えると、金属エノラートの分極が高まり反応性が向上する。一方で六員環遷移状態をとることができなくなる(線形遷移状態を取る)ため、選択性は逆転し、基質に依存するようになる。

 

反応例

置換基を持つケトンのエノラートの生成においては、その位置選択性が通常問題となるが、熱力学的/速度論的支配の条件選択により高度にコントロール可能なことも少なくない。
cross_aldol_3
ホウ素エノラートはB-O結合の短さゆえtightな六員環遷移状態をとり、リチウムエノラートよりも立体選択性が高くなる。
cross_aldol_4
ホウ素エノラートは、使用する試薬を選ぶことでE/Z体の作り分けが可能である。[1] cross_aldol_5
Merrilactone Aの合成[2]:非対称化分子内アルドール反応の応用。
cross_aldol_6.gif
カルボニル化合物の一方がエノラートを生じない場合(たとえばHCHOやArCHO、Ar2COなど)、交差アルドール反応が容易に起こる。(Claisen-Schmidt反応) [3] cross_aldol_7.gif

実験手順

 

実験のコツ・テクニック

 

参考文献

  1.  Brown, H. C.; Dhar, R. K.; Bakshi, R. K.; Pandiarajan, P. K.; Singaram, B. J. Am. Chem. Soc. 1989, 111, 3441. DOI: 10.1021/ja00191a058
  2.  (a) Inoue, M.; Sato, T.; Hirama, M. Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 4843. doi:10.1002/anie.200601358 (b) Inoue, M.; Lee, N.; Kasuya, S.; Sato, T.; Hirama, M.; Moriyama, M.; Fukuyama, Y. J. Org. Chem. 2007, 72, 3065. DOI: 10.1021/jo0700474
  3.  (a) Schmidt, J. G. Ber. 1880, 13, 2342. (b) Claisen, L. Ber. 1890, 23, 976.

 

関連反応

 

関連書籍

[amazonjs asin=”3527332057″ locale=”JP” title=”Modern Methods in Stereoselective Aldol Reactions”][amazonjs asin=”3527318968″ locale=”JP” title=”Modern Carbonylation Methods”][amazonjs asin=”0198559577″ locale=”JP” title=”Stereoselectivity in Organic Synthesis (Oxford Chemistry Primers, 63)”]

 

関連リンク

関連記事

  1. メリフィールド ペプチド固相合成法 Merrifield Sol…
  2. 細見・櫻井アリル化反応 Hosomi-Sakurai Allyl…
  3. 均一系水素化 Homogeneous Hydrogenaton
  4. ショッテン・バウマン反応 Schotten-Baumann Re…
  5. エルマンイミン Ellman’s Imine
  6. トロスト酸化 Trost Oxidation
  7. バートン・ケロッグ反応 Barton-Kellogg React…
  8. デーブナー・フォン=ミラー キノリン合成 Doebner-von…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 化学大手2014年4–9月期決算:概して増収増益
  2. 長井長義の日記など寄贈 明治の薬学者、徳島大へ
  3. ルィセンコ騒動のはなし(後編)
  4. 留学せずに英語をマスターできるかやってみた(7年目)(留学後編)
  5. 実験でよくある失敗集30選|第2回「有機合成実験テクニック」(リケラボコラボレーション)
  6. スティーブ・ケント Stephen B. H. Kent
  7. 有機硫黄ラジカル触媒で不斉反応に挑戦
  8. 奇妙奇天烈!植物共生菌から「8の字」型の環を持つ謎の糖が発見
  9. アゾ化合物シストランス光異性化
  10. ディールス・アルダー反応 Diels-Alder Reaction

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2009年6月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

7th Compound Challengeが開催されます!【エントリー〆切:2026年03月02日】 集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

メルク株式会社より全世界の合成化学者と競い合うイベント、7th Compound Challenge…

乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

大森 建 Ken OHMORI

大森 建(おおもり けん, 1969年 02月 12日–)は、日本の有機合成化学者。東京科学大学(I…

西川俊夫 Toshio NISHIKAWA

西川俊夫(にしかわ としお、1962年6月1日-)は、日本の有機化学者である。名古屋大学大学院生命農…

市川聡 Satoshi ICHIKAWA

市川 聡(Satoshi Ichikawa, 1971年9月28日-)は、日本の有機化学者・創薬化学…

非侵襲で使えるpH計で水溶液中のpHを測ってみた!

今回は、知っているようで知らない、なんとなく分かっているようで実は測定が難しい pH計(pHセンサー…

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP