[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

(–)-Daphenezomine AとBの全合成

[スポンサーリンク]

ユズリハアルカロイドである(–)-Daphenezomine AとBの初の全合成が達成された。複雑なアザ-アダマンタン骨格をHAT-ラジカル環化反応で構築したことが合成の鍵となっている。

ユズリハアルカロイド

ユズリハから得られるユズリハアルカロイドは複雑な多環式骨格で構成されており、抗がん、抗HIV、抗酸化作用など様々な生物活性を示す。これまでにHeathcockなど多くの合成化学者がユズリハアルカロイドの合成法を編み出してきた[1]
ユズリハアルカロイドに属するdaphenezomine A型アルカロイドは、高度に縮環した環構造に加え、珍しいアザ-アダマンタン骨格を特徴とする。現在までにdaphenenzomine A(1)とdaphenezomine B(2)、dapholdhamine B(3)の3種のみが発見されており、12はいずれもヘミアミナール架橋構造をもつ。3の不斉全合成は2019年にXuらによって達成された[2]。アザマイケル反応とアミドの活性化による渡環反応によって、鍵となるアザ-アダマンタン骨格を構築した。しかし、1および2は1999年に小林らによって単離されて以来、全合成の報告はされていなかった[3]
今回、北京生命科学研究所のLiらはラジカル環化反応(54)、鈴木–宮浦カップリング(76)、8の酸化的環化反応(87)を利用した合成戦略を立案し、12の合成を14工程で達成した。

図 1. Daphnezomine A型アルカロイドの合成と本研究

 

“Total Synthesis of ()-Daphnezomines A and B”
Xu, G.; Wu, J.; Li, L.; Lu, Y.; Li, C. J. Am. Chem. Soc. 2020, 142, 15240–15245.
DOI: 10.1021/jacs.0c06717

 

論文著者の紹介

研究者:Chao Li (研究室HP)
研究者の経歴:
2004–2008 B.S., Qingdao University of Science and Technology, China (Prof. Fengke Yang)
2008–2013 Ph.D., National Institute of Biological Science, China (Prof. Xiaoguang Lei)
Tianjin University, China
2013.7–2014.9 Postdoc., National Institute of Biological Science, China (Prof. Xiaoguang Lei)
2014.10–2017.10 Postdoc., The Scripps Research Institute, USA (Prof. Phil S. Baran)
2017.11– Assistant Investigator, National Institute of Biological Sciences, China
研究内容:生理活性分子および天然物の全合成、反応開発

論文の概要

(S)-(+)-カルボン(8)を出発原料とし、ロジウム/アルミナ存在下水素添加、続くSharplessアリル位アミノ化反応により9を得た。アリル基を導入した後、Pd触媒存在下酸化的に環化することで、アザビシクロ[3,3,1]ノナン6を合成した。ケトンをアセタール保護し、12のconvex面の立体障害を増大させることで、ヒドロホウ素化がC6位ジアステレオ選択的に進行した。その後、(R)-13との鈴木・宮浦カップリングで14が得られた。TFAとNaOHを作用させ、生成したケトン15をグリニャール反応に付し、中間体17へと導いた。アザビシクロ骨格のトシル基をBoc基に変換し、C11位アルコールの酸化、Burgess試薬を用いる脱水反応を経て、所望の18を合成した。Bobbitt塩での酸化的開裂[4]、続くTMSジアゾメタンによるエステル化、TFAでのBoc基除去を経て19が得られた。
ここで、著者らは19の6-endo-trig環化反応が進行しないかと考えた。そこで、ルイス酸によるエン環化、アニオンの共役付加、およびHAT-ラジカル共役付加の三つの手法を試みた。その結果、ルイス酸および塩基を用いた場合には、目的の環化反応は進行しなかった。この原因として、著者らはC8位の立体障害を考えている。しかし、鉄触媒を用いると、HAT-ラジカル共役付加環化反応の進行が確認できた[5]。種々条件を検討したところ、THF/メタノール溶媒中、19とFe(acac)3、Ph(iPrO)SiH2を高希釈条件下で反応させることで、目的の20が得られた。20に対しTFAを作用させることで、ヘミアミナールを構築し所望の1を得た。またTMSジアゾメタンを作用させメチル化することで2の全合成も達成した。

図 2. (–)-Daphnezomine Aおよび(–)-daphnezomine Bの全合成

 

以上、12の全合成が達成された。本合成経路で用いたアザビシクロ骨格構築法は今後他のユズリハアルカロイドの合成にも応用できることが期待される。

参考文献

  1. Chattopadhyay, A. K.; Hanessian, S. Recent Progress in the Chemistry of Daphniphyllum Alkaloids. Chem. Rev. 2017, 117, 4104–4146. DOI: 10.1021/acs.chemrev.6b00412
  2. Guo, L.-D.; Hou, J.; Tu, W.; Zhang, Y.; Zhang, Y.; Chen, L.; Xu, J. Total Synthesis of Dapholdhamine B and Dapholdhamine B Lactone. J. Am. Chem. Soc.2019, 141, 11713–11720. DOI: 10.1021/jacs.9b05641
  3. Morita, H.; Yoshida, N.; Kobayashi, J. Daphnezomines A and B, Novel Alkaloids with an Aza-adamantane Core from Daphniphyllum humile. J. Org. Chem. 1999, 64, 7208–7212. DOI: 10.1021/jo990882o
  4. (a) Pradhan, P. P.; Bobbitt, J. M.; Bailey, W. F. Oxidative Cleavage of Benzylic and Related Ethers, Using an Oxoammonium Salt. J. Org. Chem. 2009, 74, 9524−9527. DOI: 10.1021/jo902144b (b) Merbouh, N.; Bobbitt, J. M.; Brückner, C. Preparation of Tetramethylpiperidine-1-Oxoammouium Salts and Their Use as Oxidants in Organic Chemistry. A Review. Org. Prep. Proced. Int. 2004, 36, 1−31. DOI: 10.1080/00304940409355369
  5. Crossley, S. W. M.; Obradors, C.; Martinez, R. M.; Shenvi, R. A. Mn-, Fe-, and Co-Catalyzed Radical Hydrofunctionalizations of Olefins. Chem. Rev.2016, 116, 8912−9000. DOI: 10.1021/acs.chemrev.6b00334

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. 創薬に求められる構造~sp3炭素の重要性~
  2. 有機合成化学協会誌2023年9月号:大村天然物・ストロファステロ…
  3. 大学入試のあれこれ ①
  4. 目が見えるようになる薬
  5. 米国へ講演旅行にいってきました:Part I
  6. 日本プロセス化学会2019 ウインターシンポジウム
  7. サイエンスアゴラの魅力-食用昆虫科学研究会・「蟲ソムリエ」中の人…
  8. アラインをパズルのピースのように繋げる!

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 旭化成 繊維事業がようやく底入れ
  2. 構造の多様性で変幻自在な色調変化を示す分子を開発!
  3. 未来切り拓くゼロ次元物質量子ドット
  4. リアル「ブレイキング・バッド」!薬物製造元教授を逮捕 中国
  5. 実験室の笑える?笑えない!事故実例集
  6. 界面活性剤のWEB検索サービスがスタート
  7. スティーブン・ジマーマン Steven C. Zimmerman
  8. 理系のための口頭発表術
  9. NHKアニメ『エレメントハンター』 2009年7月スタート!
  10. 홍 순 혁 Soon Hyeok Hong

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年10月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

実験条件検討・最適化特化サービス miHubのメジャーアップデートのご紹介 -実験点検討と試行錯誤プラットフォーム-

開催日:2023/12/13 申し込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の…

カルボン酸β位のC–Hをベターに臭素化できる配位子さん!

カルボン酸のb位C(sp3)–H結合を直接臭素化できるイソキノリン配位子が開発された。イソキノリンに…

【12月開催】第十四回 マツモトファインケミカル技術セミナー   有機金属化合物 オルガチックスの性状、反応性とその用途

■セミナー概要当社ではチタン、ジルコニウム、アルミニウム、ケイ素等の有機金属化合物を“オルガチッ…

保護基の使用を最小限に抑えたペプチド伸長反応の開発

第584回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院 薬学系研究科 有機合成化学教室(金井研究室)の…

【ナード研究所】新卒採用情報(2025年卒)

NARDでの業務は、「研究すること」。入社から、30代・40代・50代……

書類選考は3分で決まる!面接に進める人、進めない人

人事担当者は面接に進む人、進まない人をどう判断しているのか?転職活動中の方から、…

期待度⭘!サンドイッチ化合物の新顔「シクロセン」

π共役系配位子と金属が交互に配位しながら環を形成したサンドイッチ化合物の合成が達成された。嵩高い置換…

塩基が肝!シクロヘキセンのcis-1,3-カルボホウ素化反応

ニッケル触媒を用いたシクロヘキセンの位置および立体選択的なカルボホウ素化反応が開発された。用いる塩基…

中国へ行ってきました 西安・上海・北京編①

2015年(もう8年前ですね)、中国に講演旅行に行った際に記事を書きました(実は途中で断念し最後まで…

アゾ重合開始剤の特徴と選び方

ラジカル重合はビニルモノマーなどの重合に用いられる方法で、開始反応、成長反応、停止反応を素反応とする…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP