[スポンサーリンク]

日本人化学者インタビュー

第38回「材料の励起状態制御に挑む」嘉部量太 准教授

[スポンサーリンク]

さて第38回を迎えた研究者へのインタビュー。

今回インタビューをお願いしたのは、つい最近、沖縄科学技術大学院大学(OIST)に有機光エレクトロニクスユニットのPIしてご異動されたばかりの嘉部 量太先生です。嘉部先生は、有機蓄光材料の研究を精力的に進められています。第三回ケムステVシンポジウム「若手化学者、海外経験を語る」では、最新の有機蓄光材料研究はもちろんのこと、海外ポスドク時代のお話や、普段中々聞く機会の少ないOISTの国際的研究環境についてご講演いただく予定です。OISTは近年、Nature index の正規化ランキング(機関の規模で正規化したもの)において、質の高い研究論文の発表数ランキングにトップ10入りするなど、国内外から非常に注目が高まっています。

ご講演いただくタイトルは、ズバリ「国内留学(OIST)という選択肢」です!留学というのは、海外に限らない、という枠にとらわれない斬新なお言葉、流石です。これからOISTへの進学を検討している学生さん、OISTで働いてみたいという人、共同研究を検討したいという企業の方、OISTでの研究生活ってどんなだろう?と興味を持っている人など、幅広い層からの興味にきっと応えていただける講演でしょう。

またとない機会ですので、インタビューもお願いさせていただきました。それではインタビューをお楽しみください!

Q. あなたが化学者になった理由は?

色々な巡りあわせがあったからだと思います。小学校の理科の実験は好きでしたが、特に大きな目標があったわけではなく、普通に大学を出て会社員になると思っていました。大学で化学を選んだのも他の教科よりは好きだったから程度の理由です。

大学で化学を学ぶうちに楽しくなり、研究職を目指して大学院に進学しましたが、アカデミアでの化学者というものを真剣に考えたのは海外ポスドクを終えた後です。自身がアカデミアで活躍できると思えず、D2になると就活も結構していました。たまたまアメリカでのポスドクの話を頂き、海外経験なら就職するとなっても生かせるし、面白い発見があればアカデミアを考えればいいかと軽い気持ちで海外生活が始まりました。その後ドイツに移りますが、予想通りPDの期間に目立った成果も出せずに帰国し、そろそろ就職しようかとしていたタイミングで安達先生からERATOの話を頂きました。これを引き受けた時が覚悟を決めた時でしょうか。

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

願望だけであれば宇宙を見てみたいので宇宙飛行士。世界を旅する風景写真家などもいいですね。世界には見たことのない景色が沢山あるのでそういったものに触れてみたいです。今だったらGoogle Map一つで全部終わりそうですけど。

Q. 現在、どんな研究をしていますか?また、どのように展開していきたいですか?

現在は材料の励起状態を制御する研究に取り組んでいます。究極は、励起状態のエネルギーを好きなタイミングで、好きなだけ、好きな場所から、好きな形で取り出すことだと考えています。

一般的な発光過程を考えると、分子が光のエネルギーを吸収した後、どれぐらいの速度と割合で発光として取り出せるか(放射速度・発光量子効率)、どのような発光色を示すか(発光波長)は、分子の骨格と置かれた環境(温度や溶媒、凝集様式など)に依存します。逆に言えば材料と環境が決まってしまえば我々が制御できる点はあまりありません。また、一般的な蛍光材料の場合、光を吸収して発光するまではナノ秒(10-9 s)オーダーの現象であり、速い時間領域になるほど短パルス光やパルス電流などアクセスできるツールが限定されていきます。

この発光過程・励起状態をアクティブに制御するために、我々はエネルギーを持った状態が減らない技術(貯める技術)と制御する技術に取り組んでいます。前者に対しては、励起状態から一時的に電荷の状態に変換することで、減少する時間をナノ秒(10-9 s)オーダーから数時間(103 s)オーダーまで遅くすることに成功しています。この成果は有機物を用いた蓄光材料として報告していますが、元をたどれば、「発光しないプロセスが無くなればどんな材料でも光って材料開発が簡単になるのに」といった単純なモチベーションからスタートしています。まだ、減る時間が遅くなっただけで貯まるとまでは言えませんが、この技術を発展させることで保持できるような系を実現したいと考えております。

後者に対しては、減衰のスケールが103 sオーダーになったことで、これまでの速い領域では利用できなかった外部刺激が利用できるようになります。それこそ手で叩く(力学刺激)やゆっくり温める(熱刺激)など、我々に身近なツールも制御因子として使うことが可能になると考えています。エネルギーの保持・制御・取り出しの技術体系を確立し、自由に扱えるような未来を目指しています。

もう一つはより実用的な方面で、我々が開発した蓄光材料を実用レベルまで発展させるための研究を進めています。2017年に基本概念を発表後、発光メカニズムの解明や材料開発を進め、発光材料設計に重要な因子の解明や発光色の制御方法、柔軟性や成膜性など物性・プロセスの改善を進めております。まだ発光強度や酸素耐性など課題も多く残されていますが、いずれも解決可能な課題だと考えています。

Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

最も人々の生き方に影響を与えているであろうという点で、イエスキリスト、ブッダ、ムハンマドを挙げます。信仰とはなにか、ここまで信仰が普及すると考えていたのかなど、聞いてみたいことはたくさんあります。数々のエピソードが現代科学で説明できるのかも気になります。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

先月初旬に蓄光の温度変化測定装置を立ち上げて簡単な発光測定を行いました。それ以降は新型コロナのせいもあって研究室の立ち上げが進んでおりません。まだ研究室のメンバーも少ないため、増えるまでは実験する時間が取れそうです。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

動植物図鑑を持って行って砂漠の動物・植物を観測したいですね。砂漠のような極限環境に適応した生物はどれもユニークなので。深海生物などもそうですが、あまりにユニークな形を見ると、本当に進化だけで説明できるのか疑いたくなってしまいます。

[amazonjs asin=”4811321383″ locale=”JP” title=”密着!動物たちの24時間―サハラ砂漠編”] [amazonjs asin=”4773086661″ locale=”JP” title=”深海生物 – 奇妙で楽しいいきもの – (DVD付き)”]

Q. 次にインタビューをして欲しい人を紹介してください。

金 有洙先生(理研)
山東 信介先生(東京大学)
畠山 琢次先生(関西学院大学)

関連リンク

嘉部准教授の略歴

Ryota Kabe

名前:嘉部 量太
所属: 沖縄科学技術大学院 有機光エレクトロニクスユニット
専門: 材料科学、有機光エレクトロニクス
略歴: 2010年 博士(工学).Boling Green State University博士研究員,Max Planck Institute for Polymer Research博士研究員,九州大学博士研究員,九州大学最先端有機光エレクトロニクス研究センター助教を経て2019年8月より沖縄科学技術大学院大学 准教授.

*本インタビューは2020年5月17日に行われたものです

Avatar photo

ふぉとん

投稿者の記事一覧

博士(工学)。大学教員。発光物質が大好物。いつも分子になった気持ち(思ひ)で分子を設計しています。

関連記事

  1. 【第一回】シード/リード化合物の創出に向けて 2/2
  2. 第121回―「亜鉛勾配を検出する蛍光分子の開発」Lei Zhu教…
  3. 第72回「“泥臭さ”にこそ美を見出すシロキサン化学者」金子 芳郎…
  4. 第67回―「特異な構造・結合を示すランタニド/アクチニド錯体の合…
  5. 第29回「安全・簡便・短工程を実現する」眞鍋敬教授
  6. 第80回―「グリーンな変換を実現する有機金属触媒」David M…
  7. 第27回 「有機化学と光化学で人工光合成に挑戦」今堀 博 教授
  8. 第95回―「生物学・材料化学の問題を解決する化学ツールの開発」I…

注目情報

ピックアップ記事

  1. コーンブルム酸化 Kornblum Oxidation
  2. 春の褒章2011-化学
  3. 田辺シリル剤
  4. 環状ペプチドの効率的な化学-酵素ハイブリッド合成法の開発
  5. OPRD誌を日本プロセス化学会がジャック?
  6. Discorhabdin B, H, K, およびaleutianamineの不斉全合成
  7. 実験と機械学習の融合!ホウ素触媒反応の新展開と新理解
  8. 豚骨が高性能な有害金属吸着剤に
  9. 根岸クロスカップリング Negishi Cross Coupling
  10. 高分子マテリアルズ・インフォマティクスのための分子動力学計算自動化ライブラリ「RadonPy」の概要と使い方

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年5月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

【書評】立体化学 はじめの一歩

立体化学は,分子の三次元構造を理解するための重要な分野であり,有機化学や…

水のシミュレーション入門 — 水分子を計算機の中でどう”描く”か —

身近なのに、計算機にとって手強い"水"。本記事では、点電荷モデルから機械学習まで、その"描き方"の進…

◆◇◆◇ 第36回フォーラム・イン・ドージン開催のご案内 ◆◇◆◇

同仁化学研究所が熊本から世界へ情報発信するフォーラム・イン・ドージンの開催ご案内です。今年は『な…

『力』による円偏光発光のon/off制御を単一分子レベルで実現

第718回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 物質理工学院(相良研究室)博士後期課程2年の野中…

数日かかっていた反応機構解析を、わずか数分に!

機械学習ポテンシャルが変える計算化学の現在近年、DFT計算による反応機構解析は広く行われるよ…

海外ポスドクのオファーをもらう【アメリカで Ph.D. を取る: 進路編】

ポスドクとして海外に留学する場合、希望する研究室の教授に直接連絡を取り、面接などを通して適性を判断さ…

MDで観るトライボロジー 〜原子が擦れるその場をシミュレーション〜

軽くて強いのに摩耗に弱いチタン合金は、航空機や人工関節に広く使われています。原子が擦れ合うその場を分…

酸素を過酸化水素へ!可視光で駆動する有機高分子光カソード

第717回のスポットライトリサーチは、新潟大学大学院自然科学研究科(無機ナノ材料研究室)博士前期課程…

ペプチド合成におけるアスパルチミド化/Aspartimide Formation in Peptide Synthesis

⏱ 30秒サマリー 何をする反応か — Fmoc-SPPS のピペリジン…

MEDCHEM NEWS 35-2 号「未来のメディシナルケミストリーの可能性」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、オープンアクセ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP