[スポンサーリンク]

odos 有機反応データベース

シャープレス・香月不斉エポキシ化反応 Sharpless-Katsuki Asymmetric Epoxidation (Sharpless AE)

[スポンサーリンク]

 

概要

Ti(OiPr)4-酒石酸ジエチル(DET)-t-ブチルパーオキシド系を用いることで、アリルアルコールの不斉エポキシ化を行う手法。

・生成するエポキシドの絶対配置は、DETの絶対配置にのみ依存する(下図の経験則を参照)。これまでにプロキラルな基質において例外は知られていない。基質の立体をほとんど問題にしないうえ、官能基選択性も非常に高い。合成中盤でも普通に使用できる。大量スケールでの実施も可能な、強力な手法である。

katsuki_sharpless_epoxidation_6.gif

MS3Aまたは4Aを共存させることで、Ti(OiPr)4とDETを触媒量にまで減ずることが可能である。少量の水が触媒種を壊すため、それを除去する必要があると言われている。

・二級アリルアルコールの速度論的光学分割を行うことも可能。この場合、用いる配位子は、酒石酸ジイソプロピル(DIPT)が最も適している。

Z体のアリルアルコールは反応性が低く、不斉収率も満足行かないことがしばしばある。

・生成したエポキシドは、系内に存在するアルコキシドにより開環をうけることがままあるが、Ti(OiPr)4のかわりにTi(OBu)4を用いることで改善されることがある。

・本法およびSharpless不斉ジヒドロキシル化反応の開発により、Scripps研究所のK.B.Sharpless2001年ノーベル化学賞を受賞している。

基本文献

  •  Katsuki, T.; Sharpless, K. B. J. Am. Chem. Soc. 1980, 102, 5974. DOI: 10.1021/ja00538a077
  •  Hanson,, R. M.; Sharpless, K. B. J. Org. Chem.  1986, 51, 1922. DOI: 10.1021/jo00360a058
  • Gao, Y.; Klunder, J. M.; Hanson, R. M.; Masamune, H.; Ko, S. Y.; Sharpless, K. B. J. Am. Chem. Soc. 1987109, 5765. DOI: 10.1021/ja00253a032
  •  Review: Johnson, R. A.; Sharpless, K. B. Comprehensive Organic Synthesis 1991, 7, 389.
  •  Review: Johnson, R. A.; Sharpless, K. B. Catalytic Asymmetric Synthesis Ojima, I. Ed. VCH Publishers, Weinheim, New York, 1993.
  •  Review: Katsuki, T.; Martin, V. S. Org. React. 199648, 1.

 

反応機構

類縁錯体の結晶構造解析および成績体の立体化学から、以下のような二核錯体が活性種であると考えられている。(参考:J.Am. Chem. Soc. 1984, 106, 6430. J. Am. Chem. Soc. 1991113, 106.)
katsuki_sharpless_epoxidation_2.gif

反応例

確実に不斉の酸素原子を入れたいときに用いられる。アリルアルコール・ホモアリルアルコール以外のオレフィンは通常反応しない。[1, 2] katsuki_sharpless_epoxidation_3.gif
katsuki_sharpless_epoxidation_4.gif
Ti-DET系では一般にホモアリルアルコールの不斉誘起は困難であるが、山本らによって開発されたバナジウム触媒系ではこの制限を克服すること成功している。[3] katsuki_sharpless_epoxidation_5.gif

実験手順

触媒条件の例[4] katsuki_sharpless_epoxidation_7.gif

実験のコツ・テクニック

※ TBHPは潜在的に爆発性があるため、大スケールの反応時は防爆板をたてる、フード付きドラフト内で行うなどの注意を払うこと。

 

参考文献

[1][2] Hatakeyama, S. et al. J. Am. Chem. Soc. 1988110, 5201. DOI: 10.1021/ja00223a055

[3] Zhang, W.; Yamamoto, H. J. Am. Chem. Soc. 2007129, 286. DOI: 10.1021/ja067495y

[4] Gao, Y.; Klunder, J. M.; Hanson, R. M.; Masamune, H.; Ko, S. Y.; Sharpless, K. B.J. Am. Chem. Soc. 1987109, 5765.DOI: 10.1021/ja00253a032

 

関連反応

 

関連書籍

[amazonjs asin=”019850201X” locale=”JP” title=”Asymmetric Oxidation Reactions: A Practical Approach in Chemistry (The Practical Approach in Chemistry Series)”]

 

外部リンク

関連記事

  1. ブラン環化 Blanc Cyclization
  2. 求電子的トリフルオロメチル化 Electrophilic Tri…
  3. アルコールのアルカンへの還元 Reduction from Al…
  4. 鋳型合成 Templated Synthesis
  5. 求電子的フッ素化剤 Electrophilic Fluorina…
  6. 向山水和反応 Mukaiyama Hydration
  7. フィッシャー インドール合成 Fischer Indole Sy…
  8. カルボニル-エン反応(プリンス反応) Carbonyl-Ene …

注目情報

ピックアップ記事

  1. 有機合成化学協会誌2021年3月号:水素抽出型化学変換・環骨格一挙構築・新規アルコキシメチル基・π拡張非交互炭化水素・フローマイクロリアクター
  2. リガンド結合部位近傍のリジン側鎖をアジド基に置換する
  3. ケムステ版・ノーベル化学賞候補者リスト【2024年版】
  4. 光薬理学 Photopharmacology
  5. ニトリルオキシドの1,3-双極子付加環化 1,3-Dipolar Cycloaddition of Nitrile Oxide
  6. 第16回ケムステVシンポ「マテリアルズインフォマティクス?なにそれおいしいの?」を開催します!
  7. 男性研究者、育休を取る。
  8. ケムステイブニングミキサー2025に参加しよう!
  9. 計算化学を用いたスマートな天然物合成
  10. 電子雲三次元ガラス彫刻NEBULAが凄い!

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2009年6月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

第58回Vシンポ「天然物フィロソフィ2」を開催します!

第58回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!今回のVシンポは、コロナ蔓延の年202…

第76回「目指すは生涯現役!ロマンを追い求めて」櫛田 創 助教

第76回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第75回「デジタル技術は化学研究を革新できるのか?」熊田佳菜子 主任研究員

第75回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第74回「理想的な医薬品原薬の製造法を目指して」細谷 昌弘 サブグループ長

第74回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第57回ケムステVシンポ「祝ノーベル化学賞!金属有機構造体–MOF」を開催します!

第57回ケムステVシンポは、北川 進 先生らの2025年ノーベル化学賞受賞を記念して…

櫛田 創 Soh Kushida

櫛田 創(くしだそう)は日本の化学者である。筑波大学 数理物質系 物質工学域・助教。専門は物理化学、…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP