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化学者のつぶやき

まず励起せんと(EnT)!光触媒で環構築

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アザアセナフテンの骨格構築法として、位置選択的なperi-[3+2]付加環化反応が開発された。EnTSETを組み合わせて環構造を構築したことが本反応の鍵である。

peri-[3+2]付加環化反応を用いたアザアセナフテンの合成

 アザアセナフテン骨格は天然物(delavatine A)や医薬品候補分子(camptothecin類縁体)などに含まれる[1]。これまで本骨格は、エタノ架橋形成反応や分子内での(ヘテロ)芳香環合成により構築されてきたが、いずれも多工程を要することが課題であった(1A)

近年、ヘテロ芳香環に環構造を直接導入する手法として、光触媒によるエネルギー移動(EnT)を利用した付加環化反応が注目される。これまで[2+2]付加環化や、ビラジカルを経由する[4+2]付加環化が報告されている(1B)。キノリンを基質とした場合、脱芳香族的に[4+2]付加環化が進行し、ビシクロ骨格が得られる[2]。また、C6位にハロゲンをもつキノリンとアルケニルハライドとの反応では、[2+2]付加環化およびシクロプロパン化が進行して四環式化合物を与える[3]

今回著者らは、光触媒を用いてキノリンとアルキンからアザアセナフテン骨格を構築する手法を見いだした(1C)。光触媒からのEnTによりキノリンが励起され、置換アルキンとperi-[3+2]付加環化反応を起こす。続いて、一電子移動(SET)を経る再芳香族化でアザアセナフテン骨格が構築できる。本反応は、光触媒が環化と再芳香族化の二つの段階に関与する。光触媒によるEnTSETが連続する環構築は、窒素脱離をともなうピロール合成[4]E/Z異性化を経由するクマリン合成[5]が知られるが、本研究により二つの環を架橋する新たな形式の環構築法が示された。

図1. (A) アザアセナフテン骨格をもつ分子 (B) EnTによる環化付加反応 (C) 本研究

 

Visible-Light Photocatalyzed peri-[3+2] Cycloadditions of Quinolines

Bellotti, P.; Rogge, T.; Paulus, F.; Laskar, R.; Rendel, N.; Ma, J.; Houk, K. N.; Glorius, F.

J. Am. Chem. Soc. 2022, 144, 15662–15671DOI: 10.1021/jacs.2c05687

論文著者の紹介

研究者:Kendall N. Houk ケムステ (研究室HP)

研究者の経歴:

1968                               Ph.D., University of Harvard, USA (Prof. R. B. Woodward)

1968–1980                  Assistant Professor, Associate Professor, Professor, Louisiana State University, USA

1980–1986                  Professor, University of Pittsburgh, USA

1986–2021                  Professor, University of California, Los Angeles (UCLA), USA

2009–2021                  Saul Winstein Chair in Organic Chemistry, UCLA, USA

2021–                             Distinguished Research Professor, UCLA, USA

研究内容:理論有機化学、計算有機化学

 

研究者:Frank Glorius ケムステ (研究室HP)

 研究者の経歴:

2000                               Ph.D., University of Basel, Switzerland, and Max Planck Institute for Coal Research, Mülheim/Ruhr, Germany (Prof. A. Pfaltz)

2000–2001                  Postdoc, Harvard University, USA (Prof. D. A. Evans)

2001–2004                  Independent Researcher, Max Planck Institute for Coal Research, Mülheim/Ruhr, Germany (Prof. A. Fürstner)

2004–2007                  Associate Professor, University of Marburg, Germany

2007–                             Professor, University of Münster, Germany

研究内容:新触媒開発、材料科学、機能性分子デザイン、分子機械学習

論文の概要

 HFIP中、光触媒[Ir-F][PF6]存在下、8位に電子求引性基をもつキノリン誘導体1とアルキン2405 nmLED光を照射すると、高い位置選択性かつジアステレオ選択性でアザアセナフテン3が得られた(2A)。本反応は、メチルエステルが置換したキノリン1aと、対称なニ置換アルキン2aに適用でき、高いジアステレオ選択性で所望のアザアセナフテン3aを与えた。一置換アルキンに対しても、高い位置選択性で反応が進行し、キノリン3bが得られる。また、シクロヘキシル基をもつキノリン1cC6位にフルオロ基をもつキノリン1dにも適応可能で、対応するアザアセナフテン3c3dを与えた。さらに、本反応はフェナントロリン1e1fを用いても位置選択的な環構築ができ、3e3fが生成した。

 続いてDFT計算により付加環化反応の遷移状態を比較すると、C4位よりもC6およびC8位での結合形成の活性化エネルギーが、それぞれ10.7および23.7 kcal/mol高いことがわかった(2B)。すなわち、本反応ではキノリンのC5位でアルキンと反応した後、最も速度論的に有利なC4位での結合形成が進行し、アザアセナフテン骨格を与えたと推察される。

 推定反応機構を以下に示す(2C)。まず、EnTでキノリン1Aが励起三重項状態3Aとなった後、アルキンとの[3+2]付加環化反応によりビラジカル3Bを与える。3Bが励起された*[Ir-F]+により酸化されラジカルカチオン2Cが生成する。その後、1Aが塩基として作用しラジカル2Dが得られる。2D[Ir-F]により還元された後、1,2-ヒドリドシフト、続く、プロトン化によって所望のantiジアステレオマー1Gが得られる。

 以上、EnTSETを組み合わせてキノリンから一段階でアザアセナフテン骨格を構築する反応が開発された。今後、EnT/SET機構を用いた合成困難な分子骨格の構築法の開発に、さらなる拍車がかかると期待される。

 参考文献

  1. (a) Zhang, Z.; Wang, J.; Li, J.; Yang, F.; Liu, G.; Tang, W.; He, W.; Fu, J. J.; Shen, Y. H.; Li, A.; Zhang, W. D. Total Synthesis and Stereochemical Assignment of Delavatine A: Rh-Catalyzed Asymmetric Hydrogenation of Indene-Type Tetrasubstituted Olefins and Kinetic Resolution through Pd-Catalyzed Triflamide-Directed C−H Olefination. J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 5558− DOI: 10.1021/jacs.7b01718 (b) Sugimori, M.; Ejima, A.; Ohsuki, S.; Uoto, K.; Mitsui, I.; Matsumoto, K.; Kawato, Y.; Yasuoka, M.; Sato, K. Antitumor Agents. VII. Synthesis and Antitumor Activity of Novel Hexacyclic Camptothecin Analogs. J. Med. Chem. 1994, 37, 3033–3039. DOI: 10.1021/jm00045a007
  2. Ma, J.; Chen, S.; Bellotti, P.; Guo, R.; Schäfer, F.; Heusler, A.; Zhang, X.; Daniliuc, C.; Brown, M. K.; Houk, K. N.; Glorius, F. Photochemical Intermolecular Dearomative Cycloaddition of Bicyclic Azaarenes with Alkenes. Science 2021, 371, 1338– DOI: 10.1126/science.abg0720
  3. Ma, J.; Chen, S.; Bellotti, P.; Wagener, T.; Daniliuc, C.; Houk, K. N.; Glorius, F. Facile Access to Fused 2D/3D Rings via Intermolecular Cascade Dearomative [2+2] Cycloaddition/Rearrangement Reactions of Quinolines with Alkenes. Nat. Catal. 2022, 5, 405–413. DOI: 10.1038/s41929-022-00784-5
  4. Xuan, J.; Xia, X.-D.; Zeng, T.-T.; Feng, Z.-J.; Chen, J.-R.; Lu, L.-Q.; Xiao, W.-J. Visible-Light-Induced Formal [3+2] Cycloaddition for Pyrrole Synthesis under Metal-Free Conditions. Angew. Chem., Int. Ed. 2014, 53, 5653– DOI: 10.1002/anie.201400602
  5. Metternich, J. B.; Gilmour, R. One Photocatalyst, n Activation Modes Strategy for Cascade Catalysis: Emulating Coumarin Biosynthesis with (–)-Riboflavin. J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 1040– DOI: 10.1021/jacs.5b12081

山口 研究室

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