⏱ 30秒サマリー
- 何をする反応か — アルデヒドやケトンをアンモニア・1級アミン・2級アミンと混ぜ、NaBH₃CN を加えて系中に生じたイミニウムだけを選択的に還元し、一段でアミンをつくる。
- 何ができるか — 1級・2級・3級アミンをワンポットで合成可能。カルボニルとイミニウムの pH 依存性の差を使うため、カルボニル基が残ったままでもアミンだけを取り出せる。糖鎖・タンパク質の標識にも同じ原理が使える。
- いつ使うか — まずは NaBH(OAc)₃ を試し、それが効かない基質(水系・弱塩基性が必須、pH 制御で選択性を稼ぎたい)で NaBH₃CN を検討する。ただし NaBH₃CN は日本では毒物指定であり、遊離シアンによる生成物汚染も報告されている。
概要
アルデヒドまたはケトンを、アンモニア等価体・1級アミン・2級アミンとともにヒドリド還元剤の存在下で反応させると、還元的アミノ化(reductive amination)が起こり、対応するアミンが得られる。還元剤としてシアノ水素化ホウ素ナトリウム(sodium cyanoborohydride, NaBH₃CN)を用いる条件をとくに Borch反応 と呼ぶ[2]。
NaBH₃CN の設計思想は、電子求引性のシアノ基でホウ素上のヒドリドの反応性を適度に下げることにある。素のNaBH₄はカルボニルもイミニウムも区別せず還元してしまうが、BH₃CN⁻ は弱酸性〜中性領域でカルボニル基とほとんど反応しない。Borchらの原著では、アルデヒド/ケトンの還元が円滑に進むのは pH 3〜4 であるのに対し、カルボニル化合物とアミンからの還元的アミノ化は pH 約7 で進行すると報告されている[2]。つまり pH 6〜8 に保てば、カルボニルはそのままにイミニウムだけを還元することができる。この「pH による作り分け」こそが Borch反応の本質であり、あらかじめイミンを単離する必要のないワンポット法を可能にした。
還元的アミノ化はいまや医薬品合成の基幹反応である。2008年の大手製薬3社の論文解析では全反応の 5.3%(ヘテロ原子のアルキル化・アリール化に限れば 22.9%)を占め[17]、総説によれば製薬業界における C–N 結合形成反応の少なくとも4分の1が還元的アミノ化で行われている[14]。
一方で、現在の第一選択は NaBH₃CN ではない。NaBH(OAc)₃(トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム, STAB)[5]が、毒性・後処理・再現性のいずれの面でも優れるため大半の場面で置き換わっている。水系や無溶媒で反応させたい場合には 2-ピコリンボラン(pic-BH₃)[6]が使われる。
開発の歴史
カルボニル化合物とアミンからアミンをつくるという発想自体は古く、ギ酸を還元剤とするエシュバイラー・クラーク反応やロイカート・ヴァラッハ反応、および水素/金属触媒による還元的アルキル化が知られていた。後者は1948年の Emerson による Organic Reactions の総説にまとめられている[9]。ただしこれらは高温・高圧を要したり、生成するアミンの世代(1級/2級/3級)を制御しにくいという難点があった。
転機は1969年、米国ミネソタ大学(当時)の Richard F. Borch と H. Dupont Durst による短報である。彼らはシアノヒドリドホウ酸リチウム LiBH₃CN を「多用途の新試薬」として報告した[1]。続く1971年の全論文で、Borch、Mark D. Bernstein、Durst は BH₃CN⁻ アニオンの反応性を体系的に調べ上げ、pH 依存的な選択性という中心概念を確立した[2]。同論文はアルデヒド・ケトンの還元、オキシムからアルキルヒドロキシルアミンへの還元、酸触媒下でのエナミン還元、そして還元的アミノ化を一挙に扱っており、置換ピルビン酸とアンモニアからのアミノ酸合成、¹⁵NH₃ を使った ¹⁵N 標識、BH₃CN⁻ の水素を D₂O/T₂O と交換することによる重水素・トリチウム標識までカバーしている。
翌1972年、BorchとAviv I. Hassidは、ホルムアルデヒドと NaBH₃CN の組み合わせによるアミンの N-メチル化を報告した[3]。強酸性・高温を要するエシュバイラー・クラーク反応に代わる室温条件として、現在も広く使われている。
1970年代半ばには市販試薬として一般化し、Lane による Synthesis の総説[10]、Hutchins と Natale による利用法の総説[11]が相次いだ。1990年には Mattson らが Ti(OiPr)₄ をルイス酸として併用する改良法を報告し、立体障害の大きいケトンや酸感受性基をもつ基質へ適用範囲を広げた[4]。
しかし1990年代後半以降、シアン化物残留の問題が顕在化する。1996年の Abdel-Magid らによる NaBH(OAc)₃ の系統的研究[5]は、その論文中で「大スケールで NaBH₃CN によるイミン還元を行った際、生成物がシアン化物で汚染された」と明記しており、代替試薬開発の直接の動機になっている。2004年には佐藤・菊川らが 2-ピコリンボランを報告し、水中および無溶媒での還元的アミノ化を初めて実現した[6]。2020年代に入ると、酵素(イミンレダクターゼ/レダクティブアミナーゼ)による不斉還元的アミノ化がトン規模の商用製造にまで到達している[20]。
反応機構
全体像
古典的には「カルボニル+アミン → イミニウム → ヒドリド還元」と2段で説明されるが、実際にはヘミアミナールを経る3段である。
(1) 付加 — アミンの窒素がカルボニル炭素を求核攻撃し、ヘミアミナールを与える。
(2) 脱水 — ヒドロキシ基がプロトン化され、C–O 結合が開裂して水が脱離し、イミニウムカチオン(アミンが1級またはアンモニアなら、脱プロトン化を経て中性イミン)が生成する。
(3) ヒドリド移動 — BH₃CN⁻ がイミニウム炭素にヒドリドを渡し、アミンを与える。
Oliphant と Morris による NaBH(OAc)₃ を対象とした2022年の DFT 計算は、この描像を定量的に裏づけた[8]。要点は3つある。
- ヘミアミナールは出発物より高エネルギーであり、実験でほとんど観測されないことと整合する。
- 律速段階はヘミアミナールからの脱水(OH のプロトン化と C–O 結合開裂)である。水中でのイミン生成の研究で pH 4 以上では脱水が律速になるという知見とも一致する。
- イミンの生成とその還元の遷移状態は、いずれもアセトアルデヒド自身の還元より低エネルギーである。ヒドリド移動の遷移状態はルイス酸として働くナトリウムイオンによって整列していると解析されている。
なぜ pH が効くのか
BH₃CN⁻ のヒドリド供与能はシアノ基によって減じられており、中性のカルボニル基を還元するには不足している。一方、イミニウムは正電荷をもつ求電子種であるため、弱いヒドリド源でも十分に反応する。
- pH 3〜4:カルボニル酸素が十分にプロトン化され、活性化されたカルボニルが直接還元される(アルコールが副生する)[2]。
- pH 6〜8:カルボニルの直接還元は事実上止まる一方、イミニウムは平衡量として存在し続けるため、還元的アミノ化のみが進行する[2]。
- pH が高すぎる:イミニウム濃度が下がり、反応が遅くなる。
実務上は酢酸を化学量論量近く加えて系を弱酸性に保つのが定石である。NaBH₃CN 自体が弱塩基性であるため、酢酸が pH 調整剤になる。
遊離シアン化物による副反応
NaBH₃CN には HCN・NaCN が残留不純物として含まれる。これが以下の副生成物の起点になる。
| 副生成物 | 生成経路 | 影響 |
|---|---|---|
| N-シアノメチル体 | イミニウムに CN⁻ が付加(ヒドリドとの競合) | 後処理で加水分解して原料アミンに戻り、見かけの収率が下がる[7] |
| シアノヒドリン | カルボニルに CN⁻ が付加 | 基質の消失 |
| α-アミノニトリル | Strecker 型の付加 | 目的物と分離しにくい場合がある[21] |
Gidley と Sanders は、タンパク質アミノ基の HCHO/NaBH₃CN 還元的メチル化で N-シアノメチル体が生成することを示し、Ni²⁺ など遊離シアン化物イオンを錯形成する金属イオンの添加で抑制できると報告した[7]。
特徴・適用範囲・類似反応との比較
強み
- ワンポットで済む — イミンを単離しなくてよい。基質が水に溶けるなら水系でも動く。
- 世代の作り分け — アンモニア等価体なら1級、1級アミンなら2級、2級アミンなら3級アミンが得られる。
- カルボニル共存下でのアミン化 — pH を 6〜8 に保つ限り、系内の他のカルボニル基は生き残る。
- 同位体標識 — BH₃CN⁻ の水素は D₂O/T₂O と交換でき、標識アミン・標識アミノ酸を直接合成できる[2]。
- 生体高分子の修飾 — 中性水系・室温という条件はタンパク質や糖鎖に優しい。糖鎖の還元末端を蛍光標識する還元的アミノ化はグライコミクスの標準手法である[19]。
弱み・適用制限
Abdel-Magid らが NaBH(OAc)₃ について整理した限界[5]は、おおむね NaBH₃CN にも当てはまる。
- 芳香族ケトン・α,β-不飽和ケトン — イミニウムが生成しにくい/共役還元が競合する
- 立体障害の大きいケトンやアミン — Ti(OiPr)₄ の併用[4]や TiCl₄ の使用が改善をもたらすことがある
- アンモニアからの1級アミン合成 — 生成した1級アミンが原料カルボニルと再度反応して2級・3級アミンへ進む過剰アルキル化が起こりやすい。アンモニウム塩の大過剰使用や、他のアンモニア等価体(アジド、ニトロ、フタルイミド、ヒドロキシルアミン等)を経る迂回路が現実的な選択肢になる
- アルデヒド+1級アミン — ジアルキル化が問題になる。その場合、MeOH 中でイミンを先に形成してから NaBH₄ で還元する2段階法が有効である[5]
還元剤の使い分け
| 還元剤 | 主な溶媒 | 長所 | 短所・注意 |
|---|---|---|---|
| NaBH₃CN[2] | MeOH, H₂O, MeCN, THF | pH で選択性を制御できる。水系可。同位体標識可 | 毒物(日本国内の法規制)。遊離シアンによる生成物汚染。酸性化で HCN 発生。後処理が煩雑 |
| NaBH(OAc)₃[5] | DCE(第一選択), THF, MeCN | 低毒性。選択性・再現性が高い。アセタール/ケタール、C–C 多重結合、シアノ基、ニトロ基に耐性 | プロトン性溶媒で分解。芳香族・不飽和ケトンには不向き。DCE の使用が環境面で不利 |
| pic-BH₃[6] | MeOH, H₂O, 無溶媒 | 結晶性固体(mp 44–45 ℃)で秤量が容易。150 ℃ 以上に加熱しても融点が変わらず、棚上で数か月安定。ピリジンボランより熱的に安定 | AcOH の添加が必要。反応が遅い基質がある |
| NaBH₄ | MeOH, EtOH, TFE | 安価。イミンを先に単離すれば十分 | カルボニルも還元するため、直接還元的アミノ化には基本的に不適 |
| H₂/金属触媒 | 各種 | 原子効率が最良。大量スケール向き | 他の還元されうる官能基(ハロゲン、ベンジル基、アルケン等)が生き残らない |
| 酵素(IRED/RedAm)[16][20] | 緩衝液 | 不斉が取れる。廃棄物が最小 | 基質特異性。酵素の入手・スクリーニングが前提 |
これらを統一手順で直接比較した実務向けの検討として、Chusov らの “Hitchhiker’s Guide to Reductive Amination”[15] が参考になる。
類似反応との比較
- エシュバイラー・クラーク反応 — HCOOH/HCHO による N-メチル化。強酸性・高温を要する。Borch–Hassid 法[3]は室温での代替。
- ロイカート・ヴァラッハ反応 — ギ酸/ギ酸アンモニウムを還元剤とする古典法。
- ペタシス反応 — ボロン酸を炭素求核剤として使う三成分反応。C–N と C–C を同時に作る点が異なる。
- 還元的アミノ化以外のアミン合成 — 1級アミンだけが欲しいなら、ガブリエル法や福山アミン合成のほうが過剰アルキル化を避けられる。
反応例
アミンの N-メチル化(Borch–Hassid 法)[3]
ホルムアルデヒドと NaBH₃CN の組み合わせで、2級アミンから3級アミンへ室温でメチル基を導入する。エシュバイラー・クラーク反応の穏和な代替として、複雑な分子の後期段階でも使える。N-エチルベンジルアミンから N-メチル-N-エチルベンジルアミンが 収率98% で得られる。
シナカルセト
カルシウム受容体作動薬シナカルセトは、1-アセチルナフタレンと 3-[3-(トリフルオロメチル)フェニル]プロピルアミンを Ti(OiPr)₄ の存在下で縮合させ、生じたイミンを NaBH₃CN で還元してラセミ体を得るという手法で合成されていた。芳香族ケトンという Borch反応が苦手とする基質を、Mattson らのルイス酸併用法[4]で進行させた。後続のプロセス特許は、試薬の毒性及び光学分割コストの観点から、この経路を明示的に避け、還元的アミノ化をNaBH(OAc)₃ や接触水素化などの別の還元剤で行う経路を提案している。
アブロシチニブ
JAK1 阻害薬アブロシチニブの製造では、環状ケトンとメチルアミンの還元的アミノ化で cis-シクロブチルアミン中間体を作る必要がある。Pfizer のグループは還元的アミナーゼ活性をもつイミンレダクターゼを見いだし、進化改変によって野生型比 200倍以上の性能をもつ SpRedAm-R3-V6 を得た[20]。商用プロセスではトン規模で製造されている。ヒドリド還元剤では制御が立体選択性を、酵素が解決した例である。
糖鎖・タンパク質の標識
還元的アミノ化は、糖鎖の還元末端アルデヒドと蛍光標識試薬(2-アミノベンズアミド 2-AB、アントラニル酸 2-AA など)のアミノ基を結合させる、グライコミクスの標準手法である。長らく NaBH₃CN が使われてきたが、Ruhaak らはデキストランオリゴ糖と血漿 N-型糖鎖を用い、2-ピコリンボランが NaBH₃CN と同等の標識効率を与えることを示し、無毒な代替として提案した[19]。
タンパク質・ペプチドのバイオコンジュゲーションでも同じ化学が使われるが、こちらは遊離シアン化物の管理が製造上の要件になる。
実験手順
標準的な実施例:アミンの N-メチル化[3]
N-エチルベンジルアミン(675 mg, 5 mmol)と 37% ホルムアルデヒド水溶液(2 mL, 25 mmol)をアセトニトリル(15 mL)に溶かし、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(500 mg, 8 mmol)を加える。激しい発熱が起こり、暗色の残渣が分離する。 15分撹拌したのち、pH 試験紙で中性を示すまで氷酢酸を滴下する。pH が中性付近に保たれるよう随時氷酢酸を追加しながら、さらに45分撹拌する。
減圧下で溶媒を留去し、2 N KOH(20 mL)を加えてエーテル(3 × 20 mL)で抽出する。エーテル層を合わせて 0.5 N KOH(20 mL)で洗浄したのち、1 N HCl(3 × 10 mL)で抽出する。酸性抽出液を合わせて固体 KOH で中和し、エーテル(3 × 20 mL)で抽出する。エーテル層を炭酸カリウムで乾燥して濃縮すると、N-メチル-N-エチルベンジルアミン(735 mg, 収率98%)が無色液体として得られる。
※酸性化の操作は必ずドラフト内で行う。 NaBH₃CN は酸と接触するとシアン化水素を発生する。「氷酢酸を中性まで滴下」という操作は、局所的に強酸性の領域を作らないためのものである。
一般的な還元的アミノ化(ケトン基質)
- カルボニル化合物(1.0 当量)とアミン(1.0–1.5 当量)を MeOH または MeCN に溶かす。ケトンの場合はモレキュラーシーブスや脱水条件でイミニウム生成を促進すると収率が上がる。
- 酢酸を加えて pH 6〜7 に調整する(pH 試験紙で確認する。指示薬としてブロモクレゾールグリーンを微量加える手法もある)。
- NaBH₃CN(1.5–2.0 当量)を少量ずつ加える。発熱に注意する。
- 室温で数時間〜一晩撹拌する。反応の追跡は TLC または LC-MS で行う。
- 過剰の還元剤を分解し、ホウ素を除く。酸で分解する場合はドラフト内で少量ずつ。系を塩基性にしてから次亜塩素酸ナトリウムでシアン化物を酸化分解する処理が推奨される。
変法:立体障害の大きいケトンに対する Ti(OiPr)₄ 併用法[4]
ケトンとアミンを Ti(OiPr)₄ とともに(多くの場合無溶媒で)室温で撹拌してイミン/チタンアミド中間体を形成させ、その後 EtOH を加えて NaBH₃CN で還元する。Ti(OiPr)₄ が穏和なルイス酸として働き、酸感受性官能基を壊さずにカルボニルを活性化する。後処理では水またはアンモニア水を加えてチタン種を水酸化物として濾別する。
変法:2-ピコリンボランへの置き換え[6]
同じ基質を、MeOH 中・水中・無溶媒のいずれでも扱える。少量の酢酸(数 mol% 〜 数当量)を添加し、pic-BH₃ を加えて室温〜穏和な加熱で撹拌する。pic-BH₃ は結晶性固体で秤量しやすく、棚上保存でも数か月は還元能を失わない。毒物指定を受けないため、日本の研究室ではまずこちらを検討する価値が高い。
実験のコツ・テクニック
試薬の選択と入手
- 原則として NaBH(OAc)₃ か pic-BH₃ を先に試す。 NaBH₃CN でなければ通らない場面は、実際には限られている。水系・弱塩基性が必須で、かつ pH 制御で選択性を稼ぐ必要がある場合に絞り込むとよい。
- 日本では NaBH₃CN は「毒物」に指定されている(毒物及び劇物取締法)。劇物ではなく毒物であるため、施錠保管・帳簿管理・譲渡手続が必要になる。加えて消防法の危険物第3類(自然発火性物質及び禁水性物質)第II級、化管法(PRTR法)第一種指定化学物質でもある。学生実験や少量スケールの検討では、この管理コスト自体が採用を見送る理由になりうる。
- ロットによる差を疑う。 遊離シアン化物は NaBH₃CN の既知の残留不純物である。Merck のグループが市販10社の原料を定量したところ、遊離シアン化物濃度は 8〜80 mM の範囲でばらつき、10社いずれも CoA(試験成績書)に遊離シアン化物の規格を記載していなかった[21]。「前回はうまくいったのに今回は不純物が出る」という現象には、この供給元・ロット差が効いている可能性がある。医薬品製造では原料の遊離シアン化物のスクリーニングを管理戦略に組み込むことが推奨されている。
反応を成功させるために
- pH は測る。 「AcOH を数滴」で済ませず、pH 試験紙で確認する。pH が下がりすぎるとカルボニルの直接還元でアルコールが増え、上がりすぎると反応が止まる。
- 水を抜く。 ケトン基質ではヘミアミナールからの脱水が律速である[8]。モレキュラーシーブス 3A の共存、Dean–Stark、あるいは Ti(OiPr)₄ の使用が効く。
- 加える順番。 カルボニルとアミンを先に混ぜてイミニウム平衡を作ってから還元剤を入れる。還元剤を先に入れると、pH の低い領域でカルボニル還元が進む余地が増える。
- 発熱。 ホルムアルデヒドとの反応は激しく発熱する。スケールアップ時は還元剤を分割添加し、冷却する。
- 1級アミンを狙うときは工夫がいる。 アンモニウム塩(NH₄OAc など)を大過剰に使うのが定石だが、それでも2級アミンの副生は避けにくい。アジドやニトロを経る別ルート、あるいはアンモニアを使う金属触媒/酵素法を検討したほうが早いことも多い。
後処理と廃棄
- 酸性化は必ずドラフト内で。 NaBH₃CN および反応液中に残った BH₃CN⁻ は、酸と接触してシアン化水素を発生する。
- シアン廃液として扱う。 反応残渣・水層・カラムの廃液は無機シアン化合物を含むものとして分別し、次亜塩素酸ナトリウムによる酸化分解などの適切な処理を行う。流しに捨てない。
- ホウ素の除去。 メタノールと共沸させてホウ酸メチルとして留去する、あるいは酒石酸/クエン酸で錯形成させて水洗する。アミン生成物がホウ素錯体として保持され、収率が低く見えることがある。
参考文献
【原著】
- Borch, R. F.; Durst, H. D. J. Am. Chem. Soc. 1969, 91, 3996–3997. DOI: 10.1021/ja01042a078 (シアノヒドリドホウ酸リチウムの初報。Borch反応の起点)
- Borch, R. F.; Bernstein, M. D.; Durst, H. D. J. Am. Chem. Soc. 1971, 93, 2897–2904. DOI: 10.1021/ja00741a013 (原著。pH依存的選択性の確立、還元的アミノ化、同位体標識)
- Borch, R. F.; Hassid, A. I. J. Org. Chem. 1972, 37, 1673–1674. DOI: 10.1021/jo00975a049 (原著。HCHO/NaBH₃CN によるアミンの N-メチル化)
- Mattson, R. J.; Pham, K. M.; Leuck, D. J.; Cowen, K. A. J. Org. Chem. 1990, 55, 2552–2554. DOI: 10.1021/jo00295a060 (Ti(OiPr)₄ 併用による改良法)
- Abdel-Magid, A. F.; Carson, K. G.; Harris, B. D.; Maryanoff, C. A.; Shah, R. D. J. Org. Chem. 1996, 61, 3849–3862. DOI: 10.1021/jo960057x (NaBH(OAc)₃ の系統的研究。適用範囲と限界の基準文献)
- Sato, S.; Sakamoto, T.; Miyazawa, E.; Kikugawa, Y. Tetrahedron 2004, 60, 7899–7906. DOI: 10.1016/j.tet.2004.06.045 (2-ピコリンボラン。水中・無溶媒での還元的アミノ化の初例)
- Gidley, M. J.; Sanders, J. K. M. Biochem. J. 1982, 203, 331–334. DOI: 10.1042/bj2030331 (N-シアノメチル副生成物の同定と金属イオンによる抑制)
- Oliphant, S. J.; Morris, R. H. ACS Omega 2022, 7, 30554–30564. DOI: 10.1021/acsomega.2c04056 (DFT。ヘミアミナールの脱水が律速であること、イミン選択性の起源)
【総説・データ集】
- Emerson, W. S. “The Preparation of Amines by Reductive Alkylation” Org. React. 1948, 4, 174–255. (水素/触媒および金属-酸系による還元的アルキル化。ヒドリド系は対象外)
- Lane, C. F. Synthesis 1975, 135. (NaBH₃CN の調製・精製・物性・用途)
- Hutchins, R. O.; Natale, N. R. Org. Prep. Proced. Int. 1979, 11, 201. (NaBH₃CN の有機合成における利用)
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- Aleku, G. A. “Imine Reductases and Reductive Aminases in Organic Synthesis” ACS Catal. 2024, 14, 14308–14329. DOI: 10.1021/acscatal.4c04756 (酵素による不斉還元的アミノ化の現状)
【応用例・実務】
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- Brown, D. G.; Boström, J. J. Med. Chem. 2016, 59, 4443–4458. DOI: 10.1021/acs.jmedchem.5b01409 (1984年・2014年・全合成の反応使用頻度比較)
- Ruhaak, L. R.; Steenvoorden, E.; Koeleman, C. A. M.; Deelder, A. M.; Wuhrer, M. Proteomics 2010, 10, 2330–2336. DOI: 10.1002/pmic.200900804 (オリゴ糖標識における 2-ピコリンボランの無毒代替性)
- Kumar, R.; Karmilowicz, M. J.; Burke, D.; Burns, M. P.; Clark, L. A.; Connor, C. G.; Cordi, E.; Do, N. M.; Doyle, K. M.; Hoagland, S.; Lewis, C. A.; Mangan, D.; Martinez, C. A.; McInturff, E. L.; Meldrum, K.; Pearson, R.; Steflik, J.; Rane, A.; Weaver, J. Nat. Catal. 2021, 4, 775–782. DOI: 10.1038/s41929-021-00671-5 (アブロシチニブ。SpRedAm-R3-V6 による数メトリックトン規模の商用製造)
- Cohen, J. P.; DiCaprio, A.; He, J.; Reibarkh, M.; Small, J.; Schombs, M. Bioconjugate Chem. 2025, 36, 245–252. DOI: 10.1021/acs.bioconjchem.4c00514 (市販10社の NaBH₃CN の遊離シアン化物が 8〜80 mM。CoA に規格の記載なし)
- Marshall, J. R. et al. Nat. Chem. 2021, 13, 140–148. DOI: 10.1038/s41557-020-00606-w (メタゲノム由来イミンレダクターゼのスクリーニング)
関連反応
- エシュバイラー・クラーク反応 Eschweiler-Clarke Reaction
- ロイカート・ヴァラッハ反応 Leuckart-Wallach Reaction
- ボラン錯体 Borane Complex (BH3・L)
- 金属水素化物による還元 Reduction with Metal Hydride
- ルーシェ還元 Luche Reduction
- フォルスター・デッカー アミン合成 Forster-Decker Amine Synthesis
- ガブリエルアミン合成 Gabriel Amine Synthesis
- 福山アミン合成 Fukuyama Amine Synthesis
- デレピン アミン合成 Delepine Amine Synthesis
- ハートウィグ ヒドロアミノ化反応 Hartwig Hydroamination
- ペタシス反応 Petasis Reaction
関連書籍
Stereoselective Formation of Amines (Topics in Current Chemistry Book 343) (English Edition)
外部リンク
- シアノ水素化ほう素ナトリウム(東京化成工業 S0396)
- シアノトリヒドロほう酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬)
- Reductive Amination(ACS GCI Pharmaceutical Roundtable Reagent Guide) — ホウ素系還元剤のグリーン度・安全性比較
- Amine synthesis by reductive amination(organic-chemistry.org)
- Sodium Cyanoborohydride(organic-chemistry.org)
- α-Picoline-borane(organic-chemistry.org)
- 還元的アミノ化 – Wikipedia
- Reductive amination – Wikipedia (English)
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