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コーリー・ニコラウ マクロラクトン化/Corey–Nicolaou Macrolactonization

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概要

コーリー・ニコラウ マクロラクトン化(Corey–Nicolaou Macrolactonization)は、E. J. CoreyK. C. Nicolaou が1974年に報告した、seco-(ω-)ヒドロキシカルボン酸から中員環〜大員環ラクトン(マクロラクトン)を構築する分子内エステル化法である。[2] カルボン酸を 2,2′-ジピリジルジスルフィド(PySSPy)とトリフェニルホスフィン(PPh₃) で2-ピリジルチオエステルに変換し、これを高希釈・加熱条件で環化させる。マクロラクトン形成は、単純なエステル化条件では分子間縮合(オリゴマー化・二量化)が優先しやすく、閉環が難しい。本反応はこの課題に対し カルボン酸をあらかじめ2-ピリジルチオエステルへ活性化しておく戦略を採る。[2]

歴史的には、1970年に 向山らが2,2′-ジピリジルジスルフィドとホスフィンを用いてカルボン酸とアミンの縮合を実現していた[1]。1974年に Corey と Nicolaou がこれをラクトン化へ転用して、効率的にマクロラクトンが得られることを示した。[2] 続く1975年の報告では、プロスタグランジン系・ポリエーテル抗生物質系の新規大環状ラクトン合成への適用が示された。[3]

環化段階は通常、加熱(reflux)を要する。後年、AgClO₄・AgBF₄・AgOTf などの銀塩を添加してピリジルチオエステルを活性化すると、反応時間が大幅に短縮され、より温和な(室温に近い)条件でも環化が進む例が報告された(Gerlach変法)。[4]

反応機構

カルボキシル基の活性化とヒドロキシ基の活性化を同時に行う機構的特徴から、しばしば 「二重活性化法(double activation method)」 とも呼ばれる。[2][5]

  1. カルボキシル基の活性化(チオエステル化): seco-ヒドロキシ酸のカルボキシル基が、PySSPy と PPh₃ の作用で 2-ピリジルチオエステルへ変換される。この段階でトリフェニルホスフィンオキシドと2-ピリジンチオールが副生する。[2]
  2. ヒドロキシ基の活性化(分子内プロトン移動・双性イオン形成): 2-ピリジンチオールエステルは、ピリジン環の窒素と基質の水酸基との間で 分子内プロトン移動を起こし、アルコキシド(求核剤側)とプロトン化ピリジニウム(脱離基側)を同時にもつ双性イオン中間体を形成する。カルボニルの求電子性が高まると同時に水酸基が求核性を増す。
  3. 分子内求核付加→四面体中間体→環化: 活性化されたアルコキシドがチオエステルのカルボニル炭素へ分子内付加して四面体中間体を与え、これが崩壊してマクロラクトンと ピリジン-2(1H)-チオンを放出する。

高希釈条件は、この分子内環化を分子間反応(オリゴマー化・二量化)に優先させるため必要となる。また銀塩添加(Gerlach変法)は、チオフィリックな Ag⁺ が硫黄に配位してチオエステルをさらに活性化し、環化を加速する。[5]

特徴・適用範囲・類似反応との比較

強み: カルボン酸を安定な2-ピリジンチオールエステルとして先に活性化するため、中員環〜大員環ラクトンの閉環に有効で、酸ハロゲン化物などを経ない比較的温和な条件で進む。プロスタグランジン系・ポリエーテル抗生物質系をはじめ、初期のマクロリド全合成で広く用いられた古典的手法である。[2][3][5]

弱み・注意点: 環化段階に 加熱と高希釈を要することが多く、熱に不安定な基質や大スケールでは扱いにくい場合がある。分子間反応(二量体・環状二量体)の副生が起こり得る。現代的には、より温和で高収率が期待できる山口法椎名法などが大員環ラクトン化の第一選択となる場面が多い。

反応 活性化剤・鍵試薬 活性化の型 長所 短所・注意 使いどころ
Corey–Nicolaou法 2,2′-ジピリジルジスルフィド+PPh₃(+銀塩) 2-ピリジルチオエステル(二重活性化) 古典的・信頼性、大員環に有効 高希釈・加熱を要す、二量化副生、やや旧式 中〜大員環ラクトン、歴史的・堅実な選択
山口法 2,4,6-トリクロロ安息香酸クロリド+DMAP 混合酸無水物 温和・高収率・汎用性、現代の定番 DMAP当量・混合無水物の位置選択 大員環ラクトン化の第一選択の一つ
椎名法 MNBA(2-メチル-6-ニトロ安息香酸無水物)+DMAP 混合酸無水物 温和・高効率、立体障害基質にも 専用試薬が必要 高難度・立体的に混んだラクトン化
Keck法 DCC/EDC+DMAP・DMAP·HCl カルボジイミド活性エステル 室温進行、取り扱い容易 DCU除去、当量管理 中〜大員環、温和条件を望む場合
光延法 DEAD/DIAD+PPh₃ アルコール側活性化(SN2) 立体反転を伴う閉環 大員環では不向きな例、還元剤副生 主に小〜中員環・立体反転が必要な閉環

反応例

Zearalenoneの合成[2]

実験手順

一般プロトコル[2][5]

 seco-ヒドロキシ酸 1 当量に対し、2,2′-ジピリジルジスルフィド(概ね 1.5〜2 当量程度)と トリフェニルホスフィン(同程度)を、不活性雰囲気下・室温付近で反応させ、対応する 2-ピリジルチオエステルを生成させる。続いて、この活性エステルを 高希釈条件(大過剰の溶媒で基質濃度を低く保つ、あるいはシリンジポンプ等で活性エステル溶液を熱溶媒へゆっくり滴下)とし、ベンゼン/トルエン/キシレン等の還流下で分子内環化させ、マクロラクトンを得る。

実験のコツ・テクニック

  • 高希釈が最重要: マクロラクトン化全般に共通する要点として、分子内環化を分子間反応(オリゴマー化・環状二体の生成)に勝たせるため、基質濃度を低く保つ高希釈条件が重要とされる。活性エステル溶液を熱溶媒中へ シリンジポンプ等でゆっくり滴下する手法が一般的に用いられる。[5]
  • 銀塩による活性化・温和化: 加熱還流が難しい熱に弱い基質では、銀塩(AgClO₄/AgBF₄/AgOTf)添加により環化を温和・迅速化できるとの報告がある(Gerlach変法)。[4]
  • 溶媒と温度: 環化にはベンゼン・トルエン・キシレンなどの非極性溶媒の還流が用いられることが多い。基質の熱安定性に応じて溶媒(=還流温度)を選ぶとよい。
  • 副生成物の除去: 環化に伴い2-ピリジンチオンやトリフェニルホスフィンオキシドが副生するため、クロマトグラフィー等での分離を見込んでおく。
  • 現代的な代替の検討: 熱・希釈の制約が問題になる場合、より温和な 山口法・椎名法等への切り替えが有効な場面が多い。

参考文献

  1. Mukaiyama, T.; Matsueda, R.; Suzuki, M. Tetrahedron Lett. 1970, 11, 1901–1904. DOI: https://doi.org/10.1016/S0040-4039(01)98113-4 (向山の活性エステル法・基本文献)
  2. Corey, E. J.; Nicolaou, K. C. “Efficient and Mild Lactonization Method for the Synthesis of Macrolides.” J. Am. Chem. Soc. 1974, 96, 5614–5616. DOI: https://doi.org/10.1021/ja00824a073 (本反応の原著)
  3. Corey, E. J.; Nicolaou, K. C.; Melvin, L. S., Jr. “Synthesis of Novel Macrocyclic Lactones in the Prostaglandin and Polyether Antibiotic Series.” J. Am. Chem. Soc. 1975, 97, 653–654. DOI: https://doi.org/10.1021/ja00836a036 (プロスタグランジン・ポリエーテル系への応用)
  4. Gerlach, H.; Thalmann, A. Helv. Chim. Acta 1974, 57, 2661. (Gelrach変法)
  5. Parenty, A.; Moreau, X.; Niel, G.; Campagne, J.-M. “Update 1 of: Macrolactonizations in the Total Synthesis of Natural Products.” Chem. Rev. 2013, 113, PR1–PR40. DOI: https://doi.org/10.1021/cr300129n (マクロラクトン化の総説)

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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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