[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

仕事の進め方を見直してみませんか?-SEの実例から

[スポンサーリンク]

 今回はちょっと分野を変えて、「仕事の進め方に重要なこととは?」ということをわかりやすく説明している書籍をご紹介します。

Tshozoです。「弱き者、正義を語るなかれ」(by 会社の先輩)

今回は、ちょっと方向を変えてシステム・エンジニア(SE)の世界を扱っている書籍を紹介します。一見『化学と関係ねえ!』ですが、本書では仕事や研究を進める上で最も基本的な部分が非常にわかりやすく記述されています。実際に社会人となっても参考になっていますので、共有できたらと思う次第です。どうかお付き合いください。

まず、システムエンジニアとは何か。一義的には、「『顧客』の要求を満たすソフトウェア及びハードウェア(システム)を作り上げる技術者(及び管理者)」のことです。例を挙げると、会計処理、伝票処理、社内・学内イントラ、分子シミュレーションなどのソフトウェア・システムを作り上げる方々のことです。

そのシステムエンジニアの仕事の中身を紹介しているのが、下の「システムエンジニアの仕事をいかに効率的に回すか」にポイントを置いた『SEのフシギな生態』と、もう一つは「上司と部下の関係をどう捉えるべきか」にポイントを置いた『SEのフシギな職場』の2冊です。

kitami_01.PNG

 では、このシステムエンジニアの仕事のどこが化学系の仕事と似ているのか? それは仕事の進め方とその悲哀だと感じています。 極めてざっくりと書くと、システムエンジニアの仕事の流れは下記の4コマ(『SEの生態』より)のようなステップに分かれます。

kitami_03.PNG

 これ、何かに似てませんか? そうです、化学合成のステップとほぼ同じなのです。たとえば教授殿に言われて所定の合成物をつくるステップを考えましょう。

①生成物分子構造と(教授の)コンセプト明確化(要求定義に相当)

②合成ルート又はコンセプト実現手段設定(設計に相当)

③実合成(製造に相当)

④うまく合成できているか分析(試験に相当)

⑤報告(納品に相当)

特に③実合成(プログラム書き)で徹夜することが多い点、④うまく合成できてないとその解決(バグ取り)に徹夜して追われる点、④を解決出来なくて教授殿に持っていくと『腕が悪い』とか『能力が足らねえんだよ』とか『バカかおめえは死ね』とか言われることが多い点について、非常に似ていると個人的に感じています。

で、どちらもこのステップに従って如何に効率的にモノを創り、成果(システムor 論文)を出すかが要求されているわけです。そして年齢と共に要求量は増えていきますので

A.③④の徹夜・合成やり直し(バグ取り)をいかに抑えるか

B.協力者(先輩・同期・後輩)とどのように協力していくか

ということが自身の心身の健康のために決定的に重要になります。

もちろん最初のうちは初心者ということで当たって砕けろ、徹夜万歳、デスマーチ歓迎的な進め方でもOKです。しかし時間が経つにつれ、筆者のように「何でそんなに遅れてるんだ!」「何でまだそんなミスが多いんだ!」「何でそんなスケールの小さなことしか出来ないんだ!」という叱責を受けることになります。それを反省を踏まえて避けるためにも、上記A・Bの観点は常に持たねばならないのです。

この点で、Aについては下のようなマンガでまず何が大事なのかを描いています。

kitami_07.jpg

 プログラムスキル(合成技術に相当)が高ければ素早く仕事が片付けられるから重要、ではなく、目的に結びついたスキルでなければ意味が無い、ということを言っているわけです。やることリストに対し、目的に結びついているか(やるべきことか)を判断できれば、優先順位が付いてムダが無くなり、やり直しも発生しにくくなり、効率化にもつながるわけです。Whitesides教授の”Writing a Paper”のメソッドと同じで『「どういう狙いの論文を書くために、何をしなければならないのか」を骨子とし、目的を常に問いかけることが効率化につながる』と言えましょう。

あったりまえの事なのですが、これが出来ない。というか正直難しい。日々の忙しさにかまけて「やること」が「やるべきこと」かをきちんと判断せず進めることが多い自分には、立ち返る基本ともなっています。

またBにおいても、上のポイントを織り込みつつ何が重要か、を示してくれています。

kitami_05.jpg

 こちらでは「組織(研究室に相当)の中で自分が何をなすべきか」ということをに理解していることが重要、としています。そりゃ最初は何でもかんでも自分でやらなきゃいかんでしょうが、それをずーっと続けてしまうと年齢を重ねた結果、下のようになってしまいかねません(このコマのみちょっと傾いておりますがご了承ください)。

kitami_08.PNG

 これは研究室に限らず会社でも実際によくみられることです。これを防ぐには、「上司(先輩)として下を育てる」という立場に合った仕事をせねばならんということで、またそれが自分の上司からも求められるようになっていきます。このように自分がどういう立場で何を行動し、何を聞き、何を言うべき立場であるかを今一度見直すことは、何歳になっても肝に銘じねばならん大事なことなのです。

ここに記載した以外にも、色々な重要なことが本当にわかりやすく本書には記載されています。学生の方々にも、また新入社員の方々にも是非目を通していただき、ご自分の研鑽につなげていただければ幸甚です。

ということで今回はここまで。きたみ先生は他にも「新卒はツライよ!」というフレッシュマン必見の名著も描かれておりますので、是非ご覧ください。

最後に一番好きな4コマを。

kitami_06.jpg

Tshozo

投稿者の記事一覧

メーカ開発経験者(電気)。56歳。コンピュータを電算機と呼ぶ程度の老人。クラウジウスの論文から化学の世界に入る。ショーペンハウアーが嫌い。

関連記事

  1. 材料開発の変革をリードするスタートアップのデータサイエンティスト…
  2. 有機合成化学協会誌2018年5月号:天然物化学特集号
  3. 【日産化学 21卒】START your chemi-story…
  4. カーボン系固体酸触媒
  5. 有機強相関電子材料の可逆的な絶縁体-金属転移の誘起に成功
  6. 有機電解合成プラットフォーム「SynLectro」
  7. 精密分子設計による高感度MRI分子プローブの開発 ~早期診断に向…
  8. 水晶振動子マイクロバランス(QCM)とは~表面分析・生化学研究の…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 【25卒】太陽HD研究開発 1day仕事体験
  2. 巨大ポリエーテル天然物「ギムノシン-A」の全合成
  3. 新しい抗生物質発見:MRSAを1分で99.99%殺菌
  4. スティーヴン・バックワルド Stephen L. Buchwald
  5. 無機物のハロゲンと有機物を組み合わせて触媒を創り出すことに成功
  6. 反応経路自動探索が見いだした新規3成分複素環構築法
  7. 住友化・大日本住友薬、ファイザーと高血圧症薬で和解
  8. チロシン選択的タンパク質修飾反応 Tyr-Selective Protein Modification
  9. アゾベンゼンは光る!~新たな発光材料として期待~
  10. スケールアップのためのインフォマティクス活用 -ラボスケールから工場への展開-

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年11月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  

注目情報

最新記事

5/15(水)Zoom開催 【旭化成 人事担当者が語る!】2026年卒 化学系学生向け就活スタート講座

化学系の就職活動を支援する『化学系学生のための就活』からのご案内です。化学業界・研究職でのキャリ…

フローマイクロリアクターを活用した多置換アルケンの効率的な合成

第610回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院理学研究科(依光研究室)に在籍されていた江 迤源…

マリンス有機化学(上)-学び手の視点から-

概要親しみやすい会話形式を用いた現代的な教育スタイルで有機化学の重要概念を学べる標準教科書.…

【大正製薬】キャリア採用情報(正社員)

<求める人物像>・自ら考えて行動できる・高い専門性を身につけている・…

国内初のナノボディ®製剤オゾラリズマブ

ナノゾラ®皮下注30mgシリンジ(一般名:オゾラリズマブ(遺伝子組換え))は、A…

大正製薬ってどんな会社?

大正製薬は病気の予防から治療まで、皆さまの健康に寄り添う事業を展開しています。こ…

一致団結ケトンでアレン合成!1,3-エンインのヒドロアルキル化

ケトンと1,3-エンインのヒドロアルキル化反応が開発された。独自の配位子とパラジウム/ホウ素/アミン…

ベテラン研究者 vs マテリアルズ・インフォマティクス!?~ 研究者としてMIとの正しい向き合い方

開催日 2024/04/24 : 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足…

第11回 慶應有機化学若手シンポジウム

シンポジウム概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大…

薬学部ってどんなところ?

自己紹介Chemstationの新入りスタッフのねこたまと申します。現在は学部の4年生(薬学部)…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP