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化学者のつぶやき

向山アルドール反応40周年記念シンポジウムに参加してきました

 

8月が終わったというのに日本列島はまだまだ暑いですね。

その8月の最終日に東京にて日本の有機合成化学者の多くが集う熱いシンポジウムが開催されました。

その名も万有生命科学振興国際交流財団主催の向山アルドール40周年記念シンポジウムです。

場所は新宿のハイアットリージェンシー東京です。なんでもこのホテルの開業年にも向山先生が中心となってシンポジウムを開催したことがあるとのことで、縁のある会場です。

さて、ケムステは有機化学に明るい読者ばかりではありませんので、この向山アルドール反応について少し説明します。詳しくはこちら

まずこの反応の開発者、そしてシンポジウムの主役は日本の化学会の巨人、向山光昭先生です(筆者は教え子ではありませんが先生をつけてしまいます)。なんと向山先生のお弟子さんで教授などのアカデミックポジションにいる方は50人以上にのぼるという、我が国の有機化学における最大勢力と言っても過言ではない大家です。有機化学を学ぶ者では海外でもその名を聞いたことがないものはいないと思います。その名声を不動のものにしているのが向山アルドール反応です。

 

アルドール反応は生体内でも様々な化合物を合成するのに用いられている重要な炭素ー炭素結合形成反応です。その反応ではアルデヒドやケトンのようなカルボニル化合物が連結されます。生体内では酵素が働きますが、一般にフラスコ内ではカルボニル化合物の溶液に塩基を加えて反応を行います。この際、エノラートアニオンが発生し、それがもう一つのカルボニル化合物へ求核付加反応します。しかし、異種のカルボニル化合物をアルドール反応で連結する場合(交差アルドール)、カルボニル基の位置、どちらのカルボニル化合物がエノラートアニオンになるのかなどを選ぶことは困難ですので生成物は複雑な混合物となってしまいます。このアルドール反応における本質的な問題を解決したのが向山アルドール反応と言えます。

 

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立体異性体の問題もあります

解決方法はまずエノラートアニオンにしたいカルボニル化合物をあらかじめシリルエノールエーテルにします。それと求核付加させたいカルボニル化合物を混合し、四塩化チタンという温和なLewis酸を加えると目的のアルドール付加体が生成するというものでした。

 

mukaiyama_aldol_1.gif

オリジナルの反応ではLewis酸はTiCl4

向山先生、現シンガポール南洋工科大学奈良坂紘一教授、Dr. Kazuo Bannoは、この反応を1973年に日本化学会の速報誌であるChemistry Letters誌に報告しました。よって今年は40周年ということになりますね。Chemistry Letters誌はそもそも向山先生が我が国の化学の発展のためには自国で優れた論文誌が必要であり、研究者は研究成果をまず自国の論文誌に出すべきとの持念により創刊されたものでした。創刊は1972年なので向山アルドールは第2巻に掲載されています。

そのマイルストーンとも言うべき論文を含めて、600報を超える論文をChemistry Letters誌で発表していることからも、向山先生の本誌に対する特別な思いが伝わります。

 

さて、肝心のシンポジウムですが、その講演者は豪華の一言でした。シンポジウムの組織委員長である京都大学の村上正浩教授からまず向山アルドール反応の歴史など概略が話されたあと、中部大学の山本尚教授によるスーパーシリル基を用いた向山アルドール反応についての講演がありました。

次にPhilipps University MarburgのManfred T. Reetz教授の講演でした。Reetz教授は有機チタン化合物かと思いきや、改変酵素による反応の講演でして、シンポジウムの主題と違うような・・・

気を取り直して次は微化研の柴崎正勝化学研究センター長の講演です。とにかく膨大なデータでした。さすがですねえ。ケムステ副代表の博士課程時代の仕事の紹介もありました。

昼食をはさんで金沢大学の猪股勝彦名誉教授からホウ素エノラートの発見の経緯などの講演があり、続いてはフィンランドのAalto大学のAri Koskinen教授が天然物合成におけるホウ素エノラートを用いたアルドール反応の応用に関する講演でした。次に東京工業大学の岩澤伸治教授による二価スズエノラートのアルドール反応に関する講演がありました。

 

最後のセッションは向山アルドールとは直接関係ない3名の大御所による講演でした。

まず大阪大学の村井眞二名誉教授から向山アルドールの肝であるシリルエノールエーテルの黎明期に関する講演があり、続いて東京大学の北原武名誉教授がシリルエノールエーテルのもう一つの巨人、Danishefsky-Kitaharaジエンの誕生に関するエピソードをお話しされました。北原教授と向山先生の関係というのは少し?だったのですが、なるほどご両人は共に長野県は伊那のご出身という共通項があったのですね。

そして本シンポジウム最後のシンポジストはノーベル化学賞受賞者である野依良治理化学研究所長の講演でした。内容は少し無理矢理向山アルドール反応に絡めてきたなあという感じでしたが、最後にはお約束とも言える科学全体への激励で締めておられました。

 

会場は400人位だったと思いますがほぼ満席で、我が国の有機合成関係者が勢揃いといった趣でした。考えてみればお弟子さんでアカデミックポジションに就いた人が50人もいるわけで、そのさらに弟子などを考えれば内輪だけでも2, 300人なんてあっという間に集まりますよね。筆者は少し門外漢でしたが、色々な化学の歴史が聴けて楽しかったです。

mukaiyamaaldollec.png

会場の様子

シンポジウムの最後には東大時代に秘書をされていた大内女史から花束の贈呈があり、向山先生からのメッセージを東工大の鈴木啓介教授が代読されました。

 

反応の重要性やその後の爆発的な世界中での応用展開を考えれば、ひいき目に見なくてもノーベル化学賞を取ってもおかしくない反応だと思います。主要三賞で日本人単独のノーベル賞というのは未だかつてありませんが(なんででしょうね)、(1987年に利根川進博士が医学生理学賞を単独受賞されておりました。大変失礼いたしました。2013.9.2.加筆訂正)受賞されるとしたら単独だっておかしくありません。まだノーベル賞の可能性が潰えた訳ではありませんので向山先生には末永くお元気でいただくことを願ってやみません。

 

向山先生の”素直さと明るさと情熱を”というお言葉は向山研関係者のみならず若い研究者、もしくは研究者を目指す学生にはぜひ伝えたい銘言です。

 

全くの蛇足ではありますが、向山先生が現在東京化成工業の技術顧問をされている関係かもしれませんが、シンポジウムに出展していました。そこでなんと”合成するぞ!Tシャツ”が大盤振る舞いされていました。筆者もさらっとゲットさせていただきました。

 

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有機合成化学が専門。主に天然物化学、ケミカルバイオロジーについて書いていきたいと思います。
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