[スポンサーリンク]

一般的な話題

工学的応用における小分子キラリティーの付加価値: Nature Rev. Chem. 2017-6/7月号

[スポンサーリンク]

引き続き、Nature系唯一の化学の総説誌「Nature Reviews Chemistry」を紹介しています(過去の記事は記事下部参照)。

第4回目となる今回は2017年6月号7月号から、一部をピックアップして紹介します(一部の日本語タイトルはNature Reviews Chemistry日本語サイトから)。

工学的応用における小分子キラリティーの付加価値

キラリティーは大学学部1年生で習う重要な概念であり、いわゆる分子の「右手と左手の関係」「鏡像の関係」のことをいいます。

有機化合物においてキラリティーの創出、つまり不斉合成反応により多くの人工キラル化合物を簡単に供給できるようになりました。これらキラル化合物は主に、生体に関連する化合物、例えば医薬品の基本構造体などとして使われます。なぜなら、私達自身がキラリティーをもった分子集合体であり、体内に取り込むことによってキラリティーを高度に認識することができるからです。

一方で、工学的な応用においては、私達自身が直接影響を受けることがないため、キラリティーの付加価値は一般的には低くなります。代表的で身近な製品としてはキラル化合物を分離する「キラルカラムクロマトグラフィー」が挙げられます。本総説では、キラリティーの工学的な応用について有効であった例を紹介しています。

網羅的に紹介しているわけではなく、こんな用途にも使えますよといった導入的な記事です。なんせ、はじめは「キラルってなに?」「様々なキラルのかたち」というところから説明が始まっています。

工学的利用が考えられるキラル化合物例(出典:Nat. Rev. Chem. 2017, 1, 0045.)

 

また、基礎研究段階にある研究も含めて紹介。例えば、2016年のノーベル化学賞「分子マシン」に関連する研究で受賞者のBen Feringaの「パラジウム錯体の酸化還元反応を利用した分子モーター」も。話はそれますが、ケムステでこの研究をノーベル賞化学賞の発表前日に紹介し、なんと次の日ノーベル化学賞を受賞したので、アクセス数が急増しました。

パラジウム錯体の酸化還元反応を利用した分子モーター (Nat. Rev. Chem. 2017, 1, 0045.)

 

いずれにしても総説といえど11ページしかないので比較的簡単に読める内容です。自分の工学的な研究にキラリティーを導入したいという方におすすめです。

“The added value of small-molecule chirality in technological applications”

Brandt, J. R.; Salerno, F.; Fuchter, M. J. Nat. Rev. Chem. 2017, 1, 0045. DOI: 10.1038/s41570-017-0045

新材料生成のための廃プラスチックのケミカルリサイクル

プラスチックの有用性はもう改めていうまでもなく、衣類や自動車分野から医療機器やエレクトロニクスの製造に至るまでのすべての分野で活躍しています。それに伴い、それらの廃棄物の量も増え続け、現在では約1億5000万トンの廃棄物が年間発生しているといわれています。そのため、プラスチックの”リサイクル”技術はますます重要性を増しています。

純粋なプラスチック(ポリマー)の生産価格は、原油の価格に影響を受け変動します。一方でプラスチックのリサイクルの価格はあまり変動は受けません。

最近の主要プラスチックと原油の価格(出典:Nat. Rev. Chem.2017, 1, 0046)

 

本記事では、最先端のリサイクル技術の中でもケミカルリサイクル、つまり廃プラスチックを化学的に分解するなどして化学原料に再生する方法について述べています。様々な新反応によりプラスチックを分解する手法が紹介されており、単分子の反応開発の技術が、触媒開発がプラスチックの効率的な分解方法に役立つかもしれません。

“Chemical recycling of waste plastics for new materials production”

Rahimi, A.; García, J. M. Nat. Rev. Chem. 2017, 1, 0046. DOI: 10.1038/s41570-017-0046

遷移金属と光触媒の融合

有機化学分野で現在最も注目を集めている可視光レドックス触媒。様々な総説が知られていますが、この総説は、本分野の第一人者であるDavid W.C, MacMillan教授(プリンストン大)らによるもの。遷移金属触媒と併せ用いることによってこれまでに不可能といわれていた変換反応を温和な条件で実現しています。

遷移金属と光触媒反応の特徴(出典:Nat. Rev. Chem. 2017, 1, 0052.)

 

中身については特に述べませんが、自身の研究結果を中心にその反応のコンセプト・メカニズムを大変クリアに述べています。可視光レドックス触媒を使ってみようと思う方には必見の総説です。ちなみにケムステでも最近多くの光触媒反応関係の最新研究を紹介していますので、ぜひご覧ください。

可視光レドックス触媒反応に関するケムステ記事

“The merger of transition metal and photocatalysis”

Twilton, J.; Le, C. C.; Zhang, P.; Shaw, M. H.; Evans, R. W.; MacMillan, D. W. C. Nat. Rev. chem. 2017, 1, 0052. DOI: 10.1038/s41570-017-0052

個人購読のおすすめ

先日、私の大学でも論文購読費費用の高騰の影響か、100ほどの雑誌の購読を停止しようという提案が挙げられていました。内容的には確かにほとんどがいらない雑誌でしたが、おそらくその流れは止まらず、大学機関での購読はかなり難しい状況が進んでいます。

そういうわけで、機関購読を働きかけるのも手ですが、あまり期待できないので、気になる雑誌は個人購読をしたほうが良いと思います。前回も述べましたが,Nature Reviews Chemistryこの個人購読ならば1万円ちょっとです。ぜひ購読してみてはいかがでしょうか。

Nature Rev. Chem. に関するケムステ記事

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 化学系企業の採用活動 ~現場の研究員視点で見ると~
  2. ガラス工房にお邪魔してみたー匠の技から試験管制作体験までー
  3. 『ほるもん-植物ホルモン擬人化まとめ-』管理人にインタビュー!
  4. 「極ワイドギャップ半導体酸化ガリウムの高品質結晶成長」– カリフ…
  5. 第10回慶應有機化学若手シンポジウム
  6. 免疫/アレルギーーChemical Times特集より
  7. 環拡大で八員環をバッチリ攻略! pleuromutilinの全合…
  8. プロワイプ:実験室を安価できれいに!

注目情報

ピックアップ記事

  1. 塩野義製薬/米クレストール訴訟、控訴審でも勝訴
  2. マイクロリアクター徹底活用セミナー【終了】
  3. ベン・シェンBen Shen
  4. 第77回―「エネルギーと生物学に役立つ無機ナノ材料の創成」Catherine Murphy教授
  5. 化学者たちの感動の瞬間―興奮に満ちた51の発見物語
  6. 夢・化学-21 化学への招待
  7. シトクロムP450 BM3
  8. 化学分野での特許無効審判における 実験データの戦略的な活用方法【終了】
  9. オーストラリア国境警備で大活躍の”あの”機器
  10. 山口 潤一郎 Junichiro Yamaguchi

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年7月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31  

注目情報

最新記事

粉末 X 線回折の基礎知識【実践·データ解釈編】

粉末 X 線回折 (powder x-ray diffraction; PXRD) は、固体粉末の試…

異方的成長による量子ニードルの合成を実現

第693回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科(佃研究室)の髙野慎二郎 助教にお願…

miHub®で叶える、研究開発現場でのデータ活用と人材育成のヒント

参加申し込みする開催概要多くの化学・素材メーカー様でMI導入が進む一…

医薬品容器・包装材市場について調査結果を発表

この程、TPCマーケティングリサーチ株式会社(本社=大阪市西区、代表取締役社長=松本竜馬)は、医…

X 線回折の基礎知識【原理 · 基礎知識編】

X 線回折 (X-ray diffraction) は、原子の配列に関する情報を得るために使われる分…

有機合成化学協会誌2026年1月号:エナミンの極性転換・2-メチル-6-ニトロ安息香酸無水物(MNBA)・細胞内有機化学反応・データ駆動型マルチパラメータスクリーニング・位置選択的重水素化法

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2026年1月号がオンラインで公開されています。…

偶然と観察と探求の成果:中毒解毒剤から窒素酸化物を窒素分子へ変換する分子へ!

第692回のスポットライトリサーチは、同志社大学大学院理工学研究科(小寺・北岸研究室)博士後期課程3…

嬉野温泉で論文執筆缶詰め旅行をしてみた【化学者が行く温泉巡りの旅】

論文を書かなきゃ!でもせっかくの休暇なのでお出かけしたい! そうだ!人里離れた温泉地で缶詰めして一気…

光の強さで分子集合を巧みに制御!様々な形を持つ非平衡超分子集合体の作り分けを実現

第691回のスポットライトリサーチは、千葉大学大学院 融合理工学府 分子集合体化学研究室(矢貝研究室…

化学系研究職の転職は難しいのか?求人動向と転職を成功させる考え方

化学系研究職の転職の難点は「専門性のニッチさ」と考えられることが多いですが、企業が求めるのは研究プロ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP