[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

銀の殺菌効果がない?銀耐性を獲得するバシラス属菌

[スポンサーリンク]

 

銀ナノ粒子(もしくはナノシルバー)は強力かつほぼすべての菌に対し殺菌作用があり、今でもその効果に関する研究論文が毎年1000件以上発表されています。銀ナノ粒子が入った日用品も増えており、日常生活に関わりが深い材料になっています。ところがある特定の細菌(バシラス属)は銀ナノ粒子に長時間さらされると耐性を獲得しさらに細胞増殖が促進することがオーストラリアと香港のグループによって最近報告されています[1]

バシラス属菌に対する銀ナノ粒子の殺菌効果

銀ナノ粒子の殺菌効果は溶け出る銀イオンが主な原因で微量金属作用として古くから知られており、様々なバクテリア・ウイルスの殺菌に効果があります[2]。下図1にあるようにバシラス属菌も銀の濃度が上がるほど菌の増殖が抑制されています。ただ銀を添加しなかった場合と比べて、3-7mg/Lの銀濃度では明確な殺菌効果は見られません。著者らも指摘している通り、他の菌(Escherichia coli)であれば1mg/Lの銀でほぼ死滅する[3]ことから、バシラス属の菌は他に比べて銀ナノ粒子に対する耐性が高いと言えます。ただこのデータからは元々耐性が高かったのか、それとも耐性を獲得したのかは不明です。

1

バシラス属桿菌の成長におけるAg濃度の影響(文献[1]より引用)

銀ナノ粒子に対するバシラス属菌の耐性獲得

そこで著者らはバシラス属菌を銀ナノ粒子溶液に13日間さらした後に、改めて0-10mg/Lの銀ナノ粒子溶液中における菌の成長率を調べました。すると下図2にあるようにあらかじめ銀ナノ粒子にさらした菌(図中の赤枠内)の成長率(縦軸)がそうでないもの(青枠内)に比べて圧倒的に高いことが分かりました。さらに銀ナノ粒子が無い場合(一番奥の行:銀ナノ粒子濃度=0mg/L)でも、あらかじめ銀ナノ粒子にさらされていた菌の方が成長率が3倍ほど高く、明らかに銀ナノ粒子がバシラス属菌の成長を促進していることが分かります。

2_2

バシリス属菌の銀ナノ粒子に対する耐性獲得(文献[1]より引用、一部改訂)

バシラス属の菌類は環境中に多く生息する一方で人間や環境にとって害のある種(枯草菌枯葉菌(修正:2015/4/17)、炭疽菌等)も存在し[4]銀ナノ粒子を使って殺菌したつもりが実は有害な菌の成長を促進していたなんてことも起こりえます。このような耐性の獲得はバシラス属の菌が元々持っている性質が関係しており[1]他の菌でも起こるわけではないですが、今後銀ナノ粒子の利用は確実に増加するので気をつけて利用していく必要がありそうです。

 

参考文献

  1. Gunawan, C.; Teoh, W. Y.; Marquis, C. P.; Amal, R., Induced Adaptation of Bacillus sp. to Antimicrobial Nanosilver. Small 2013, 9 (21), 3554-3560. DOI: 10.1002/smll.201300761
  2. Marambio-Jones, C.; Hoek, E. V., A review of the antibacterial effects of silver nanomaterials and potential implications for human health and the environment. J. Nanopart. Res. 2010, 12 (5), 1531-1551. DOI: 10.1007/s11051-010-9900-y
  3. Sotiriou, G. A.; Pratsinis, S. E., Antibacterial activity of nanosilver ions and particles. Environ. Sci. Technol. 2010, 44 (14), 5649-5654. DOI: 10.1021/es101072s
  4. バシラス属-wikipedia

 

関連リンク

Ohno

投稿者の記事一覧

博士(理学)。ナノ材料に関心があります。

関連記事

  1. 製薬業界における複雑な医薬品候補の合成の設計について: Natu…
  2. 有機アモルファス蒸着薄膜の自発分極を自在制御することに成功!
  3. かさ高い非天然α-アミノ酸の新規合成方法の開発とペプチドへの導入…
  4. 今年も出ます!!サイエンスアゴラ2015
  5. マテリアルズ・インフォマティクスの手法:条件最適化に用いられるベ…
  6. ありふれた試薬でカルボン酸をエノラート化:カルボン酸の触媒的α-…
  7. Reaxys体験レポート:ログイン~物質検索編
  8. 化学者のためのエレクトロニクス入門③ ~半導体業界で活躍する化学…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 細胞同士の相互作用を1細胞解析するための光反応性表面を開発
  2. H-1B ビザの取得が難しくなる!?
  3. 試薬の構造式検索 ~便利な機能と使い方~
  4. リチウム金属電池の寿命を短くしている原因を研究者が突き止める
  5. バルビエ・ウィーランド分解 Barbier-Wieland Degradation
  6. 富士フイルム、英社を245億円で買収 産業用の印刷事業拡大
  7. フラグメント創薬 Fragment-Based Drug Discovery/Design (FBDD)
  8. カーボンナノリング合成に成功!
  9. ボールドウィン則 Baldwin’s Rule
  10. 光照射下に繰り返し運動をおこなう分子集合体

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2015年4月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  

注目情報

最新記事

5/15(水)Zoom開催 【旭化成 人事担当者が語る!】2026年卒 化学系学生向け就活スタート講座

化学系の就職活動を支援する『化学系学生のための就活』からのご案内です。化学業界・研究職でのキャリ…

フローマイクロリアクターを活用した多置換アルケンの効率的な合成

第610回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院理学研究科(依光研究室)に在籍されていた江 迤源…

マリンス有機化学(上)-学び手の視点から-

概要親しみやすい会話形式を用いた現代的な教育スタイルで有機化学の重要概念を学べる標準教科書.…

【大正製薬】キャリア採用情報(正社員)

<求める人物像>・自ら考えて行動できる・高い専門性を身につけている・…

国内初のナノボディ®製剤オゾラリズマブ

ナノゾラ®皮下注30mgシリンジ(一般名:オゾラリズマブ(遺伝子組換え))は、A…

大正製薬ってどんな会社?

大正製薬は病気の予防から治療まで、皆さまの健康に寄り添う事業を展開しています。こ…

一致団結ケトンでアレン合成!1,3-エンインのヒドロアルキル化

ケトンと1,3-エンインのヒドロアルキル化反応が開発された。独自の配位子とパラジウム/ホウ素/アミン…

ベテラン研究者 vs マテリアルズ・インフォマティクス!?~ 研究者としてMIとの正しい向き合い方

開催日 2024/04/24 : 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足…

第11回 慶應有機化学若手シンポジウム

シンポジウム概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大…

薬学部ってどんなところ?

自己紹介Chemstationの新入りスタッフのねこたまと申します。現在は学部の4年生(薬学部)…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP