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スポットライトリサーチ

タンパク質の非特異吸着を抑制する高分子微粒子の合成と応用

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第80回のスポットライトリサーチは、信州大学大学院 総合工学系研究科 鈴木研究室博士2年の呉羽拓真さんにお願いしました。

生命機能・ファイバー工学専攻に籍を置く鈴木研究室では、「高分子微粒子の次元制御とマイクロ空間場における機能制御」をコンセプトに研究が行われています。具体的には、①高分子微粒子のデザインや合成手法の開発②最新の機器分析を利用した、未だないがしろにされてきた構造の評価③微粒子集積化による機能性材料の創製 をテーマに、材料科学やナノテクノロジーで注目される多くの研究成果が生み出されています。

今回紹介させていただく呉羽さんは、今年1月に開催された第28回高分子ゲル研究討論会で、25件中3件のポスター賞に選ばれたひとりです。信州大学のHPにて受賞が報告されていたのが目に留まり、依頼させていただきました。

呉羽さんについて、指導教官の鈴木大介准教授はこのようにコメントされています。

 

呉羽君の第一印象は、その金髪の風貌から、とても実験を一生懸命に行う学生とは思えませんでした。縁あり、当研究室に所属しました。彼との距離が近づくと、印象とは全く別の行動を見せました。実験には我武者羅で、弱音を吐きません。また無謀にも、4年生の時に、私たちの主戦場である高分子ミクロスフェア討論会に参加させてほしいと嘆願してきました。このようなことが続き、また、チャンスにはなんでもYesという貪欲な姿勢からは(裏で真に何を考えているかは不明。拓真なだけに)、当初はどこか浮ついていた雰囲気が、近年では鋭さと恐さ(良い意味で)を兼ね備えてきました。もちろん彼は、イケメンで、ナチュラルで、ファンクラブがあるくらいなのですが・・・。

冗談はさておき、呉羽君は小職が研究室を構えてから出会ってきた学生の中で、最も魅力ある学生です。研究・業績が秀でているだけでなく、後輩たちの憧れであり、よきアドバイザーです。人望も厚く、また学会界でも、いろいろな先生たちにかわいがってもらっている様子です。研究ができると楽しいよ、という事を私が下級生や研究室に所属する前の学部生たちに言う必要がなく、本当に頼りになる学生です。きっとどこかで、大成すると確信しています。

鈴木研究室、そして呉羽さんの今後のご活躍を期待しております!

それでは、呉羽さんの受賞内容に関するインタビューをお楽しみください。

Q1. 今回の受賞対象となったのはどんな研究ですか?

難水溶性でありながらタンパク質の非特異吸着を抑制することのできる高分子微粒子の合成と、それを応用した研究です。このような生体適合性微粒子は1990年代から開発され[1]、アフィニティークロマトグラフィーや診断薬等、狙ったタンパク質やDNAを特異的に分離できる材料として発展しています。本研究で合成した高分子微粒子では、微粒子を構成する高分子側鎖が、非共有結合相互作用の一種であるハロゲン結合[2]の作用点となります。それにより、ハロゲン原子を持つ薬剤等の低分子化合物を選択的に分離するというこれまでにない機能を有します。更に、この難水溶性の微粒子を外部刺激に応答させ、水膨潤するヒドロゲル微粒子に複合化させることで、困難とされていたハロゲン化合物の放出制御を達成しました。

 

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

高分子微粒子ならではの特徴をどのように引き出すかという点を工夫しました。例えば本研究では、微粒子の素となるモノマー、重合開始剤、水だけを使ったシンプルかつクリーンな手法で微粒子を合成でき、水溶媒を乾燥させるだけで、基板のコーティングや扱いやすいバルクフィルムが作製できるという特徴があります(図上部)。現在も、そのような高分子微粒子ならではの利点を深く掘り下げている段階です。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

我々の作製した微粒子は、他の高分子微粒子よりもハロゲン化合物をよく吸着し、離さない(図下部)という点からハロゲン結合が起きていると考えています。しかし、それを理論的・実験的に証明することは難しく、完全には乗り越えられていません。今後、結合定数、粒子表面の物性変化、ハロゲン種を変える等といった多角的なアプローチから実証していきたいと思っています。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

まずは研究を楽しむ、そして専門分野を極め、化学と真摯に向き合える研究者として関わり続けたいです。本研究とは別に、これまでは高分子物理の研究にも携わってきましたので[3-6]、物理と化学の知識や経験を融合し、新しい概念を生み出していきたいと思います。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

何かにチャレンジする際の意気込み、また人間味が研究にも反映されると実感しています。本研究テーマも完結させ、そこから生まれる新たな課題にどんどん挑戦していきたいと思います。

最後になりましたが、常日頃より多大なるご指導を賜ります 鈴木大介 准教授に厚く御礼申し上げます。

また、多くの刺激を与えてくれる研究室メンバーの方々に感謝いたします。

 

参考文献

  1.  Y. Inomata, H. Kawaguchi, M. Hiromoto, Y. Wada, H. Handa, Anal. Biochem. 1992, 206, 109. DOI: 10.1016/S0003-2697(05)80018-1
  2. T. M. Beale, M. G. Chudzinski, M. G. Sarwar, M. S. Taylor, Chem. Soc. Rev. 2013, 42, 1667. DOI: 10.1039/C2CS35213C
  3. D. Suzuki, Y. Nagase, T. Kureha, T. Sato, J. Phys. Chem. B. 2014, 118, 2194. DOI: 10.1021/jp410983x
  4. T. Kureha, T. Sato, D. Suzuki, Langmuir 2014, 30, 8717. DOI: 10.1021/la501838c
  5. S. Matsui, T. Kureha, Y. Nagase, K. Okeyoshi, R. Yoshida, T. Sato, D. Suzuki, Langmuir 2015, 31, 7228. DOI: 10.1021/acs.langmuir.5b01164
  6. T. Kureha, T. Shibamoto, S. Matsui, T. Sato, D. Suzuki, Langmuir 2016, 32, 4575. DOI: 10.1021/acs.langmuir.6b00760

研究者の略歴

名前:呉羽 拓真 (くれは たくま)

所属:信州大学大学院総合工学系研究科生命機能・ファイバー工学専攻 鈴木研究室 博士後期課程2年, 日本学術振興会特別研究員(DC1)

研究テーマ:高分子ゲル微粒子の分子分離機能発現とミクロ構造解析

略歴:
1991年 長野県生まれ
2013年3月 信州大学 繊維学部 応用化学課程 卒業
2015年3月 信州大学大学院 理工学系研究科 化学・材料専攻 博士前期課程修了
2018年3月 信州大学大学院 総合工学系研究科 生命機能・ファイバー工学専攻 博士後期課程 修了見込み

めぐ

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博士(理学)。大学教員。娘の育児に奮闘しつつも、分子の世界に思いを馳せる日々。

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