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化学企業のグローバル・トップ50が発表【2021年版】

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The global chemical industry made it through the worst of the COVID-19 pandemic with scratches and abrasions but few broken bones. According to data from C&EN’s Global Top 50 survey, the world’s largest chemical firms posted a 7.1% decline in chemical sales from 2019, to $795.8 billion in 2020, the fiscal year on which the survey is based. (引用:C&EN 7月26日)

今年もC&ENより化学企業のグローバル・トップ50が発表されました。統計はC&ENが調査した2020年の化学品の売上に基づいたもので、各社の化学品以外の売り上げを除いた結果になっています。

総評

COVID-19のパンデミック前だった2019年と比較して、2020年の結果はそこまで悪くなかったと評しています。その根拠について、2019年の化学品の売り上げは、トップ50社の合計で5.0%の減少だったのに対して2020年は7.1%の減少にとどまり、トップ50で公表されている収益も2019年は28.2%の減少だったのに対して2020年は22.6%の減少にとどまっていることを挙げています。全体を見て確かに航空と自動車関連に関連する素材の販売には大打撃を受けましたが、一方で食品包装やCOVID-19対策の個人保護具への素材は力強い販売量が見られました。

今年の傾向を見ると、石油化学に強く依存している会社は売り上げと順位を落とし産業ガスや農薬を販売している会社は売り上げも順位も上げている傾向にあります。トップ50のうち、12以上の会社ではプラスチックのリサイクルに関する活動を始め、ほぼ同数の会社でアンモニアや水素製造に目を向けています。他にもプラントのエネルギー効率の改善や再生可能エネルギーで発電された電気での運用なども検討されています。これらは、会社の業績には現時点では反映されていないもののサステナビリティもCOVID-19と同様に2020年の重要なテーマでした。

トップ50からの出入り

Shell chemicalsは化学品の売上を公表再開したため、5年の休止を経てトップ50に戻ってきました。また、中国のポリエステル製品を製造するRongsheng Petrochemical、DowDuPontの農薬部門である Corteva Agriscienceがトップ50に新規にランクインしました。一方、Ecolabは、油田に関連する化学事業を切り離したためランク外となりました。SK InnovationPTT Global Chemicalは、石油化学の売上が減少したためランク外となりました。

ランクインした企業

ランキングの変動

1,2,3位は、変動なくBASFSinopecDowの順になりました。ただし1-2位の差は、2019年には50億ドルだったのが2020年には210億ドルに拡大し、これはBASFがCOVID-19の影響を抑えたからだと分析しています。BASFの注目すべき活動としてサステナビリティへの貢献が挙げられ、具体的には二酸化炭素の排出をこの10年の終わりまでに2018年比較で25%減らす目標掲げ、再生可能エネルギーでの発電や、電気分解で生成した水素の使用を検討しています。Sinopecは、この先2年で中国のZhenhai, Hainan, Tianjinにエチレンクラッキングプラントの建設を完了させ、プロパン脱水素化プラントの建設も来年からZhenhaiにて始まる予定となっており、生産拡大に邁進しているようです。Dowは、人員削減やプラントのシャットダウンでコスト削減を行うと同時に、投資を進めており、例えば中国のZhanjiangにスペシャリティケミカルのプラントを建設する計画があるようです。

トップ3

上位20社では、Ineos(4位), LG Chem(7位), Hengli Petrochemical(15位)が順位を大きく上げました。

順位を上げた企業

Ineosは、BPから化学品のビジネスを再統合させました。

LG Chemは、米国におけるSK innovationとの車載バッテリーを巡る紛争に和解し、18億ドルの現金と今後の売上の数%をロイヤルティーとして受け取ることで同意しました。

Hengli Petrochemicalは2020年に26位に登場し、今年はさらに順位を上げました。COVID-19のパンデミックに見舞われたにも関わらず、中国の石油化学企業の売上は上昇しました。この成長には、信じられない速さでのプラント建設が一つの要因であり、Hengliでは2020年に2つの大きなテレフタル酸の製造プラントをスタートさせました。さらにHuizhouでのテレフタル酸の製造ラインの拡張やDalianでの生分解性プラスチックの製造プラントを計画しています。

ランクインしている日本企業に大きな変動はありませんでした。多くの企業が売り上げを減らしている中、住友化学は微増の売上を記録していて、C&ENの記事の中では売上維持の理由には触れられていませんが、総評により農薬関係の販売が下支えしたのかもしれません。

今回のC&EN記事では、各社のプラントの写真がいくつか掲載されており、大変興味深い記事内容となっています。また、全50社に加えられているコメントも精錬されており、詳しい調査の上で書かれた記事であることが分かります。このケムスケニュースでは一部のみを翻訳していますので、ぜひオリジナルの記事も読んで欲しいと思います。

三菱ケミカルに関する内容の中ではマイクロ波化学との共同実証設備の建設についても触れられている。

C&ENの総評の通り、トップ50の業績とランキングの変動には、石油化学製品への打撃が顕著に表れているようです。そんな中でも初めてランクインしたり順位を大きく上げている中国企業のあり、存在感が増していることは確かです。ここから先は、サステナビリティを高めながら化学品を製造することが重要になってきますので、日本企業も技術を深化させて世界をリードしてほしいと思います。

関連書籍

グローバル・トップ50のケムステ過去記事

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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