[スポンサーリンク]

天然物

ソラノエクレピンA (solanoeclepin A)

[スポンサーリンク]

GREEN2013sol01.png

ソラノエクレピンAは、ジャガイモの水耕栽培液から単離された、ジャガイモシストセンチュウ休眠覚醒成分。

 

 

ジャガイモシストセンチュウは、ジャガイモの他、トマトなどナス科植物に寄生し、収穫に壊滅的な被害を与えるため、害虫として忌み嫌われています。殻で覆われたシストと呼ばれる状態でジャガイモシストセンチュウは休眠し、乾燥や霜に耐えて収穫を終えた畑に残存します。このシストになる性質のため、ジャガイモシストセンチュウの駆除は困難で、輪作では対応不可能、農薬散布もなかなか効果があがりません。

 

そこで、ソラノエクレピンAの特異な生物活性を利用すれば、作物が栽培されていないタイミングで、幼虫を休眠状態から目覚めさせ、餓死させることにより、環境に負荷を与えず線虫被害を根絶できるのではないかと期待されていました。しかし、ソラノエクレピンAは天然から極微量しか得られないため、構造活性相関の研究も進みにくく、大量合成可能な類縁体も知られていません。

 

2011年[1]、谷野圭持氏・宮下正昭氏らの手により、世界初となる全合成が達成。三員環から七員環までのすべての員数の炭素環を含む複雑かつ特有の構造を有し、3-メチルシクロヘキセノンを出発原料に52工程を要しました。

GREEN2013sol02.png

The key disconnections in a planned total synthesis effort for solanoeclepin A are shown.

 

この合成標品によって、実際に生理活性も確認されました。この実験で、植物の根抽出物との比較から、ソラノエクレピンAの効果を高める未知物質の存在が新たに示唆され、センチュウ感染にともなう分子機構の解明に向けて進展がありました。

 

  • 参考論文

[1] "Total synthesis of solanoeclepin A." Keiji Tanino et al. Nature Chemistry 2011 DOI: 10.1038/nchem.1044

Green

投稿者の記事一覧

静岡で化学を教えています。よろしくお願いします。

関連記事

  1. ルテイン / lutein
  2. 化学者のためのエレクトロニクス入門⑤ ~ディスプレイ分野などで活…
  3. フルオキセチン(プロザック) / Fluoxetine (Pro…
  4. カンプトテシン /camptothecin
  5. グルコース (glucose)
  6. ブレオマイシン /Bleomycin
  7. トリニトロトルエン / Trinitrotoluene (TNT…
  8. 亜鉛クロロフィル zinc chlorophyll

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 年収で内定受諾を決定する際のポイントとは
  2. 抗精神病薬として初めての口腔内崩壊錠が登場
  3. 全合成 total synthesis
  4. トリメトキシフェニルシラン:Trimethoxyphenylsilane
  5. メチオニン選択的タンパク質修飾反応 Met-Selective Protein Modification
  6. はしか流行?
  7. 経営統合のJXTGホールディングスが始動
  8. ボールマン・ラーツ ピリジン合成 Bohlmann-Rahtz Pyridine Synthesis
  9. 大鵬薬品、米社から日本での抗癌剤「アブラキサン」の開発・販売権を取得
  10. がん治療用の放射性物質、国内で10年ぶり製造へ…輸入頼みから脱却

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2013年6月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930

注目情報

最新記事

フローマイクロリアクターを活用した多置換アルケンの効率的な合成

第610回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院理学研究科(依光研究室)に在籍されていた江 迤源…

マリンス有機化学(上)-学び手の視点から-

概要親しみやすい会話形式を用いた現代的な教育スタイルで有機化学の重要概念を学べる標準教科書.…

【大正製薬】キャリア採用情報(正社員)

<求める人物像>・自ら考えて行動できる・高い専門性を身につけている・…

国内初のナノボディ®製剤オゾラリズマブ

ナノゾラ®皮下注30mgシリンジ(一般名:オゾラリズマブ(遺伝子組換え))は、A…

大正製薬ってどんな会社?

大正製薬は病気の予防から治療まで、皆さまの健康に寄り添う事業を展開しています。こ…

一致団結ケトンでアレン合成!1,3-エンインのヒドロアルキル化

ケトンと1,3-エンインのヒドロアルキル化反応が開発された。独自の配位子とパラジウム/ホウ素/アミン…

ベテラン研究者 vs マテリアルズ・インフォマティクス!?~ 研究者としてMIとの正しい向き合い方

開催日 2024/04/24 : 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足…

第11回 慶應有機化学若手シンポジウム

シンポジウム概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大…

薬学部ってどんなところ?

自己紹介Chemstationの新入りスタッフのねこたまと申します。現在は学部の4年生(薬学部)…

光と水で還元的環化反応をリノベーション

第609回のスポットライトリサーチは、北海道大学 大学院薬学研究院(精密合成化学研究室)の中村顕斗 …

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP