[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

ACS Macro Letters創刊!

[スポンサーリンク]

アメリカ化学会(ACS)の高分子科学専門誌であるMacromoleculesのCommunications部分が独立して、高分子科学のCommunications専門誌となるACS Macro Lettersが2012年1月から創刊されました。

Macro LettersのEditorや取り扱う領域は、基本的にMacromoleculesと同じです。Macromoleculesで取り扱う論文が多くなりすぎたので、Communicationsだけを独立させてMacro Lettersを創刊…といったところでしょうか。ただし、Notesは変わらずMacromoleculesに掲載し続けるようです。

 

Macro LettersはCommunicatonsだけを取り扱うため、インパクトファクターはMacromoleculesよりも高くなることが予想されます(Macromoleculesの2010年のIF=4.838)。同じ高分子科学専門誌で、Communicationsだけを取り扱うWileyのMacromolecular Rapid Communications(2010年のIF=4.371)がライバル誌といったところでしょうか。高分子科学系の雑誌は、英国王立化学会(RSC)のPolymer Chemistryが2010年に創刊されたり、日本の高分子学会がPolymer Journalを2009年からNature Publishing Groupより出版するようになったりと、近年その動きが活発化しています。色々な意味で、ACS Macro Lettersから目が離せません。

さて、ACS Macro Lettersの栄えある第一号の論文には、カーネギーメロン大 Matyjaszewski教授のグループからの論文が選ばれました。タンパク質がその構造を保てる条件下でタンパク質から原子移動ラジカル重合(ATRP)を行うという報告です。ちなみに、Macro Letters創刊号にはもMatyjaszewskiグループの論文がもう1報掲載されています。さすがです。

ATRP under Biologically Relevant Conditions: Grafting from a Protein
Averick, S.; Simakova, A.; Park, S.; Konkolewicz, D.; Magenau, A. J. D.; Mehl, R. A.; Matyjaszewski, K.
ACS Macro Lett. 2012, 1, 6–10. DOI: 10.1021/mz200020c

ATRPは、同グループと京都大学 澤本教授のグループが同時期に開発した重合方法で、分子量・分子量分布・末端官能基などが簡単に制御できることから幅広く利用されています。ATRPを用いてタンパク質から重合を行うことで蛋白質‐高分子ハイブリッドが得られますが、これまでは、ATRPはタンパク質の構造が崩れてしまうような条件下で行われていたようです。そこで今回、同グループはタンパク質の構造を崩さない条件での重合条件の最適化を報告しています(下図)。

細胞等を扱う際に用いる緩衝液(PBS)を用い、ATRPまたはATRPの1種であるAGET ATRPを用いることで数平均分子量が10~2万、分子量分布が1.1程度の高分子をタンパク質から重合することに成功しています。ATRPはどこでも・どこからでも進行するな、といった印象です。ATRPが報告されてから約17年となりますが、まだまだATRPの利用が拡大していくようです。

Macro Lettersの巻頭レビューでは、グラフェンとタンパク質からの重合がテーマとして取り上げられていました。また、タンパク質のような生体分子やカーボンナノチューブといった炭素材料など、高分子のハイブリッドを用いた研究が多々報告されています。これからは、高分子単体としてだけでなく、様々な分子・材料とどう組み合わせて、どう面白い特性を出していくかが大きな研究領域となっていく…というのが編集部の見解なのかな、と思った次第です。

 外部リンク

suiga

投稿者の記事一覧

高分子合成と高分子合成の話題を中心にご紹介します。基礎研究・応用研究・商品開発それぞれの面白さをお伝えしていきたいです。

関連記事

  1. 有機合成化学協会誌2019年6月号:不斉ヘテロDiels-Ald…
  2. 和製マスコミの科学報道へ不平不満が絶えないのはなぜか
  3. 重水は甘い!?
  4. ADC薬基礎編: 着想の歴史的背景と小分子薬・抗体薬との比較
  5. 世界⼀包括的な代謝物測定法の開発に成功〜ワンショットで親⽔性代謝…
  6. 創薬におけるPAINSとしての三環性テトラヒドロキノリン類
  7. ピレスロイド系殺虫剤のはなし~追加トピック~
  8. 実験メガネを15種類試してみた

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. グラクソ、糖尿病治療薬「ロシグリタゾン」が単独療法無効のリスクを軽減と発表
  2. リングサイズで性質が変わる蛍光性芳香族ナノベルトの合成に成功
  3. 浦野 泰照 Yasuteru Urano
  4. STAP細胞問題から見えた市民と科学者の乖離ー後編
  5. ケムステタイムトラベル2010 ~今こそ昔の記事を見てみよう~
  6. ドナルド・トゥルーラー Donald G. Truhlar
  7. ChemDrawの使い方【作図編③:表】
  8. 低い電位で多電子移動を引き起こす「ドミノレドックス反応」とは!?
  9. Reaxys無料トライアル実施中!
  10. アンドレイ・ユーディン Andrei K. Yudin

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年2月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
272829  

注目情報

最新記事

フローマイクロリアクターを活用した多置換アルケンの効率的な合成

第610回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院理学研究科(依光研究室)に在籍されていた江 迤源…

マリンス有機化学(上)-学び手の視点から-

概要親しみやすい会話形式を用いた現代的な教育スタイルで有機化学の重要概念を学べる標準教科書.…

【大正製薬】キャリア採用情報(正社員)

<求める人物像>・自ら考えて行動できる・高い専門性を身につけている・…

国内初のナノボディ®製剤オゾラリズマブ

ナノゾラ®皮下注30mgシリンジ(一般名:オゾラリズマブ(遺伝子組換え))は、A…

大正製薬ってどんな会社?

大正製薬は病気の予防から治療まで、皆さまの健康に寄り添う事業を展開しています。こ…

一致団結ケトンでアレン合成!1,3-エンインのヒドロアルキル化

ケトンと1,3-エンインのヒドロアルキル化反応が開発された。独自の配位子とパラジウム/ホウ素/アミン…

ベテラン研究者 vs マテリアルズ・インフォマティクス!?~ 研究者としてMIとの正しい向き合い方

開催日 2024/04/24 : 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足…

第11回 慶應有機化学若手シンポジウム

シンポジウム概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大…

薬学部ってどんなところ?

自己紹介Chemstationの新入りスタッフのねこたまと申します。現在は学部の4年生(薬学部)…

光と水で還元的環化反応をリノベーション

第609回のスポットライトリサーチは、北海道大学 大学院薬学研究院(精密合成化学研究室)の中村顕斗 …

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP