[スポンサーリンク]

一般的な話題

レビュー多くてもよくね?

[スポンサーリンク]

先日化学者のつぶやきにて昨今総説が多すぎるのではないかと指摘するケムステ副代表による記事が掲載されました。
今回の筆者のポストはその主張に真っ向から対立するものです。筆者は総説の増発は悪と思っておりません。
さあ副代表にケンカを売るという前代未聞の御家騒動ケムステに勃発!?
クビを覚悟の玉砕ポストをお読みいただき、このテーマについて皆さんにも少し考えていただければと思います。

まあ当然冗談なんですけどね。副代表に触発されて書いた記事ですので、続き記事だとでも思ってお読み下さい。
さて、先日の副代表によるポストで指摘されているのは大きく分けて以下の4点です。

1, 最近似たような総説が乱立していること
2, 原著論文誌がimpact factorを稼ぐ為としか思えない、総説コーナーを作り始めていること
3, 総説がありすぎるので、自分の研究論文でどれを引けば良いかわからなくなること
4, 総説の執筆に時間をとられ本来の研究に影響があるのではないかという懸念

なるほど確かに最近総説の数が多いなあというのは皆さんも実感としてあると思います。総説の総説が必要かもというツイートもいただき、クスッときました。では、そもそもなんで総説なるものがあるんでしょうか?そこから考えてもいい気がします。

文献データベースを使うと総説のみを抽出することも可能ですが、化学分野における最も古い総説は“Berlinischer Jahrbuch fur Pharmacie (1795-1840)”であると言われています[1]。1840年代には既に総説という形が出来上がっていたということです。総説は、

1, その分野で確かな知識を持った専門家が
2, あるテーマについて厳選した論文をまとめ
3, 賛否を含めた解説をする

というものです。よって、有象無象の原著論文を数多く読むこととは異なり、総説を読めばその分野の専門家を始め、そんなに造詣が深くないけどその分野に興味がある研究者にとって有益な情報がまとまって手に入るというメリットがあります。
むしろ総説に取り上げられる論文は少なくとも総説の著者が紹介する価値があるとみなしたものですので、総説だけを読めば、その分野の重要な論文がわかるとも言えます。
review_1.jpg
現在のように電子ジャーナルとしてすぐさま論文にアクセスする環境が整う以前は、図書館にこもって片っ端から論文誌を読み漁ったり、Chemical Abstractsのような抄録を参照する以外に学術情報を入手する術がありませんでした。所属機関が購入していない論文誌は読むことも叶いませんでした。よって総説の果たす役割は現在以上のものがありました。
抄録や総説を読み、必要と思われる論文は著者に別刷りを請求したものです(現在でも残るこの別刷りという文化はいつ無くなるのでしょうか?請求されるのも希になりましたし、請求してくるのもPDFファイルです。プリントは正直邪魔だったりします)。

現代では情報収集をSciFinderPubMedといったデータベースがしてくれます。キーワードで検索すれば関連した論文に容易にアクセスできます。であったとしても、データベース検索では参照する価値があるかないかは判定してくれませんので、それこそ膨大な数の論文がヒットしてしまいます。よって結局は総説を参照するはめになることも少なくありません。

 

総説の乱立は悪か?

 

総説の数が多いこと、同様のテーマを扱った総説があることには何の問題もなく、むしろ当然だと思います。我が国の論文生産力は伸びていない、もしくは下がっていることが指摘されていますが、世界的に見れば原著論文の数は右肩上がりです。研究分野も広がりんぐですし、総説を執筆するに値する研究者の数も増える一方です。よって総説の数は今後も増え続けることでしょう。いやむしろ前述の通り、膨大な原著論文から重要と思われる論文をまとめる総説の重要性は増していくのではないでしょうか。
似たような総説が登場するテーマは執筆する研究者の数、そしてニーズが見込まれるということですので、総説が多い=ホットトピックスとでも考えておけばいいと思います。

 

JACSよお前もか・・・

 

最近通常の学術誌がこぞって総説を載せるようになりました。JACS誌も始めるとか。筆者もこの流れはあまり好ましくない気がしています。安易にIFを稼ぐためという不純な動機であるならば、即刻やめるべきと思います。学術誌にはそれぞれの役割があると思いますし(そういった意味では速報誌なのに膨大で完璧なデータを求めてくるrefereeとかは◯んで欲しいです)、原著論文と総説は完全に住み分けるべきだと思います。IFの計算を原著と総説で分けるという副代表の提案には賛成いたします。総説を引用した時と引用された時は原著と別にしてやって、Reviewed Indexなんていうのにしたらどうでしょう。トムソンーロイターさんぜひともご検討を。

 

You全部引用しちゃいなよ

 

総説が多くてどれを引用すればいいのか分からないという点に関しては、新しくて、関係がある人のを挙げればいいと思います。地獄の沙汰も◯次第ともいいますしね。以前筆者が投稿した論文の審査で、この総説を引用するべき、というコメントが付いたことがありました。我田引水とも思いましたが、まあ引用に加えても問題ない部分だったので加えましたよ。はい。引用文献の数に制限がない雑誌ならば、全部引用してしまえば安心ですね!

 

総説執筆依頼は一極集中から広く浅くへ

 

全ての分野、学術誌の内情を知っているわけではありませんが、総説というのは基本的に依頼されて執筆するものです。少なくとも雑誌の編集者の誰かが認めた研究者しか執筆することができません。依頼された後も、こんな内容はどうでしょうと企画書を出したり、当然総説投稿後の原稿も査読を受けます。よってやろうと思っても自分のh-index上げるためという不純な動機で総説を書きまくるなどという輩は登場しないでしょう。
昔は総説をまとめることができるような広範な知識をもった研究者の数は限られていました。現在では総説の執筆にデータベースを利用することができるので、ある程度信頼の置ける研究者ならばそれなりのものを書いてくれることでしょう。
執筆側もしんどいなあと思ったら執筆を断るのもいいかもしれませんね。筆者は断るほど依頼を受けないのでいつでもwelcome状態です(九月締め切りの原稿まだ一語も書いてないけど・・・)。
review_2.jpg

 

まとめ

これからの科学の営みでは論文を発表することよりも、総説としてまとめることの方がむしろ重要な作業になっていくのではないかとも思えてきます。後世に影響を与えるであろう研究は総説としてまとめておくべきで、初学者からエキスパートまで今後ニーズは増え続けていくでしょう。

そういった意味で、日本語で書かれた総説は貴重です。我が国の初学者に対して、自分の研究分野の魅力や最先端の競争の現状を伝える貴重な場です。筆者の分野には有機合成化学協会誌というのがありますが、この雑誌には若手を対象としたReview de debut というコーナーがあります。わずか2ページではありますが、実際に総説を書くという貴重な経験ができるので人気があるようです。重鎮の研究にコメントできちゃうんですから、いい勉強にもなるでしょう。このような試みはもっとあっていいかもしれません。

以上まとめると、副代表の提示された総説多すぎというテーマについて、筆者は多すぎない、むしろ増えて当然と主張します。
ただし、副代表のご指摘通り、IFを稼ぐための安易で低レベルな総説は即刻やめるべきで、IFの集計時など、原著論文と総説を分けるというルールを作ってもいいのではないかと考えます。

皆様もぜひこの機会に総説ってなんだろうかとお考えくださいませ。

 

参考文献

1. Review Journalの意義と重要性, 関口昌樹, 薬学図書館, 15, 52-59 (1970).

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4822246698″ locale=”JP” title=”科学者として生き残る方法”][amazonjs asin=”4000296108″ locale=”JP” title=”科学者の卵たちに贈る言葉――江上不二夫が伝えたかったこと (岩波科学ライブラリー)”][amazonjs asin=”4309412947″ locale=”JP” title=”「科学者の楽園」をつくった男:大河内正敏と理化学研究所 (河出文庫)”][amazonjs asin=”4004314402″ locale=”JP” title=”科学者が人間であること (岩波新書)”]
Avatar photo

ペリプラノン

投稿者の記事一覧

有機合成化学が専門。主に天然物化学、ケミカルバイオロジーについて書いていきたいと思います。

関連記事

  1. 新規抗生物質となるか。Pleuromutilinsの収束的短工程…
  2. 博士の学位はただの飾りか? 〜所得から見た学位取得後のキャリア〜…
  3. 光触媒ーパラジウム協働系によるアミンのC-Hアリル化反応
  4. 夢の筒状分子 カーボンナノチューブ
  5. メソポーラスシリカ(2)
  6. ERATO伊丹分子ナノカーボンプロジェクト始動!
  7. ルテニウム触媒を用いたcis選択的開環メタセシス重合
  8. クロスカップリング反応ーChemical Times特集より

注目情報

ピックアップ記事

  1. 神経細胞の伸長方向を光で操る
  2. 生命が居住できる星の条件
  3. 仙台の高校生だって負けてません!
  4. クロロ(1,5-シクロオクタジエン)イリジウム(I) (ダイマー):Chloro(1,5-cyclooctadiene)iridium(I) Dimer
  5. 【PR】Chem-Stationで記事を書いてみませんか?【スタッフ・寄稿募集】
  6. 有機触媒によるトリフルオロボレート塩の不斉共役付加
  7. 170年前のワインの味を化学する
  8. イボレノリドAの単離から全合成まで
  9. ノーベル賞化学者に会いに行こう!「リンダウ・ノーベル賞受賞者会議」応募開始
  10. トリフルオロメタンスルホン酸トリエチルシリル : Triethylsilyl Trifluoromethanesulfonate

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2014年5月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

7th Compound Challengeが開催されます!【エントリー〆切:2026年03月02日】 集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

メルク株式会社より全世界の合成化学者と競い合うイベント、7th Compound Challenge…

乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

大森 建 Ken OHMORI

大森 建(おおもり けん, 1969年 02月 12日–)は、日本の有機合成化学者。東京科学大学(I…

西川俊夫 Toshio NISHIKAWA

西川俊夫(にしかわ としお、1962年6月1日-)は、日本の有機化学者である。名古屋大学大学院生命農…

市川聡 Satoshi ICHIKAWA

市川 聡(Satoshi Ichikawa, 1971年9月28日-)は、日本の有機化学者・創薬化学…

非侵襲で使えるpH計で水溶液中のpHを測ってみた!

今回は、知っているようで知らない、なんとなく分かっているようで実は測定が難しい pH計(pHセンサー…

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP