[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

1と2の中間のハナシ

[スポンサーリンク]

 

以前重曹のお掃除のお話を書いたみねです。

 

忙しくて大分ご無沙汰していました。その後ネットをさまよってみると、重曹掃除の上級者はセスキ炭酸ナトリウム、通称セスキを使っていることがわかりました。セスキ炭酸ナトリウム、正直に言って知りませんでした。おそらく化学者でも相当知らないのではないかと思います。今日はこの「セスキ」にまつわるお話を。

[amazonjs asin=”4840146268″ locale=”JP” title=”はじめよう! セスキ炭酸生活 重曹を超えた、ナチュラル・クリーニング”]

 

セスキ炭酸ナトリウムとは?

セスキ炭酸ナトリウムとは、Na3H(CO3)2 nH2Oで表される無機物で、こう書くよりもNa1.5H0.5CO3と書いた方が化学者としてはわかりやすいでしょう。組成式としては重曹と炭酸ナトリウムのちょうど間になりますが、混合物ではなく、この組成の相があるようです。他にもNa1.25H0.75CO3なんてのもあるそうです。重炭酸イオン(HCO3-)と炭酸イオン(CO32-)とが1:1で混ざった複塩です。

[amazonjs asin=”B0031ZW1DK” locale=”JP” title=”セスキ炭酸ソーダ アルカリ洗浄剤 セスキ炭酸ナトリウム100% 5kg 粉末”]

水溶液のpHは、重曹が8、炭酸ナトリウムが10に対してセスキはちょうど間の9であり、天然にも算出する(安い)ことなどからも掃除用に市販されています。この強すぎず弱すぎず中途半端な感じがいいのでしょう。

 

ところでセスキってなんだ?

2015-05-23_23-23-37

この耳慣れない接頭辞セスキ(Sesqui)は1と2の間、つまり1.5を表す接頭辞で、セスキと聞いて化学者が思い当たるのは、まずはセスキテルペンでしょうか。テルペン類は生物が体の中で合成する多様な化合物の基本骨格になるもので、10炭素のモノテルペンの中にはリモネンやメントール、シトロネロールや樟脳などがあります。これらはイソプレン(炭素五個)2つから生合成されるため、10個の炭素からなります。20炭素のジテルペン(タキソールなど)、30炭素のトリテルペン(スクアレンなど)もあり、長いものでは天然ゴムがテルペン(イソプレン)のポリマーであることは、高校でも習ったかもしれません。

2015-05-23_23-24-30

もちろんそれ以外にもイソプレン1個とか、3個、5炭素や15炭素化合物もあり、この15炭素化合物がテルペン(10炭素)1.5個分ということでセスキテルペンと呼ばれます。

わざわざ10個ずつ数えているんだからモノテルペンやジテルペンが多いのかと思いきや、セスキテルペン類が最も多く見つかっているようです。

 

他にもあるセスキの利用

他にもありますセスキ。

シルセスキオキサン(Silsesquioxane)はケイ素・酸素と有機側鎖からなる化合物、シロキサンの仲間です。我々がよく目にする石英などは、SiO2という分子式からなる、3次元にがっちりつながった固体ですが、Si-O-Si-O-・・・の1次元の鎖の側鎖にアルキルがつながった一次元の鎖状の化合物はシロキサン(Siloxane)と呼ばれ、[SiOR2]という組成式であらわされます。これはシリコーンオイルなどの骨格で、滑らかな液体になるものが多いです。Siでシル(Sil)、Oがオキサ(oxa)、Rが(アルカンの)アン(ane)でシロキサンですね。

シルセスキオキサンはこのいわば中間の化合物で、[SiO1.5R]という組成式になり、シル-セスキオキサ-アンとなっているわけです。

シルセスキオキサンは有名な籠型骨格のような、おもしろい骨格構造を作ることが知られており、安定性、多様な骨格と物性などから現在でも盛んに研究されています。これもシリカとシリコーンのいわば中間の化合物と言えるでしょう。

2015-05-23_23-25-08

他にもアルミや鉄の3価の金属の酸化物、例えばFe2O3はFeO1.5と書くことも出来るので、セスキオキシド(sesquioxide)と略されることもあるようです。

これなら2価の金属はFeOでモノオキシド、中途半端な3価の鉄ならFeO1.5でセスキオキシド、もしFeO2になったらジオキシド、わかりやすいですね。

 

一般的にも使います

他にセスキを使う言葉を調べてみたら150周年(Sesquicentennial、セスキ1世紀)とか75周年(Semisesquicentennail、半分のセスキ1世紀)なんて言葉もあるそうです。

2015-05-23_23-25-39

ちなみに今年はBASF創立150周年、エントロピー命名150周年だそうです。

セスキ線形なんてものもありました。数学で線形と共線形があって、偶数と奇数に対応するようなもんでその中間なので、奇数の半分、1.5に対応するようなモノ、らしいです。

 

セスキというのは、この何ともややこしいモノを表すのに使うおもしろい接頭辞ですね。

 

関連記事

  1. Reaxys PhD Prize 2016ファイナリスト発表!
  2. (+)-sieboldineの全合成
  3. 研究室でDIY!~エバポ用真空制御装置をつくろう~ ②
  4. アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd…
  5. インドールの触媒的不斉ヒドロホウ素化反応の開発
  6. なんとオープンアクセス!Modern Natural Produ…
  7. 本当の天然物はどれ?
  8. 無保護アミン類の直接的合成

注目情報

ピックアップ記事

  1. スケールアップのためのインフォマティクス活用 -ラボスケールから工場への展開-
  2. リアル『ドライ・ライト』? ナノチューブを用いた新しい蓄熱分子の設計-後編
  3. “Wisconsin Process”について ~低コスト硝酸合成法の一幕~
  4. NMR が、2016年度グッドデザイン賞を受賞
  5. 掃除してますか?FTIR-DRIFTチャンバー
  6. ボーチ還元的アミノ化反応 Borch Reductive Amination
  7. リンダウ会議に行ってきた②
  8. 冬のナノテク関連展示会&国際学会情報
  9. 多核テルビウムクラスターにおけるエネルギー移動機構の解明
  10. 第15回 触媒の力で斬新な炭素骨格構築 中尾 佳亮講師

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2015年5月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

7th Compound Challengeが開催されます!【エントリー〆切:2026年03月02日】 集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

メルク株式会社より全世界の合成化学者と競い合うイベント、7th Compound Challenge…

乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

大森 建 Ken OHMORI

大森 建(おおもり けん, 1969年 02月 12日–)は、日本の有機合成化学者。東京科学大学(I…

西川俊夫 Toshio NISHIKAWA

西川俊夫(にしかわ としお、1962年6月1日-)は、日本の有機化学者である。名古屋大学大学院生命農…

市川聡 Satoshi ICHIKAWA

市川 聡(Satoshi Ichikawa, 1971年9月28日-)は、日本の有機化学者・創薬化学…

非侵襲で使えるpH計で水溶液中のpHを測ってみた!

今回は、知っているようで知らない、なんとなく分かっているようで実は測定が難しい pH計(pHセンサー…

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP