[スポンサーリンク]

D

ジイミド還元 Diimide Reduction

[スポンサーリンク]

概要

ジイミド(diimide)とはHN=NHの構造式を持つ化学物質であり、ジアゼンとも呼ばれる。

炭素―炭素多重結合の還元目的に汎用される。特にアルキンをZ-アルケンに還元できる特長がある。重金属触媒の使用も不要である。

ジイミドそのものは単離できないため、前駆体から用時調製して使うことが常である。

基本文献

<Review>

開発の経緯

1961年、E. J. CoreyおよびSiegfried Hünigによって、ジイミドがアルケン・アルキンの還元に使用可能であることが同時期に報告された。

反応機構

反応の駆動力は安定な窒素分子の生成による。通常はジイミドの発生過程が律速段階である。

6中心遷移状態を経て、窒素の脱離を伴いながら水素が供給される(J. Chem. Phys. 1988, 88, 240.)。

遷移金属触媒に不寛容な官能基、たとえばハロゲン化物、過酸化物、チオールなどはジイミド還元に許容である。

反応例

Potassium azodicarboxylateは酸性条件でジイミドを発生させることが出来る有用な固体試薬である[1]。下記はその適用例の一つ[2]。

アルキニルハライドからZ-アルケニルハライドを合成する目的には、パラジウム触媒水素化では脱ハロゲン化が競合するため、ジイミド還元の有効性が高い[3]。

スルホニルヒドラジンはジイミド前駆体として用いることができる[4]。特に2,4,6-Tri-isopropylbenzenesulphonyl (Tris) ヒドラジドは、Tsヒドラジドと比べてジイミド生成が効率的に起こる[5]。下記はFostriecinの全合成へと応用した事例である[6]。また固相担持基質にはNsヒドラジドが有効であることも報告されている[7]。

ヒドラジンから銅触媒による酸素酸化でジイミドを発生させるプロトコルは最も古典的なものである[8]。下記はPentacycloannamoxic acidの合成への応用例である[9]。


フラビン様触媒存在下に、ヒドラジンから酸素酸化によってジイミドを生成するクリーンなプロセスが見いだされている[10]。

光照射だけでジイミド還元を行える手順[11]。重水を添加すると重水素化も行える。

実験手順

Potassium azodicarboxylateの調製[2]

40%水酸化カリウム水溶液(31mL)を5℃以下に冷却後、アゾジカルボアミド5gを少量ずつ2時間かけて撹拌しながら添加した。 添加中は温度を8℃未満に保った。 さらに1時間撹拌した後、ブフナー漏斗を用いて明黄色のアゾジカルボン酸ジカリウムを濾別し、固体を予め0℃に冷却したメタノール10mLで20回洗浄し、収率80%~92%にて目的物を得る。

参考文献

  1. Hamersma, J. W.; Snyder, E. I. J. Org. Chem. 1965, 30, 3985. DOI: 10.1021/jo01022a532
  2. Groves, J. T.; Ma, K. W. J. Am. Chem. Soc. 1977, 99, 4076. DOI: 10.1021/ja00454a028
  3. (a) Kluge, A. F.; Untch, K. G.; Fried, J. H. J. Am. Chem. Soc. 1972, 94, 9256. DOI: 10.1021/ja00781a062 (b) Luthy, C.; Konstantin, P.; Untch, K. G. J. Am. Chem. Soc. 1978, 100, 6211. DOI: 10.1021/ja00487a043
  4. Dewey, R. S.; van Tamelen, E. E. J. Am. Chem. Soc. 1961, 83, 3729. DOI: 10.1021/ja01478a048
  5. Cusack, N. J.; Reese, C. B.; Risius, A. C.; Roozepeikar, B. Tetrahedron 1976, 32, 2157.  doi:10.1016/0040-4020(76)85128-9
  6. Trost, B. M.; Frederiksen, M. U.; Papillon, J. P. N.; Harrington, P. E.; Shin, S.; Shireman, B. T. J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 3666. DOI: 10.1021/ja042435i
  7. Buszek, K.; Brown, N. J. Org. Chem. 2007, 72, 3125. DOI: 10.1021/jo0622173
  8. (a) Corey, E. J.; Mock, W. L.; Pasto, D. J. Tetrahedron Lett. 1961, 347. doi:10.1016/S0040-4039(01)91637-5 (b) Corey, E. J.; Pasto, D. J.; Mock, W. L. J. Am. Chem. Soc. 1961, 83, 2957. DOI: 10.1021/ja01474a043 (c) Ohno, M.; Okamoto, M. Org. Synth. 1969, 49, 30. DOI: 10.15227/orgsyn.049.0030
  9. Mascitti, V.; Corey, E. J. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 15664. DOI: 10.1021/ja044089a
  10. (a) Smit, C.; Fraaije, M.; Minnaard, A. J. Org. Chem. 2008, 73, 9482. DOI: 10.1021/jo801588d (b) Imada,Y.; Iida, H.; Naota, T. J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 14544. DOI: 10.1021/ja053976q
  11. Leow, D.; Chen, Y.-H.; Bung, T.-H.; Su, Y.; Lin, Y.-Z. Eur. J. Org. Chem. 2014, 7347. DOI: 10.1002/ejoc.201403021

関連反応

外部リンク

関連記事

  1. フォン・リヒター反応 von Richter Reaction
  2. ピニック(クラウス)酸化 Pinnick(Kraus) Oxid…
  3. ハートウィグ・宮浦C-Hホウ素化反応 Hartwig-Miyau…
  4. ハネシアン・ヒュラー反応 Hanessian-Hullar Re…
  5. ブレデレック ピリミジン合成 Bredereck Pyrimid…
  6. TPAP(レイ・グリフィス)酸化 TPAP (Ley-Griff…
  7. オーヴァーマン転位 Overman Rearrangement
  8. ルボトム酸化 Rubottom Oxidation

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. ハートウィグ有機遷移金属化学
  2. 有機合成化学協会誌2020年3月号:電子欠損性ホウ素化合物・不斉Diels-Alder反応・ホヤの精子活性化誘引物質・選択的グリコシル化反応・固定化二元金属ナノ粒子触媒・連続フロー反応
  3. 二酸化塩素と光でプラスチック表面を機能化
  4. ジャンフェン・カイ Jianfeng Cai
  5. GRE Chemistry 受験報告 –試験当日·結果発表編–
  6. ベンゼン一つで緑色発光分子をつくる
  7. 化学研究ライフハック: 研究現場のGTD式タスク管理
  8. 「えれめんトランプ2.0」が発売された
  9. 第128回―「二核錯体を用いる触媒反応の開発」George Stanley教授
  10. スイスでポスドクはいかが?

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2009年7月
« 6月   8月 »
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

注目情報

注目情報

最新記事

自己組織化ねじれ双極マイクロ球体から円偏光発光の角度異方性に切り込む

第327回のスポットライトリサーチは、筑波大学大学院数理物質科学研究科 物性・分子工学専攻 山本・山…

第159回―「世界最大の自己組織化分子を作り上げる」佐藤宗太 特任教授

第159回の海外化学者インタビューは日本から、佐藤宗太 特任教授です。東京大学工学部応用化学科に所属…

π-アリルイリジウムに新たな光を

可視光照射下でのイリジウム触媒によるアリルアルコールの不斉アリル位アルキル化が開発されたキラルな…

うっかりドーピングの化学 -禁止薬物と該当医薬品-

「うっかりドーピング」という言葉をご存知でしょうか。禁止薬物に該当する成分を含む風邪…

第五回ケムステVプレミアレクチャー「キラルブレンステッド酸触媒の開発と新展開」

新型コロナ感染者数は大変なことになっていますが、無観客東京オリンピック盛り上がっ…

がん治療用の放射性物質、国内で10年ぶり製造へ…輸入頼みから脱却

政府は、がんの治療や臓器の検査をする医療用の放射性物質の国内製造を近く再開する。およそ10年ぶりとな…

三洋化成の新分野への挑戦

三洋化成と長瀬産業は、AI 技術を応用した人工嗅覚で匂いを識別する「匂いセンサー」について共同で事業…

ケムステSlack、開設二周年!

Chem-Stationが立ち上げた化学系オープンコミュニティ、ケムステSlackを開設して早くも二…

過酸がC–H結合を切ってメチル基を提供する

光増感剤とニッケル触媒を用いたC(sp3)–Hメチル化が開発された。合成終盤でのメチル化に威力を発揮…

化学の祭典!国際化学オリンピック ”53rd IChO 2021 Japan” 開幕!

2021年7月「オリンピック/パラリンピック 東京2020大会」も無観客ではあるものの無事開幕されま…

Chem-Station Twitter

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP