[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

「温故知新」で医薬品開発

創薬コストの高騰を受け、既存の承認薬や開発が途中で中止になった化合物を対象に、新たな適応疾患を探し出して製品化する「ドラッグ・リポジショニング」と呼ばれる取り組みが盛んになっている。

タイトルおよび画像はネイチャー・パブリッシング・グループ(NPG)の出版している日本語の科学まとめ雑誌である「Natureダイジェスト」10月号から(画像:SERGE BLOCHのクレジット「「温故知新」で医薬品開発」より)。最新サイエンスを日本語で読めるNatureダイジェストから個人的に興味を持った記事をピックアップして紹介しています。過去の記事は「Nature ダイジェストまとめ」を御覧ください。

「温故知新」で医薬品開発

「医薬品つくる」。人類の健康に直接役立つ壮大なものづくりは、多くの理系学生の羨望の職業であることはいまでもかわりません。しかしながら、1つの薬を生み出す為にためには、現在平均して13年ー15年2000億円ー3000億円の月日とコストが必要だといわれています。しかも、その効率は著しく減少しているとのこと。

「米国の新薬開発の効率は9年ごとに減少している。」この事実を創薬関係者はムーア(Moore)の法則を逆に読んだ、「イールーム(Eroom)の法則」とも呼ばれているぐらい。

「いかに有用な薬を見出すか」ではなく、「いかにして、安価・短期間に医薬品を生み出すか。」これが常に製薬会社における、最大の懸念となり長い月日が経っています。さて、この問題解決に向けて、最近取り組まれているのは「ドラッグ・リポジショニング」。冒頭にも記載しましたが、異なる疾患で承認されている薬や、開発途中で断念された化合物をもう一回別の疾患で試してみよう!ということです。そんなの今更と思うかもしれませんが、サイエンスの新しい世界も同様、昔の大きな発見が見過ごされていて、それを新しい形で公開した研究が、その時代の潮流をつくるなんてこともよくある話。記事では、エブセレン(ebselen)という既存の薬剤ライブラリーから発見された化合物を、双極性障害治療薬として開発に取り組む科学者のはなしからはじまっています。

2016-10-09_20-07-17

既存の薬剤であり、すでに安全性に関する試験(フェーズI)は終わっているこの化合物は、すぐに薬効を調べるフェーズIIに望めるとのこと。こう聞くと、簡単に聞こえるかもしれませんが、やはり膨大な”ごみ”からの宝探しであることは変わりありません。記事では、それら「ドラッグ・リポジショニング」に関わる問題と、今後の取組についても詳細に述べています。

地球外生命体の探し方

地球外生命体の存在を示す化学的痕跡とは何か。宇宙生物学の研究者たちが検討を始めている。

宇宙の話かと思いきや、生命の起源に関する記事。先月、NASAによる発表で、木星の衛星エウロパを覆う氷の表面から、水とみられるものが高さ200キロまで噴き出しているのをハッブル宇宙望遠鏡で観測したというニュースがあったので興味深く読みました。「生命の痕跡」は観測されるガス(化学的な痕跡)にかかっているらしいですが、それがどれになるのか既知の生命体で考えてよいのか、もっと広範な分子を評価するべきなのか、現在検討中だそうです。

2016-10-10_02-14-24

(出典: CHART: S. SEAGER & W. BAINS SCI. ADV. 1, E1500047 (2015); CONE: REF. 5, Natureダイジェストより)

地球上の考古学もなかなか大変ですが、宇宙が対象となると、とてつもなく広いフィールドとなるので気が遠くなりそうです…

多彩な分野の最新研究を知るために

今回は、以前ケムステでも紹介した(記事:人の鼻の細菌が抗菌作用がある化合物をつくっていたーMRSAに効果)話に関連する「ヒトの鼻から新規抗生物質」という記事も掲載されています。

一方で、特集記事「忘れられた大陸」では、中国で発見された化石人骨が、アフリカから始まる原生人類とその近縁種の進化をめぐる通説に対して、議論を活発にしている話が5ページに渡り述べられています。さすがにこの辺の最新研究は全く知りませんし、普段は興味もありませんが、つい読み込んでしまいました。

無料公開記事は「ネオニコチノイド系農薬とハチ減少に新たな証拠」。話題となっている農薬の顕彰の話です。その他にも酵素添加酵素を発見した京都大学の故・早石修博士の弟子たちのインタビューもあり(「握り飯より柿の種、早石修先生の志を継いで)、今月号も盛り沢山ですね。なかなか読まない多彩な分野の最新研究や背景を知るために非常に役に立っています。

過去記事はまとめを御覧ください

外部リンク

The following two tabs change content below.
webmaster

webmaster

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院准教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 18万匹のトコジラミ大行進 ~誘因フェロモンを求めて①~
  2. 未来の科学者を育てる政策~スーパーサイエンスハイスクール(SSH…
  3. この窒素、まるでホウ素~ルイス酸性窒素化合物~
  4. NaHの水素原子の酸化数は?
  5. (-)-Calycanthine, (+)-Chimonanth…
  6. 自励振動ポリマーブラシ表面の創製
  7. 水と塩とリチウム電池 ~リチウムイオン電池のはなし2にかえて~
  8. アセトンを用いた芳香環のC–Hトリフルオロメチル化反応

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

注目情報

ピックアップ記事

  1. 日本化学会、論文無料公開へ新方式
  2. 鍛冶屋はなぜ「鉄を熱いうちに」打つのか?
  3. 光触媒の力で多置換トリフルオロメチルアルケンを合成
  4. alreadyの使い方
  5. 大日本住友製薬が発足 業界5位、将来に再編含み
  6. 超分子ポリマーを精密につくる
  7. 1,3-双極子付加環化反応 1,3-Dipolar Cycloaddition
  8. ハッピー・ハロウィーン・リアクション
  9. フリードレンダー キノリン合成 Friedlander Quinoline Synthesis
  10. これならわかるNMR/二次元NMR

注目記事

関連商品

注目情報

試薬検索:東京化成工業



最新記事

「電子の動きを視る」ーマックス・プランク研究所・Krausz研より

「ケムステ海外研究記」の第13回目は、第6回目の志村さんのご紹介で、マックス・プランク量子光学研究所…

岩澤 伸治 Nobuharu Iwasawa

岩澤 伸治 (いわさわ のぶはる、19xx年x月x日-)は、日本の有機化学者である。東京工業大学 教…

NCL用ペプチド合成を簡便化する「MEGAリンカー法」

ワシントン大学・Champak Chatterjeeらは、独自開発した固相担持ユニット「MEGAリン…

有機合成化学協会誌2017年5月号 特集:キラリティ研究の最前線

有機合成化学に関わる方ならばおなじみの有機合成化学協会誌。有機合成化学協会の会員誌であり、様々な有機…

エッセイ「産業ポリマーと藝術ポリマーのあいだ」について

Tshozoです。先日Angewandte Chemie International Edition…

キラルアニオン相関移動-パラジウム触媒系による触媒的不斉1,1-ジアリール化反応

2016年、ユタ大学・Matthew S. Sigmanらは、電子不足末端アルケンのエナンチオ選択的…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP