[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

グローブボックスあるある

[スポンサーリンク]

空気に不安定な化学物質を扱う「グローブボックス」。筆者は毎日使っています。そんなグローブボックスヘビーユーザーの私が感じた、あるあるをご紹介します。

 

グローブボックスとは

そもそもグローブボックスとは不活性雰囲気下で化合物を扱える器具のことで、下図のようにボックスの外側にグローブが付いてます。通常内側は、不活性ガス(窒素やアルゴン)で置換してあり一切空気に触れることなく試薬を取り扱うことができます。原料の仕込みから反応、場合によっては溶媒の留去、カラムクロマトグラフィーまでこのグローブボックスの中で行うことができます。ボックス内の水分と酸素量を最小に保つため不活性ガスをフローし続ける場合や水分と酸素を取り除くガス循環清浄システムが取り付けられているものもあります。

また、器具や原料を外からグローブボックス内に入れる場合には、サイドボックスで真空引きと不活性ガス置換を数回繰り返してから本体内部のドアを開けて入れるのが一般的です。高価な機器ですので一人一台というわけにはいかず、数人で共有しているのがどこの研究室でも一般的だと思います。

GLOVE-Labmaster

グローブボックスの写真(右側の円筒2つがサイドボックス)

あるある事例

とても便利なグローブボックスですが、個人的には”いろいろ”と起こりやすい機器であり実例をいくつか紹介します

  • いつの間にか試薬やサンプルで溢れている、天秤が汚い、常備品がない

ユーザーが少しづつ物を置いていき、作業スペースが無くなってしまうことが起こります。すると、ただでさえグローブが厚くて作業がしにくいのに、より実験しにくくなり試薬をこぼしたり、ガラスを割ったりすることが多くなります。必要なもの以外は、外で保管すべきです。また、掃除するのが億劫なため、試薬を天秤にこぼしても拭かない人がいるとすぐに汚くなります。さらには、ピペットなどの常に常備品の補充をなかなかしてくれない人もいます。これらの悪いマナーは、最終的には作業効率の低下をもたらします。

253932597_a23322970f_z

ひどい場合のイメージ

 

  • 一人が専有し続けて他の人が使えない

何かと言い訳をつけてグローブボックスを専有し続ける人がいます。グローブボックスは便利ですが、それだけを使って実験するのは、誰でもできます。シュレンクテクニックをうまく併用して実験するが腕の見せどころだと私は思います。

キャプチャ

 

  • サイドボックスに入れっぱなし

サイドボックスのガス置換は、時間がかかるため他の作業を同時並行ですることが多いと思います。すると、サイドボックスのことをすっかり忘れてしまう人がいると、グローブボックスの渋滞が起きます。作業をテキパキと終わらせることが化合物にとっても人間関係の雰囲気にとっても重要だと思います。

 

  • サイドボックスでコックが吹っ飛ぶ

サイドボックスでは、内部を効率的にガスで置換するため、真空にします。その際に、サンプル入りのフラスコは、真空が甘いとコックが圧力差に耐え切れず吹っ飛びます。コックが飛ぶとサンプルが飛び出すため、外側のドアを開けると空気と接触してせっかくの実験が水の泡となります。フラスコ内を真空にしていても自身がないときは、ビニールテープ等で固定し安全対策が必要だと思います。

 

  • 状態が悪いと思ったらグローブが破れていた

朝ラボに来たら、何故かボックス内の雰囲気が悪いことがあります。その場合は大抵グローブが破れています。ボックスの中では、鋭利なものはなるべく使いたくないのですが、ハサミやスパチュラ、ピペットは使わざる終えません。その場合には、細心の注意が必要です。なおグローブは高価なので、裂け目が小さい場合には、補修して使っています。

 

  • ロートを入れ忘れて横着し結局こぼす

これは私がよくやる失敗ですが、うっかりロート中に入れ忘れ、溶媒を無理やりフラスコに入れようとしたら盛大にこぼすことがあります。ロートに限った話ではありませんが、ボックスの中に入れ忘れたからといって無理やりやったり、ボックス内の他の物で代用しようとするとろくなことがありません。グローブボックスほど

急がばまわれ=The longest way round is the shortest way home.

(他にもいくつか似たような英語訳があります。)

が重要な器具は無いと思います。

事故や失敗を防ぐために

グローブボックスユーザーの皆様は、共感していただけたでしょうか。新たに使おうと思っている人は、このような失敗があることを肝に命じて欲しいと思います。では、どのように防げばいいのでしょうか。一つは、ユーザーどうしのコミニケーションをよく取るということだと思います。

今終わったよ。あと10分ぐらい掛かるよ。私の実験時間かかるから先使っていいよ。

このような簡単なコミニケーションで、ある研究室では効率が劇的に良くなりました。それと同時に、厳格なルールブックを作成し、それを守ってもらうことも重要だと思います。

関連書籍

[amazonjs asin=”475981597X” locale=”JP” title=”はじめての研究生活マニュアル”]

 

関連リンク

 

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 香りの化学4
  2. Appel反応を用いるホスフィンの不斉酸化
  3. 二重マグネシウム化アルケンと二重アルミニウム化アルケンをアルキン…
  4. アンモニアを窒素へ変換する触媒
  5. アルカロイドの大量生産
  6. データ駆動型R&D組織の実現に向けた、MIを組織的に定着させる3…
  7. 第16回 Student Grant Award 募集のご案内
  8. 白金イオンを半導体ナノ結晶の内外に選択的に配置した触媒の合成

注目情報

ピックアップ記事

  1. メスゴキブリのフェロモン合成、駆除に活用・日米チーム
  2. 痛風薬「フェブキソスタット」の米国売上高が好発進
  3. 田辺シリル剤
  4. タンパク質立体構造をPDBjViewerで表示しよう
  5. ポリアクリル酸ナトリウム Sodium polyacrylate
  6. 有機合成の進む道~先駆者たちのメッセージ~
  7. ボールミルを用いた、溶媒を使わないペースト状 Grignard 試薬の合成
  8. カンプス キノリン合成 Camps Quinoline Synthesis
  9. #おうち時間を充実させるオンライン講義紹介 ーナノテクー
  10. 観客が分泌する化学物質を測定することで映画のレーティングが可能になるかもしれない

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2015年11月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

注目情報

最新記事

第67回「1分子レベルの酵素活性を網羅的に解析し,疾患と関わる異常を見つける」小松徹 准教授

第67回目の研究者インタビューです! 今回は第49回ケムステVシンポ「触媒との掛け算で拡張・多様化す…

四置換アルケンのエナンチオ選択的ヒドロホウ素化反応

四置換アルケンの位置選択的かつ立体選択的な触媒的ヒドロホウ素化が報告された。電子豊富なロジウム錯体と…

【12月開催】 【第二期 マツモトファインケミカル技術セミナー開催】 題目:有機金属化合物 オルガチックスのエステル化、エステル交換触媒としての利用

■セミナー概要当社ではチタン、ジルコニウム、アルミニウム、ケイ素等の有機金属化合物を“オルガチッ…

河村奈緒子 Naoko Komura

河村 奈緒子(こうむら なおこ, 19xx年xx月xx日-)は、日本の有機化学者である。専門は糖鎖合…

分極したBe–Be結合で広がるベリリウムの化学

Be–Be結合をもつ安定な錯体であるジベリロセンの配位子交換により、分極したBe–Be結合形成を初め…

小松 徹 Tohru Komatsu

小松 徹(こまつ とおる、19xx年xx月xx日-)は、日本の化学者である。東京大学大学院薬学系研究…

化学CMアップデート

いろいろ忙しくてケムステからほぼ一年離れておりましたが、少しだけ復活しました。その復活第一弾は化学企…

固有のキラリティーを生むカリックス[4]アレーン合成法の開発

不斉有機触媒を利用した分子間反応により、カリックスアレーンを構築することが可能である。固有キラリ…

服部 倫弘 Tomohiro Hattori

服部 倫弘 (Tomohiro Hattori) は、日本の有機化学者。中部大学…

ぱたぱた組み替わるブルバレン誘導体を高度に置換する

容易に合成可能なビシクロノナン骨格を利用した、簡潔でエナンチオ選択的に多様な官能基をもつバルバラロン…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP