[スポンサーリンク]

odos 有機反応データベース

硫黄-フッ素交換反応 Sulfur(VI)-Fluoride Exchange (SuFEx)

[スポンサーリンク]

 

概要

硫黄(VI)フッ化物(R-SO2-F or SO2F2)は酸化・還元・加水分解などの各種化学条件に安定であるが、プロトン源もしくはケイ素化合物の存在下にそのS-F結合は活性化され、交換反応を起こしうる。

この性質をもとに様々な官能基ユニット連結が行えることが示されている。高い化学選択性と官能基許容性を示すため、クリックケミストリーを体現する反応の一つとして提案されている。

 

基本文献

<Review>

<Click Chemsitry>

  • Kolb, H. C.; Finn, M. G.; Sharpless, K. B. Angew. Chem. Int. Ed. 2001, 40, 2004. [abstract]

 

反応機構

硫黄(VI)フッ化物はそれ自体は、以下の理由から安定な化合物として存在する。

S(VI)-Fの結合エネルギーはおよそ80-90kcal/mol (SO2F2)程度とされており、S(VI)-Clのそれ(SO2Cl2:46kcal/mol)よりも圧倒的に強固である。

S(VI)中心での求核置換反応は、一般にきわめて遅いことが知られている。 例えば以下の例では、硫黄原子ではなく塩素原子上で置換が起こり、塩化物も副生してくることが知られている。(S(VI) 上での置換反応はほとんどアリールスルホネートでのみ観測されるため、超原子価硫黄中間体の関与が想定されうるが、実験的証拠に乏しく未だ推測の域を出ない。)

SuFEX_4.gif

S-F交換過程にはプロトン(H+)もしくはケイ素(R3Si+)のアシストが必須である。

SuFEX_3.gif

反応例

フッ化スルホニル類の合成法:塩化スルホニル経由で容易に調製できる。またその電子求引性を利用したMichealアクセプターとしての変換経由でも合成できる。

SuFEX_5.gif

SO2F2気体とアルコール間の置換反応でフルオロスルホネートを合成することも可能。-OSO2F基は良好な脱離基としても働きうるので、もっぱらフェノールへの適用が主となる。
2級アミンと間との反応によってフッ化スルファモイルを合成できる(1級アミンとの反応生成物はHFが脱離しやすく不安定)。

SuFEX_6.gif

触媒量の塩基存在下にシリル保護されたフェノールを用いた交換も可能。以下は巨大官能基性ユニット連結に用いた例。副生してくるフッ化ケイ素は不活性なので、生成物の機能に影響を与えづらい。

SuFEX_7.gif

SuFEx反応を用いたビスフェノールAサルフェートポリマーの合成[1]

SuFEX_8.jpg

実験手順

 

実験のコツ・テクニック

※SO2F2気体は毒性があるので、ドラフト内で取り扱うことが推奨されている。

 

参考文献

[1] Dong, J.; Sharpless, K. B.; Kwisnek, l.; Oakdale, J. S.; Fokin, V. V. Angew. Chem. Int. Ed. 2014, Early View. doi:10.1002/anie.201403758

関連書籍

外部リンク

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 芳香族求核置換反応 Nucleophilic Aromatic …
  2. ラロック インドール合成 Larock Indole Synth…
  3. 過酸による求核的エポキシ化 Nucleophilic Epoxi…
  4. バーチ還元 Birch Reduction
  5. 熊田・玉尾・コリューカップリング Kumada-Tamao-Co…
  6. ミカエリス・アルブゾフ反応 Michaelis-Arbuzov …
  7. フェティゾン試薬 Fetizon’s Reagent…
  8. 不斉アリルホウ素化 Asymmetric Allylborati…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 上田 善弘 Yoshihiro Ueda
  2. 生体外の環境でタンパクを守るランダムポリマーの設計
  3. シクロデキストリンの「穴の中」で光るセンサー
  4. 楊井 伸浩 Nobuhiro Yanai
  5. Passerini反応を利用できるアルデヒドアルデヒド・イソニトリル・カルボン酸・アミン(
  6. 第21回「有機化学で生命現象を理解し、生体反応を制御する」深瀬 浩一 教授
  7. ロイカート・ヴァラッハ反応 Leuckart-Wallach Reaction
  8. ビス(アセトニトリル)パラジウム(II)ジクロリド : Dichlorobis(acetonitrile)palladium(II)
  9. 呉羽化学、明るさを保ちながら熱をカットする窓ガラス用素材
  10. AIが作った香水、ブラジルで発売

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2014年8月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

フローマイクロリアクターを活用した多置換アルケンの効率的な合成

第610回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院理学研究科(依光研究室)に在籍されていた江 迤源…

マリンス有機化学(上)-学び手の視点から-

概要親しみやすい会話形式を用いた現代的な教育スタイルで有機化学の重要概念を学べる標準教科書.…

【大正製薬】キャリア採用情報(正社員)

<求める人物像>・自ら考えて行動できる・高い専門性を身につけている・…

国内初のナノボディ®製剤オゾラリズマブ

ナノゾラ®皮下注30mgシリンジ(一般名:オゾラリズマブ(遺伝子組換え))は、A…

大正製薬ってどんな会社?

大正製薬は病気の予防から治療まで、皆さまの健康に寄り添う事業を展開しています。こ…

一致団結ケトンでアレン合成!1,3-エンインのヒドロアルキル化

ケトンと1,3-エンインのヒドロアルキル化反応が開発された。独自の配位子とパラジウム/ホウ素/アミン…

ベテラン研究者 vs マテリアルズ・インフォマティクス!?~ 研究者としてMIとの正しい向き合い方

開催日 2024/04/24 : 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足…

第11回 慶應有機化学若手シンポジウム

シンポジウム概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大…

薬学部ってどんなところ?

自己紹介Chemstationの新入りスタッフのねこたまと申します。現在は学部の4年生(薬学部)…

光と水で還元的環化反応をリノベーション

第609回のスポットライトリサーチは、北海道大学 大学院薬学研究院(精密合成化学研究室)の中村顕斗 …

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP