【追悼企画】カナダのライジングスター逝く

Jan
04
2010
Author: ブレビコミン[Edit ] View: [2190]
Category:講演・人
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(写真:Fagnou Group Homepage より)

 
 2009年11月11日カナダは化学分野のライジングスターを失いました。その若手研究者の名はKeith Fagnou。オタワ大学の准教授で享年38歳という若さでした。原因はなんとH1N1インフルエンザ。肝臓も悪かったという話も聞きますが、直接的な原因はやはりインフルエンザのみようです。

 Chem-StationではTwitterでいち早くこの衝撃的なニュースを報道しました。そして、彼のあまりにも早い旅立ちから2ヶ月の月日が流れました。新年第一回目のつぶやきは「追悼企画」としてFagnou教授の生い立ちから、研究内容まで追っていきたいと思います。


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  • 生い立ちから研究室設立まで

saskatoon.jpg
 カナダの中西部のサスカチュワン州(Saskatchewan)サスカトゥーンはサスカチュワン州最大の都市で都市中央部を流れるサウスサスカチュワン川にかかる7つの橋から、「橋の町」と呼ばれています。1971年6月27日、この町でKeithは生まれました。そのままこの地で少年時代を過ごし、地元の大学であるサスカチュワン大学University of Saskatchewanに進学しました。

 1995年に大学卒業後、高校教師の道を選びました。これは化学者としては非常に珍しい経歴です。その後、一転して化学者を目指しトロント大学の大学院へ進学し、2000年に修士号、2002年に博士号をMark Lautens教授の下で得ています。Lautens教授はカナダでトップの有機化学者で、ここでその後の研究の元となる知識や技術を身につけました。その証拠に彼がLautens研究室で発表した論文は14報を数え、そのほとんどがFirst Authorとなっています。博士号を取得したのが31歳と若干ライジングスターとしては遅咲きながらも、卓越したプロダクティビティと研究能力を持っていた事がわかります。

 具体的には以下の通りロジウムなどの遷移金属触媒をもちいた触媒反応の開発が主な仕事となっています。

fagnou_1.gif
図1. ロジウム触媒を用いた不斉開環反応。カウンターアニオンが収率、エナンチオ選択性に影響を与えている[1]


  • 博士取得そして独立へ
 博士取得後、すぐにオタワ大学で助教授のポストを得て、そこからFagnou研究室がスタートしました。米国では博士課程修了後、博士研究員をへてポストを得るのが通例ですが、すぐにポストを得て、研究室をスタートできたことは彼の現在前の快進撃をささえました。

 ちなみに研究室を主催する前に現在の奥さんであるDanielle Gervais-Fagnou(オタワ大学ヘルスサービスセンターで勤務)と結婚しました。現在は、3人の子供がいます。彼は非常に子供好きであったことが多方面から報じられています。

  • Fagnou研究室

 オタワ大学の助教授となったKeithは1年半の研究の結果、はじめにアメリカ化学会誌に論文を発表しました。現在有機化学の再注目分野のひとつとなっている、いわゆる

「炭素ー水素結合の直接変換反応」

でした。当時は炭素ー水素結合を切断する為に配位性補助基(Directing Group)が必要な場合がほとんどでした。それに対して、彼らは分子内反応ではありますが、配位性補助基を用いず、有用な有機骨格であるビアリール骨格を構築する手法を発表しました。[2]


fagnou_2.gif
 その後、この反応を軸として、様々な炭素ー水素結合の直接変換反応に取り組みました。電子不足なピリジンなどのヘテロ芳香環をハロゲン化せずに、N-オキシドとしたものに対してPd触媒存在下、直接的にハロゲン化アリールを反応させるカップリング反応[3]、特異的ではありますが分子間のビアリール骨格合成法にも成功しました。[4]

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fagnou_4.gif

 2006年には溶媒量を用いますが、単純ベンゼンとハロゲン化アリールのカップリング反応を開発しました。これにはかさ高いカルボン酸が添加剤として用いられており、これが図のように炭素水素結合切断を促進することを明らかにしました[5]。

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fagnou_5.png
炭素ー水素結合切断のメカニズム。論文[5]から転載

 そして、2007年にはインドールとベンゼンとの有機金属化合物やハロゲン化物を用いない真に直接的なインドールと芳香環のカップリング反応(C-H/C-Hカップリング)をScienceに報告しています。[6]その後も非常に高いプロダクティビティで新規反応を報告し、2007年に准教授に昇進しました。
 

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C-H/C-Hカップリング反応



 その後も、徐々に研究の方向性をシフトさせながら、2004年から現在までの6年弱で40報の論文を報告しています。もちろんこの分野のイニシエーターと言えば、もう少し昔となりその中には日本人も含まれますが、現在のこの反応分野のフォロンティアおよびプロモーターの一人であったことは間違い有りません。

これらの業績により、2009年にはカナダ人ではじめてOMCOS(有機合成指向有機金属化学国際会議)賞を受賞しています。

2010年12月にハワイで行われる環太平洋国際会議が行われます。その中のひとつのセッションである「C-H結合官能基化」はKeith Fagnou追悼企画となるようです。もしハワイに行くことがあればぜひ御覧下さい。

最後に、もう一度Keith Fagnou教授にこの場を借りてご冥福をお祈り申し上げます。


  • 関連論文
[1] Lautens, M.; Fagnou, K.  J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 7170. DOI: 10.1021/ja010262g
[2] Campeau, L.-C.; Parisien, M.; Leblanc, M.; Fagnou, K. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 9186. DOI:10.1021/ja049017y
[3] Campeau, L.-C.; Rousseaux, S.; Fagnou, K. J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 18020. DOI: 10.1021/ja056800x
[4] Lafrance, M.; Rowley, C.N.; Woo, T. K.; Fagnou, K. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 8754. DOI: 10.1021/ja062509l
[5] Lafrance, M.; Fagnou, K. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 16496. DOI:10.1021/ja067144j
[6] Stuart, D.R.; Fagnou, K. Science 2007, 316, 1172. doi:10.1126/science.1141956

  • 関連リンク

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