[スポンサーリンク]

一般的な話題

進化する電子顕微鏡(TEM)

[スポンサーリンク]

“化学者は分子、原子レベルで世界を見ることが出来る人のことである”

といつかのセミナーで聞いたことがあって以来、僕はこの言葉をなかなか良い言葉だなぁと思って心に留めています。

普通の人がそのものとしてみている、“洗剤”や“料理などのプロセス”や“医薬”を分子レベルの動きとして“見る”、そんなパラダイムを胸に化学者は研究している気がします。

ただし、化学を勉強していない人が、そういった「見かた」をするのに、ちょっと勉強が必要になるのも事実です。

しかし!そんな勉強をする必要なく、分子、原子レベルで物を「見る」ことが出来るのです。そんな魔法の装置、それが「電子顕微鏡」、特に今回は近年発展の目覚しい「透過型電子顕微鏡、TEM」を紹介したいと思います。

「もの」というのはある程度小さくなると見えなくなります。そこで人はメガネをかけます。それよりも小さくなると人は顕微鏡を使います。しかし小学校で使うような一般的な顕微鏡(*1)はいくら頑張っても100ナノメートルオーダーのものしか理論的に観察することができません。光の波長の制限があるからです。

そこで光を使わない色々な顕微鏡が登場します。AFM、STM、SEM(*2)など様々な顕微鏡が提唱されていますが、ここでは透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope)、通称TEMを紹介させて頂きます。

TEM1.jpg

TEMの原理は写し絵と同じです。違いは、写し絵は光を当てて影を観察しますが、TEMでは電子ビームをあてて、その影を観察します。

電子ビームのいいところは光と比べて、波長が短く、そのぶん分解能が良くなるというところです。

つまり「光」を使うと非常に画素の荒いモザイクにしかならないものを、「電子」を使うとほぼ極限までその画素を小さくできて、結果非常に綺麗に物が移るということです。

こーゆー顕微鏡はナノテクノロジーの素材を扱う分野で日常的に使われています。

TEM2.jpg

図1:一般的な TEMの画像(ナノロッド)

 

ではどの程度の画素までみえるかというと、金属や半導体であれば、その結晶の原子配列まで綺麗にみえるのです。

但し、従来のTEMで見られる格子は、その格子を通り抜けた、電子の干渉縞として観察されるもので、直接的な電子の投影としての絵ではなく、そのため、厳密に“原子の並び”を観察することは今まで出来ませんでした。

そこでカルフォルニア州バークレーにあるのLawrence Berkeley National Laboratoryはより高解像度を求めた電子顕微鏡、その名もTransmission Electron Aberration-Corrected Microscope (TEAM) (和訳は分かりませんが、「収差補正つきTEM」みたいな感じでしょうか)に着手し2009年に従来の目標であった0.05nmの解析度を達成しました。この大きさがどれだけ凄いものかといいますと、水素の大きさの約半分でありますので、主にTEMの守備範囲である遷移金属の原子レベルの大きさは観察できるということです。

TEM3.jpg

図2:Lawrence Berkeley National LaboratoryのTEAMの画像

TEMの発展は、Resolutionだけでなく、In situなどの観測も出来るようになっており、そのどれもが素晴らしいので、機会があればまた紹介したいです。

その中で1つごく最近報告された技術を紹介します。この報告ではサンプルを傾けた写真を複数枚とることにより、そのサンプルを立体的に捉え、映像化するという技術がNatureに報告されました。

TEM4.png

図3:金ナノ粒子の3D映像( Nature 2012 doi:10.1038/nature10934より抜粋)

今まで見えなかった世界がこのように技術の発展により、どんどん「見えて」きています。個人的にはこういう技術は直接的な感覚に訴えるので、門外漢の人にも受け入れられやすくて、とってもポップで素晴らしいと思います。

先で述べた、分子原子レベルでの物の見方をするのの入り口としては最適な道具なのではないのでしょうか?

(こーゆー考え方は一度体得してしまえば、コロンブスの卵みたいなもので簡単です。そしてそーゆー見方をすれば新しいものの出来方ができて楽しいよ、みたいなのを伝えたいのがケムステ的な場で文章を書くモチベーションになったりしています。。)

これまで「見えなかった」と思っているものがみえる。これこそ、「新たな世界に光がさした」状態だし、世界の広がりではないでしょうか?しかしこの先がどこで何が見えるようになるかわかりません。いまだに「見えていない」ものが「見える」ようになる未来があるかもしれないのですよ。

(*1)光学顕微鏡を指す。

(*2)それぞれAFM:Atomic Force Microscope、STM: Scanning Tunnel、SEM: Scanning Electron Microscopeのこと。

参考

(1)The TEAM Project http://ncem.lbl.gov/TEAM-project/index.html

(2)”Electron tomography at 2.4-ångström resolution”; Jianwei Miao et al. Nature 2012 doi:10.1038/nature10934

やすたか

投稿者の記事一覧

米国で博士課程学生

関連記事

  1. MEDCHEM NEWSと提携しました
  2. 化学者がコンピューター計算を行うべきか?
  3. 「ヨーロッパで修士号と博士号を取得する」 ―ETH Zürich…
  4. \脱炭素・サーキュラーエコノミーの実現/  マイクロ波を用いたケ…
  5. ケイ素半導体加工に使えるイガイな接着剤
  6. 学振申請書を磨き上げる11のポイント [文章編・後編]
  7. 生命の起源に迫る水中ペプチド合成法
  8. マテリアルズ・インフォマティクスの推進成功事例 -なぜあの企業は…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. iPhone/iPodTouchで使える化学アプリケーション 【Part 2】
  2. オッペナウアー酸化 Oppenauer Oxidation
  3. 山本明夫 Akio Yamamoto
  4. チャールズ・リーバー Charles M. Lieber
  5. 2009年5月人気化学書籍ランキング
  6. 第53回「すべての化学・工学データを知識に変える」金子弘昌准教授
  7. 過酸がC–H結合を切ってメチル基を提供する
  8. Cleavage of Carbon-Carbon Single Bonds by Transition Metals
  9. タミフルをどう作る?~インフルエンザ治療薬の合成~
  10. 視覚を制御する物質からヒントを得た異性化反応

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年6月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

注目情報

最新記事

5/15(水)Zoom開催 【旭化成 人事担当者が語る!】2026年卒 化学系学生向け就活スタート講座

化学系の就職活動を支援する『化学系学生のための就活』からのご案内です。化学業界・研究職でのキャリ…

フローマイクロリアクターを活用した多置換アルケンの効率的な合成

第610回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院理学研究科(依光研究室)に在籍されていた江 迤源…

マリンス有機化学(上)-学び手の視点から-

概要親しみやすい会話形式を用いた現代的な教育スタイルで有機化学の重要概念を学べる標準教科書.…

【大正製薬】キャリア採用情報(正社員)

<求める人物像>・自ら考えて行動できる・高い専門性を身につけている・…

国内初のナノボディ®製剤オゾラリズマブ

ナノゾラ®皮下注30mgシリンジ(一般名:オゾラリズマブ(遺伝子組換え))は、A…

大正製薬ってどんな会社?

大正製薬は病気の予防から治療まで、皆さまの健康に寄り添う事業を展開しています。こ…

一致団結ケトンでアレン合成!1,3-エンインのヒドロアルキル化

ケトンと1,3-エンインのヒドロアルキル化反応が開発された。独自の配位子とパラジウム/ホウ素/アミン…

ベテラン研究者 vs マテリアルズ・インフォマティクス!?~ 研究者としてMIとの正しい向き合い方

開催日 2024/04/24 : 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足…

第11回 慶應有機化学若手シンポジウム

シンポジウム概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大…

薬学部ってどんなところ?

自己紹介Chemstationの新入りスタッフのねこたまと申します。現在は学部の4年生(薬学部)…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP