[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

ふにふにふわふわ☆マシュマロゲルがスゴい!?

[スポンサーリンク]

京都大学理学研究科・中西研および同大学化学研究所・梶研の研究により、Angewndte Chemie International Editionにマシュマロゲル(英名 Marshmallow-like Gel)に関する論文が発表されました。[1]

「何それ!?」もしくは「つい最近どこかで初めて聞いたぞ!」と思った方がほとんどだと思います。この特徴的な名前の材料、以前はほとんど知られていませんでした。それもそのはず、私が勝手に付けた名前だからです。検索してもこの柔軟多孔性材料ぐらいしかヒットしません。

白くてやわらかい素材等はよく、マシュマロxxxと表現されます。マシュマロという名の製品や、競走馬だっています。マシュマロゲルもその例外ではなく、ふにふにふわふわとした触り心地で、学会発表や高校生の体験学習で披露する度に絶賛の嵐が巻き起こっていました。インパクト重視でいいや!ということでこの名前が論文のタイトルにまでなりました。

(以前どこかで見た覚えたある「ティラミス構造?」への対抗意識もあります。)

 

さてそんなマシュマロゲル、ふざけた名前とは反対にたくさんの優れた特性をもっています。

  1. 超撥水性・油のみを吸い取る
  2. 柔軟性を保つ温度域が広い
  3. バリエーションが豊富

合成条件はマシュマロを作るよりもよっぽど簡単です。いいことづくしですよね!筆頭著者本人が、論文に書いてある内容を紹介したいと思います。

 

マシュマロゲルの作製は簡単!

新素材と聞いて一番気になるのはその合成方法です。どんなに優れた材料でも作製プロセスが複雑過ぎるとガッカリしてしまいます。

その点、マシュマロゲルは超が付くほど簡単です。当初はちょっぴり手間を要したプロセスも、めんどくさい実験なんかしたくない一心で小学生でも作れるほど単純な方法に改良しました。

  1. 原料を混ぜてしばらく攪拌する。
  2. 型に流し込んで80度の恒温槽に入れる。
  3. 数時間後に取り出し、もみ洗い後、乾燥させる。
  4. さわり心地を楽しむ(?)

 

スピノーダル分解型の相分離を利用したゾル-ゲル反応により、(食べ物の)マシュマロのように発泡させずとも多孔構造ができあがります。

前駆体(モノマー)であるケイ素アルコキシドの加水分解時にメタノールが出てきますが、飲んだり目をさわったりしない限り危険性はあまりありません。原料は用途によっては商売しても採算があうほど安い(はず)です。

 

超撥水性!水から油を吸い出す分離媒体に使えます!

マシュマロゲルは表面が有機鎖で覆われています。そして、表面に凹凸構造があります。これらの効果が合わさり、蓮の葉のように水を撥きます。水滴の接触角は150度以上(超撥水性)なので、汚れていない面に水滴を落とせば上をコロコロ転がります。

水をよく撥く一方、油にはよく馴染みます。マシュマロゲルは多孔体なので内部の90%以上は空気です。このスペースに油だけを吸い込み絞り出す、油/水分離媒体として使うことができます。

2011年に発表したマシュマロゲル最初の論文 [2] では、超撥水性までは気付いていたものの大した性質ではないと考え、書きませんでした。油/水分離媒体としての可能性に気付いたのはBPのメキシコ湾原油流出事故に関する材料面での研究成果を見つけたからです。

日頃からニュースや論文で情報収集をしている姿勢が生きた瞬間か思います。

 

耐用温度範囲が広い!

マシュマロゲルの力学特性を試験をする際、ゲルをカミソリで切って直方体にする必要があります。しかし軟らかすぎるため、垂直面を作り出すことが大変でした。そこで液体窒素を用いて割ろうとしたのですが、それでもやわらかい。室温下よりは硬くなるものの、遊びで液体窒素を絞り出すことだって、曲げることだってできる

…じゃあ論文にしちゃえ!という経緯でこの物性を調べました。

 

メチルトリメトキシシラン(MTMS)とジメチルジメトキシシラン(DMDMS)から作り出されるマシュマロゲルは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)のような分子構造をしています。耐用上限温度は他のシリコーン樹脂同様に有機ポリマーより高く、300度超です。実際、315度24時間の熱処理でも分子構造は変わらず、物性はそのままでした。(それ以上ではメチル基部位が徐々に酸化します。)300度を超えた電気炉の中でピンセットを使ってつまんでみても、マシュマロゲルはふにふにしています。

逆に低温側では、使っている測定装置の限界である-130度でもガラス転移しないことが確認されています。簡単に手に入る寒剤ということでドライアイス-エタノールを吸わせてみたところ、常温のエタノールとほとんど同じ感覚で絞り出すことができました。

marshmallowgel-LN2.jpg

 

組み合わせは自由自在!いろんなマシュマロゲルを作ろう!

商品のキャッチコピーのようですが、マシュマロゲルは前駆体の組み合わせで色々な有機基をもつ高分子構造を作り出すことができます。立体障害など重合を阻害する条件がうまくクリアされれば、バリエーションはかなり豊富です。

論文ではメルカプトプロピル基がついた前駆体を用いて金を吸着させています。論文を書くペースがスローなので、すでに他にもいろいろなことができています。

 

最後に

博士課程の学生の研究は株式投資と同じです。運を待つは死を待つに等し!いろいろ調べてチャンスを掴んで、直感的にもとにかくオモシロイものを作り出すことができました。

この論文は、趣味の写真も生かし、わかりやすく伝えるための動画を5本もつけた出し惜しみなしの作品といえます。しかし研究成果は常に前作比プラスです。近々出てくる予定の続報もオモシロイので期待していてください。マジカルゲルとでも呼びたくなる材料がすぐそこに!?

 

エイワ カルピスマシュマロ 80g×10袋

 

参考文献

  1. “Facile Synthesis of Marshmallow-like Macroporous Gels Usable under Harsh Conditions for the Separation of Oil and Water”, G. Hayase, K. Kanamori, M. Fukuchi, H. Kaji and K. Nakanishi, Angew. Chem., Int. Ed. 2013, 52, 7, 1986-1989. DOI: 10.1002/anie.201207969
  2. “New flexible aerogels and xerogels derived from methyltrimethoxysilane/dimethyldimethoxysilane co-precursors”, G. Hayase, K. Kanamori and K. Nakanishi, J. Mater. Chem. 2011, 21, 17077-17079. DOI: 10.1039/C1JM13664J
Avatar photo

GEN

投稿者の記事一覧

大学JK->国研研究者。材料作ったり卓上CNCミリングマシンで器具作ったり装置カスタマイズしたり共働ロボットで遊んだりしています。ピース写真付インタビューが化学の高校教科書に掲載されました。

関連記事

  1. ニコラウ祭り
  2. 微小な前立腺がんを迅速・高感度に蛍光検出する
  3. ハイブリット触媒による不斉C–H官能基化
  4. ピリジン同士のラジカル-ラジカルカップリング
  5. 「糖化学ノックイン」の世界をマンガ化して頂きました!
  6. 安全性・耐久性・高活性を兼ね備えた次世代型スマート触媒の開発
  7. 島津製作所がケムステVシンポに協賛しました
  8. 東京大学大学院理学系研究科化学専攻 大学院入試情報

注目情報

ピックアップ記事

  1. 電子実験ノートSignals Notebookを紹介します ①
  2. 反応開発はいくつ検討すればいいのか? / On the Topic of Substrate Scope より
  3. フィリピン海溝
  4. 本多 健一 Kenichi Honda
  5. 第96回日本化学会付設展示会ケムステキャンペーン!Part II
  6. 多置換ケトンエノラートを立体選択的につくる
  7. 2019年ケムステ人気記事ランキング
  8. 第42回ケムステVシンポ「ペプチドと膜が織りなす超分子生命工学」を開催します!
  9. 日本発元素がついに周期表に!!「原子番号113番」の命名権が理研に与えられる
  10. ポンコツ博士の海外奮闘録⑬ ~博士,コロナにかかる~

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2013年1月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

第58回Vシンポ「天然物フィロソフィ2」を開催します!

第58回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!今回のVシンポは、コロナ蔓延の年202…

第76回「目指すは生涯現役!ロマンを追い求めて」櫛田 創 助教

第76回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第75回「デジタル技術は化学研究を革新できるのか?」熊田佳菜子 主任研究員

第75回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第74回「理想的な医薬品原薬の製造法を目指して」細谷 昌弘 サブグループ長

第74回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第57回ケムステVシンポ「祝ノーベル化学賞!金属有機構造体–MOF」を開催します!

第57回ケムステVシンポは、北川 進 先生らの2025年ノーベル化学賞受賞を記念して…

櫛田 創 Soh Kushida

櫛田 創(くしだそう)は日本の化学者である。筑波大学 数理物質系 物質工学域・助教。専門は物理化学、…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP