[スポンサーリンク]

一般的な話題

アカデミックの世界は理不尽か?

Chemistry Blogより転載)

少し前の話題で恐縮ですが、海外の化学系ブログChemistryBlogにて、上のような流出文書が取り上げられていました

有機化学者Eric Carreira教授がカリフォルニア工大時代、ラボのあるメンバーに出した通告文面だそうです。これを要約すると、以下のごとく大変ショッキングな内容で・・・。

毎日スケジュール通り働くのは当然のことだが、カルテクでは夜も土日も働くのがスタンダードだ。
ちゃんと普段からそうであれば構わない。個人的理由で休む必要性も理解できる。
しかし君は働かないことが既に習慣化している。最近は夜も土日もラボに来ない、そのうえ長期休暇まで取る。全く信じがたい。
当方毎日一つは我がラボでポスドクとして働きたい、という応募を受け取っている。重要なプロジェクトに関わる人材の代えはいくらでもいる。労働に対する倫理観を君は改めるべきだ。

「・・・いや、これはちょっとさすがに・・・アカハラじゃね?」と思えてしまう文面、かも知れません。

ここでその議論をすることは避けたいですが、この発言をもたらしている背景、すなわちアカデミックシステムの経済原理が日米ではだいぶ違っているということは、知っておくべきかもしれません。

米国ラボでのボス―ポスドクの関係は、ベンチャー企業の雇用―被雇用者のようなものです。
教育という大義名分がないぶん、ラボによってはかなりシビアに契約切りが行われることもあるようです。つまり期待と給料に見合う結果が出せない人員に対して、またラボが運営できるグラントがとれないケースが起こったりすると、翌年からポスドクの契約が更新されない、などということは普通に起こりえます。

ボス(雇用者)側にしても、必死で”人件費込みの競争的資金“を取ってラボを運営しなくてはならない、という現実に常時さらされています。となれば上記のようなことは、毎日でも言いたくて仕方ない本音・・・なのかも知れません。

とはいえCarreira教授の要望は日本人ですらきついレベルなので、何事も程度問題、だとは思いますが・・・。

一方の日本。ポスドクばかりか「教育」という大義名分の下、学生に対しても

「学生がトイレに行く時間を計られている」
「日曜ラボに居ないとボスから電話が直々に掛かってくる」
「教授が毎日巡回し、机に座っていると実験台に向かうよう常に促される」

などといった、真偽不確かながらもブラックな噂を聞くこともたまに・・・いやゲフゲフン、これ以上はやめましょう。

安心してください、もちろんそんなラボばかりじゃないです!

とはいえ相応の結果をあげているラボは、どこかしら必ず厳しい側面を持っています。甘々ユルユルの環境で結果がざくざくなラボなど、世界のどこにも無いのが現実です。

「世界を相手にした厳しい競争に勝ち抜かないと」という高い意識を持つボスが、キツめの言葉をメンバーに投げつける。世界的業績をあげ続けるラボのメンバーが、それぐらい働くのは確かに珍しくない―これも一方では現実たるようです。

結局重要なのは、その環境でも自分がちゃんとやっていけるか?ということではないでしょうか。業績以上の雰囲気や居心地、働きがい、ボスとの相性などに関しては、ちゃんと自分の目で見て確かめるようにしたいところです。言われるがままに何となくこのラボに来ちゃいました、という受身の姿勢は不幸のはじまりです。

もちろん給料も出ないなかでそんな処遇をされてしまうと、学生は理不尽に感じるばかりでしょうし、そんなうわさを広めたくなる気持ちも、わからなくありませんが・・・。

そんなアカハラ(まがいのこと)も実際あったせいでしょうか、「学生にも給料を!待遇を欧米並みに!」という論調を耳にすることも増えました。
しかしお金のない日本国、先端教育は仕分けに上がる、ではどこからその財源を持ってくる?というのがまず問題です。加えて労働がすべてに先立つという雰囲気の根強い日本社会にて、学生にまで給料がでるようになってしまうと・・・なんとなく締め付けはもっときつくなる気がしますけど、どうでしょう?

フェアな社会システムたろうとするアメリカでは、学生に「給与取得」という権利を与える一方、指揮側にも一つの権利が与えられています。
それは「学生の拒否権」―つまり給料に見合わない学生を、ボスがキックアウトできるというものです。カネがものを言う社会だと、意外にカネを行使できる側の権力が強まる傾向にあるんですよね。
で、締め付けが行き過ぎると訴訟沙汰になったり・・・必ずしもそんなのが良いともいえないんじゃないのかな?とも感じますが。

まぁお金という「数値尺度」で評価できるのは、良くも悪くも”フェア”ではあるんですけどね・・・

どちらにしても良い面悪い面がある、そして万人にとって理想のシステムなどはどこにもない、かといって人間はそんな正論を基調にして動こうとしない、というのは全くの真実かも知れませんね。

 

関連書籍

 

外部リンク

 

The following two tabs change content below.
cosine

cosine

博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。 関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。 素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 投票!2014年ノーベル化学賞は誰の手に??
  2. キラルアニオン相関移動-パラジウム触媒系による触媒的不斉1,1-…
  3. 完熟バナナはブラックライトで青く光る
  4. 向山アルドール反応40周年記念シンポジウムに参加してきました
  5. iPadで計算化学にチャレンジ:iSpartan
  6. 第4回慶應有機化学若手シンポジウム
  7. 不活性アルケンの分子間[2+2]環化付加反応
  8. 触媒でヒドロチオ化反応の位置選択性を制御する

コメント

  1. アメリカの例から考えるに、研究室から給料が出ていない日本の学生・院生を締め付けるのは異常ということですね。"甘々ユルユルの環境で結果がざくざくなラボなど、世界のどこにも無いのが現実" それって本当かな?

  2. バイオ、有機化学はキツイところ多いよね。結局「何のため」「誰のため」に研究するかに尽きる気が…

  1. この記事へのトラックバックはありません。

注目情報

ピックアップ記事

  1. 夢の筒状分子 カーボンナノチューブ
  2. 2014年ノーベル化学賞・物理学賞解説講演会
  3. 第10回 ナノ構造/超分子を操る Jonathan Steed教授
  4. 4-メルカプト安息香酸:4-Mercaptobenzoic Acid
  5. 技術者・研究者のためのプレゼンテーション入門
  6. 書物から学ぶ有機化学 1
  7. エミリー・バルスカス Emily P. Balskus
  8. シンポジウム:ノーベル化学賞受賞の米教授招く--東北大、来月12日
  9. Thomas R. Ward トーマス・ワード
  10. 山元公寿 Kimihisa Yamamoto

注目記事

関連商品

注目情報

試薬検索:東京化成工業



最新記事

ストックホルム国際青年科学セミナー参加学生を募集開始 ノーベル賞のイベントに参加できます!

一週間スウェーデンに滞在し、ノーベル賞受賞者と直接交流するなどの貴重な機会が与えられるセミナーSto…

「電子の動きを観る」ーマックスプランク研究所・ミュンヘン大学・Krausz研より

「ケムステ海外研究記」の第13回目は、第6回目の志村さんのご紹介で、マックス・プランク量子光学研究所…

岩澤 伸治 Nobuharu Iwasawa

岩澤 伸治 (いわさわ のぶはる、19xx年x月x日-)は、日本の有機化学者である。東京工業大学 教…

NCL用ペプチド合成を簡便化する「MEGAリンカー法」

ワシントン大学・Champak Chatterjeeらは、独自開発した固相担持ユニット「MEGAリン…

有機合成化学協会誌2017年5月号 特集:キラリティ研究の最前線

有機合成化学に関わる方ならばおなじみの有機合成化学協会誌。有機合成化学協会の会員誌であり、様々な有機…

エッセイ「産業ポリマーと藝術ポリマーのあいだ」について

Tshozoです。先日Angewandte Chemie International Edition…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP