[スポンサーリンク]

化学一般

ワールドクラスの日本人化学者が語る研究物語―『化学者たちの感動の瞬間』

[スポンサーリンク]

祝!ノーベル化学賞受賞!このニュースには、有機化学者たるもの興奮がまだまだ冷めやらぬ日々が続いています。
(※過去の特集記事はこちら→【速報】【お祭り編】【開拓者編】【メカニズム編】【発見物語編】【原因編】

このノーベル賞効果によって、意外な書籍が爆発的売れ行きを見せている、というニュースが流れてきました。

それは『化学者たちの感動の瞬間―興奮に満ちた51の発見物語』

以前にもケムステにてレビューしたことがある書籍ですが、この機会にもう一度振り返ってみましょう。


今回のノーベル賞受賞のみで判断するまでもなく、日本の有機合成化学は世界的に見ても極めて高いレベルを誇ります。『お家芸』と呼ばれるのも全く伊達ではありません。

これほどにまでにハイレベルの有機合成化学を過去数十年にわたって開拓・牽引・発展させてきた、日本を代表する有機化学者51人。彼らそれぞれの立場から、努力物語・発見秘話・成功の秘訣などを自伝風に語っているのが本書です。今年のノーベル賞受賞者である鈴木章氏、根岸英一氏は勿論、世界的業績を上げておられる有機合成化学者たちがずらりと執筆陣に並ぶさまは、圧巻の一言です(目次はこちら)。

いずれの化学者も疑いなくワールドクラスの方ばかりですが、その素晴らしい成果の裏には、悲喜こもごもの逸話が満ちていることもわかります。雲の上の研究者であっても、かつては産みの苦しみに悩み抜いた時期もあった―そんなこともよくわかります。また、各々が記す研究哲学も十人十色です。研究に王道はありません。

豊富な経験と深い洞察に研究哲学に裏付けられた様々な言葉は、日々の研究に取り組む学生・院生たちにとって、この上ない励みとなってくれることでしょう。

先日ノーベル賞を受賞されたお二方も、以下のように語っています。

鈴木カップリングの開発者、鈴木章氏の言

セレンディピティ、研究者ならば誰にも出会うチャンスがあるとおもう。

しかしその機会を生かせるかどうかは、ひとえにその研究者の「自然を直視する謙虚な心」「小さな光も見逃さない注意力」「旺盛な研究意欲」が必要である。さらには神が与え給う幸運が大きく関係するのであろうが、はっきりいえることはただ手をこまねいているだけでは、決してやってくることはない。

根岸カップリングの開発者、根岸英一氏の言

まずは自分の資質・適性をできるだけ客観的に見極めること。知性、創造性、意志力、判断力などは重要項目である。次に一生を託すに値する夢と目標をしっかりもつこと。これらは高くおおきいほどよい。ドン・キホーテになることだ。第三にこれらから導かれるライフワークとなる大きなテーマを探し出すこと。そして自分は頂点に立つリーグの一員であるべきだと自覚を持ち、楽天的、持続的に、自分の天職、そして同時に趣味であるべきものを追い続けることだ。それは当然好きであるべきだ。「好きこそものの上手なれ」である。

元々有機合成化学協会誌で執筆されていたものを書籍化し、化学同人の協力を経て出版したそうです。まさに企画の勝利だと思えます。

有機化学になじみのない方々でも十分楽しめる内容であり、自信を持っておすすめできます。

ただ現在は売り切れ続出ということで、なかなか入手は難しそうな感じです。もう少し待って落ち着いてから買ってみるのが吉といえるでしょうね。

※追記(2015/7/18)

ノーベル賞フィーバーも過ぎ去り、普通に買えるようになっています。この機会に是非お求めください!

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 電子デバイス製造技術 ーChemical Times特集より
  2. 【書籍】女性が科学の扉を開くとき:偏見と差別に対峙した六〇年 N…
  3. 有機合成化学協会誌3月号:鉄-インジウム錯体・酸化的ハロゲン化反…
  4. ケムステが文部科学大臣表彰 科学技術賞を受賞しました
  5. SFTSのはなし ~マダニとその最新情報 前編~
  6. オンライン授業を受ける/するってどんな感じ? 【アメリカで Ph…
  7. 書物から学ぶ有機化学 3
  8. ナノ合金の結晶構造制御法の開発に成功 -革新的材料の創製へ-

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 3Dプリント模型を買ってコロナウイルス研究を応援しよう!
  2. 化学者のためのエレクトロニクス講座~代表的な半導体素子編
  3. 研究者向けプロフィールサービス徹底比較!
  4. 春の褒章2010-林民生教授紫綬褒章
  5. 全フッ素化カーボンナノリングの合成
  6. 鈴木 啓介 Keisuke Suzuki
  7. 反応中間体の追跡から新反応をみつける
  8. 前代未聞のねつ造論文 学会発表したデータを基に第三者が論文を発表
  9. 第175回―「酸素を活用できる新規酸化触媒系の開発」Mark Muldoon准教授
  10. 3級C-H結合選択的な触媒的不斉カルベン挿入反応

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2010年10月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

フローマイクロリアクターを活用した多置換アルケンの効率的な合成

第610回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院理学研究科(依光研究室)に在籍されていた江 迤源…

マリンス有機化学(上)-学び手の視点から-

概要親しみやすい会話形式を用いた現代的な教育スタイルで有機化学の重要概念を学べる標準教科書.…

【大正製薬】キャリア採用情報(正社員)

<求める人物像>・自ら考えて行動できる・高い専門性を身につけている・…

国内初のナノボディ®製剤オゾラリズマブ

ナノゾラ®皮下注30mgシリンジ(一般名:オゾラリズマブ(遺伝子組換え))は、A…

大正製薬ってどんな会社?

大正製薬は病気の予防から治療まで、皆さまの健康に寄り添う事業を展開しています。こ…

一致団結ケトンでアレン合成!1,3-エンインのヒドロアルキル化

ケトンと1,3-エンインのヒドロアルキル化反応が開発された。独自の配位子とパラジウム/ホウ素/アミン…

ベテラン研究者 vs マテリアルズ・インフォマティクス!?~ 研究者としてMIとの正しい向き合い方

開催日 2024/04/24 : 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足…

第11回 慶應有機化学若手シンポジウム

シンポジウム概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大…

薬学部ってどんなところ?

自己紹介Chemstationの新入りスタッフのねこたまと申します。現在は学部の4年生(薬学部)…

光と水で還元的環化反応をリノベーション

第609回のスポットライトリサーチは、北海道大学 大学院薬学研究院(精密合成化学研究室)の中村顕斗 …

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP