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スポットライトリサーチ

光と熱で固体と液体を行き来する金属錯体

第44回のスポットライトリサーチは、山口東京理科大学 工学部応用化学科・舟浴佑典 助教にお願いしました。舟浴さんは神戸大学大学院理学研究科(持田研究室)在籍時の研究で博士号を取得し、現在のポジションに就かれています。

そこでの研究が、英語記事を含むプレスリリース・紹介記事・論文の形で先日公表され、国内外で注目を集めています。シンプルなアイデアに基づく分子設計ながら、まだまだ面白い現象は世の中に残されているのだなぁと化学の奥深さを感じさせてくれる成果です。

“Reversible transformation between ionic liquids and coordination polymers by application of light and heat”
Funasako, Y.;  Mori, S.; Mochida, T. Chem. Commun. 201652, 6277. DOI: 10.1039/C6CC02807A

研究室を主宰される持田智行 教授は、舟浴さんをこう評しておられます。

舟浴博士は、洞察力に富み、アイデアが豊富な研究者です。博士課程在学中は、金属錯体から有機結晶、固体から液体、電子物性から化学反応にわたる広範な研究テーマを手がけてもらいましたが、今回の結果も、彼の緻密な考察と、幅広い好奇心、多彩な発想があって初めて実現したものです。研究室の雰囲気を作るのも上手く、研究者・教育者として、今後の活躍を期待しています。

それではいつも通り、舟浴さんに現場のお話を伺ってみました。

Q1. 今回のプレス対象となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください

 今回、光と熱によって、イオン液体と配位高分子固体の間を相互転換する物質を実現しました(図1)。この物質は、光で固化し、熱で液化する性質を持ちます。

私たちはこれまで、金属錯体を用いた機能性イオン液体の開発を進めてきました。この研究では、分子間で架橋の生成・切断が可逆に起こるルテニウム錯体を設計・合成しました。この物質は無色透明のイオン液体ですが、紫外光を照射するとアレーン環が脱離し、かわりにシアノ基が金属イオン間を架橋するため、徐々に黄色のアモルファス配位高分子へと変化します(図2)。得られた固体は、加熱によって架橋が解けて元のイオン液体へと戻ります。この変化は可逆で、繰り返しが可能です。

この相転換機構は、ルテニウム錯体の光反応性とイオン液体の分子設計をうまく組み合わせたものです。これは単なる固液転換ではなく、イオン液体と配位高分子という、全く異なる結合状態・性質を持つ物質間の転換です。この現象は、両分野をつなぐ新しい化学につながると期待されます。

図1.光・熱によるイオン液体と配位高分子の相互転換(写真および模式図)

図1.光・熱によるイオン液体と配位高分子の相互転換(写真および模式図)

図2.相互転換の機構

図2.相互転換の機構

 

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

今回の成果は、私が博士学生の時に同じ研究室の修士学生であった森氏(論文共著者)と共に進めてきた研究が元になっています。アレーン環が外れて、別の配位子と置き換わるという反応と、液体であることの利点を絡めて何か面白いことに使えないかと、日々深夜までアイデアを出し合いながら議論したのを今でも覚えています。実際に合成したイオン液体が光照射によって固化したのを見た時は、何とも言えない喜びを感じました。

 

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

分子設計と物質精製に苦労しました。架橋の生成・切断の機構を保ちつつも室温で液体として存在するような錯体を得るために、架橋配位子の種類や数、アルキル鎖長、アニオンの異なる誘導体を検討しました。何度も回り道をしつつ、最終的には今の形に落ち着きました。

また、当初は固液変化の再現性が今一つだった時期があり、最終的には錯体合成時の配位子が不純物としてごく微量残っていたことに気づきました。その後、各ステップでの再結晶溶媒やカラム条件などを徹底的に再検討し、純物質を単離できました。この系に限らず、金属錯体からなるイオン液体は精製が困難な場合が多いため、常に何らかの工夫が必要で分子設計から再検討することも少なくありません。

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

常に実験の最前線に立つ化学者でありたいと考えています。やはり、目的物のNMRスペクトルやX線構造解析の分子構造、物質の色変化や相変化、まったく想定外の測定値などを見る瞬間の喜びは何事にも代えられません。これまでの地道な実験の努力が報われる瞬間でもあると思いますし、新たな研究成果の第一歩にもなり得ます。そういう喜びを学生と共有できるような化学者・教育者でありたいと思いますし、次の世代の人たちが化学を志すきっかけになれればと思います。

 

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

最後までお読みいただきありがとうございました。私は学生時代から、研究の話題で雑談が盛り上がるような雰囲気の研究室づくりができればと思っており、Chem-Stationの記事の内容などもよく話題にしておりました。それだけに、まさか自分が執筆する日が来ようとは思ってもいませんでした。依頼を受けた時は大変驚きましたが、他の栄えあるスポットライトリサーチと並んで選出されたことを大変光栄に思います。また、持田智行先生(神戸大学)ほか、共同研究者の皆様には大変お世話になりました。この場をお借りして御礼申し上げます。

 

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研究者の略歴

funasako舟浴 佑典 (ふなさこ ゆうすけ)

現所属: 山陽小野田市立山口東京理科大学 工学部応用化学科(井口研究室)助教

研究テーマ: 外場応答性を示す機能性イオン液体の開発

経歴: 2009年3月神戸大学理学部化学科卒業。2011年3月神戸大学博士前期課程修了。2014年3月神戸大学博士後期課程修了、博士(理学)取得。2014年4月より現職。2011年第1回イオン液体討論会優秀ポスター賞。2012年第6回分子科学討論会分子科学会優秀ポスター賞。2012年第2回CSJ化学フェスタ2012優秀ポスター発表賞。2013年第7回分子科学討論会分子科学会優秀講演賞。

 

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。 関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。 素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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