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一般的な話題

生きた細胞内でケイ素と炭素がはじめて結合!

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生物は豊富にあるケイ素を利用しない。このたび、ケイ素と化学結合を形成して体内の生化学経路に取り込むことのできる酵素が見いだされた。

タイトルはシュプリンガー・ネイチャーの出版している日本語の科学まとめ雑誌である「Natureダイジェスト」1月号から。最新サイエンスを日本語で読める本雑誌から個人的に興味を持った記事をピックアップして紹介しています。今月号の紹介は少し遅くなりましたが、本年も引き続き紹介していきたいと思います。過去の記事は「Nature ダイジェストまとめ」を御覧ください。

ケイ素と炭素の間に化学結合を形成できる酵素

自然から発見される有機化合物の骨格はすべて炭素ー炭素結合でできています。生物が酵素をもちいて有機化合物を生合成する際に、炭素を骨格とする化合物を取り込み、変換するからです。

一方で、炭素よりも地殻中の存在度が高い元素は「ケイ素」。それにもかかわらず、生物がなぜこれらを取り込んでいかないのか?なぜ酵素は炭素ーケイ素結合をつくらないのか?それはいまでも謎の1つです。

昨年、カルフォルニア工科大学のFrances Arnold教授らは、この炭素ーケイ素結合の形成を実現する酵素を発見し、Scienceに報告しました[1]。酵素はアイスランドの温泉(有名なブルーラグーンを含む)に生息する細菌から発見されたもの。これに数カ所の変異を加えると、ケイ素ー炭素結合を形成するようになったのです。しかも、人工的な触媒よりも活性が高いとのこと。簡単にいいますが、結構大変な研究ですよねこれ。酵素の選択や改変の場所など無数のパラメーターがあります。記事では、詳しい研究の背景とArnold教授の輝かしい経歴について紹介しています。

化学の多様性でマラリアに挑む

天然物に似た構造を持つ多様な化合物の大規模ライブラリーが構築され、そのスクリーニングによって、マラリア原虫の生活環の複数段階を標的とする新規の薬剤候補分子が見つかった。

先進国では実感がわかないと思いますが、アフリカでマラリアで亡くなる命は年間40万人。日本で言えば、長崎市(44万人)、豊田市(42万人)、東京都葛飾区(44万人)あたりの人がすべていなくなってしまう病気です。

この特効薬は2015年ノーベル医学・生理学賞を受賞したアルテミシニン誘導体。現在では効果的であるものの、アフリカで薬剤耐性が現れるのも時間の問題だということ。そして、新たな薬剤の開発が必要であるにも関わらず、製薬会社は開発費を含めると売れば売るほど赤字になるマラリア特効薬はなかなか開発できないといった現状にあります。

米国ブロード研究所のStuart L. Schreiber教授らは自身で開発した「多様性指向型合成」により二環式アゼチジン類のBRD7928が有効であることを示しました[2]。マラリア原虫の3つの生活環(肝臓・無性血液段階・生殖母体)で活性である必要があり、今回見出した化合物はそれを満たしているとのことです。記事では、その研究の経緯と方法、そして、今後の研究の方針が述べられています。

マラリア感染の全ての段階を標的とする化合物BRD7929 (出典:Natureダイジェストより)

ところで、この論文の著者の数はかなり多いですが、第一著者が日本人(加藤信高博士)にも注目。同研究所でシニアサイエンティストとして研究を続けているようです。

若手研究者にのしかかる重圧

今日の若手研究者は、上の世代より少ない助成金とポストをめぐり、厳しい戦いをくぐり抜けていかねばならない。重圧を背負っているのは皆同じだが、駆け出しの研究者は特に苦しく感じているようだ。

記事では、

  1. Ph.D数は増えているのにポストの数は増えない。
  2. 増えない助成金
  3. 助成金システムの激しい競争
  4. 科学者の高齢化(下図)
  5. 時間がない
  6. 大半が研究生活に満足だが最も満足度が高いのは高齢層

の6つについてアンケートの結果とデータを元にして統計学的に述べています。

科学者の高齢化(出典:Natureダイジェストより)

 

科学のみならず、いかなる分野で耳にする話ですが、現実問題としてはどうなのでしょうか。個人的意見としてはすべて同意しながらも、同じ時代を同じ人を生きたわけではないのでわかりません。昔のほうがよかったところもあるし、今のほうが良いところもあると思います。若い人も優遇されていると感じることも多々あります。事実を俯瞰しながらも、ともかく面白い研究をしたいということで走り続けるしかありません。

これは私の意見ですが、ただひとつだけ言えるのは「以前より暇になったな・余裕ができたなと思ったら、君が必要とされていないこと。以前よりも暇になることなんて走り続けている人にはありえない」ということです。

マラソンみたいなもので高調して楽しくなることはありますが、基本的にはどんどん大変になる。そしてゴールしたと思って上位ならば達成感とその感動に浸れる(これ大事)が、さらなる感動をみつけにまた練習し、本番に望む。引退するまでその繰り返しですね。

というわけで記事をとりあげていながら、なんですがこういう話よりも「こんなことができるんだ!科学って面白いよね!」的な記事のほうが圧倒的に好きです。

その他の記事など

今月号は偶然化学に関連する記事が2つあったため化学の記事を中心に紹介しました。化学に関する研究でも全て網羅しているわけではない(網羅できない)ので、両者とも私はここで初めて知りました。もちろん化学だけでなく、Natureダイジェストの対象はオールサイエンスですので、様々な科学のびっくりするような研究が的確かつわかりやすく日本語で紹介されています。

さて、その中でも今月号は2つの記事が無料公開されています。神経科学分野から「脊髄損傷サルに歩行を取り戻させた装置」、量子科学・イメージング分野から「量子画像化技術でうつ病診断・治療を目指す」です。いずれも簡単に読める記事ですのでぜひ読んでみてください。

一方で、科学だけでなく、今回の「若手研究者にのしかかる重圧」の記事のような研究者に関係する話題も提供されています。これに関しても原文[3]がありますので、逐一関連雑誌やニュースをすべて網羅していれば読める話なのですが、なかなか時間がないですね。重要な科学に関する話題をざっくりと包括できる本雑誌の購読をおすすめします。購読はこちら。研究室単位の購読も最近はじまっています。私も現在は個人購読ですが、来年から学生がかなり増えるのもあって、研究室購読に移行したいと考えています。

関連文献

  1. Kan, S. B. J.; Lewis, R. D.; Chen, K.; Arnold, F. H. Science 2016, 354, 1048–1051. DOI: 10.1126/science.aah6219
  2. (1) Kato, N.; Comer, E.; Sakata-Kato, T.; Sharma, A.; Sharma, M.; Maetani, M.; Bastien, J.; Brancucci, N. M.; Bittker, J. A.; Corey, V.; Clarke, D.; Derbyshire, E. R.; Dornan, G. L.; Duffy, S.; Eckley, S.; Itoe, M. A.; Koolen, K. M. J.; Lewis, T. A.; Lui, P. S.; Lukens, A. K.; Lund, E.; March, S.; Meibalan, E.; Meier, B. C.; McPhail, J. A.; Mitasev, B.; Moss, E. L.; Sayes, M.; Van Gessel, Y.; Wawer, M. J.; Yoshinaga, T.; Zeeman, A.-M.; Avery, V. M.; Bhatia, S. N.; Burke, J. E.; Catteruccia, F.; Clardy, J. C.; Clemons, P. A.; Dechering, K. J.; Duvall, J. R.; Foley, M. A.; Gusovsky, F.; Kocken, C. H. M.; Marti, M.; Morningstar, M. L.; Munoz, B.; Neafsey, D. E.; Sharma, A.; Winzeler, E. A.; Wirth, D. F.; Scherer, C. A.; Schreiber, S. L. Nature 2016, 538 , 344–349. DOI: 10.1038/nature19804
  3. Maher, B.; Sureda Anfres, M. Nature 2016, 538, 444. DOI: 10.1038/538444a

過去記事はまとめを御覧ください

外部リンク

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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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