[スポンサーリンク]

化学書籍レビュー

有機分子触媒の化学 -モノづくりのパラダイムシフト

[スポンサーリンク]

内容

有機分子触媒は,取扱いの容易さだけでなく,環境負荷の軽減やレアメタルの枯渇・高騰といった社会的な問題に応えうる「元素戦略」の観点からも注目を集めている.精巧な分子設計のもとに選択性(立体選択性,位置選択性,官能基選択性など)の高度な制御を目指して設計開発され,多彩な反応系で大きく進展している.(引用 : 書籍紹介のページより)

対象者

大学生、大学院生、研究者。

CSJ カレントレビューについて

この「CSJ カレントレビュー」シリーズは、近年のホットな研究分野の基礎知識とその分野の研究状況を紹介するものです(ケムステでの紹介記事はこちら)。私が読んだ本シリーズはこれが 2 冊目になりますが、すっかりファンになってしまいました。研究の歴史的背景や基礎知識、重要語句が丁寧に説明されているため、その研究にたずさわっていない初学者でも読むことができます。しかし内容が薄っぺらいわけではありません。目玉である「Part II 研究最前線」では、その研究分野における具体的なテーマが 7 – 10 ページ程度に分かりやすく詳細にまとめられており、最新の研究トピックを概観することができます。

本書の解説

日進月歩で発展を続ける有機分子触媒の基礎的な知識の解説から始まり、その最先端研究の動向が記されています。本書の構成は同シリーズの構成と同じです。まず、本の表紙をめくると下のような、カラフルなGraphical Abstract が迎えてくれて、全体の内容を把握することができます。

%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-12-03-22-27-59

本書の裏表紙(の一部)から引用

 

内容は「Part 1 基礎概念と研究現場」の 「1 章 フロントライナーに聞く」から始まります。そこでは、有機分子触媒の分野で活躍している丸岡啓二教授、大井貴史教授、そして司会者として寺田眞浩教授の 3 人が座談会形式で、有機分子触媒研究の醍醐味や今後の研究課題について熱く議論しています。次に、「2章 そもそも有機分子触媒とは」というタイトルで、有機分子触媒に関する基礎知識や大まかな分類の説明があります。続く章で酵素との比較(3章)あるいは遷移金属触媒との比較(4章)について解説しています。これらを読めば、有機分子触媒の特徴や位置付けを確認することができます。

「Pert II 研究最前線」では、有機分子触媒の各論的内容が書かれています。具体的には以下の通りです。

1 章 エナミンを活性種とする求核触媒

2 章 イミニウム塩を活性種とする求核触媒

3 章 4-アミノピリジン誘導体を中心とした求核触媒

4 章 含窒素複素環式カルベンを用いる分子変換

5 章 二官能基性水素結合供与触媒の創製と応用

6 章 シンコナアルカロイド Bifunctional 触媒

7 章 キラルリン酸を中心とした酸触媒

8 章 キラルリン酸触媒によるエナンチオ制御機構

9 章 イオン対を中心とした不斉塩基触媒

10 章 官能基複合型不斉グアニジン触媒と生理活性天然物合成への応用

11 章 超塩基性有機分子触媒

12 章 キラル相間移動触媒の新展開

13 章 有機ニトロキシルラジカルおよび類縁化学種を触媒とする酸化的分子変換

14 章 超原子価ヨウ素触媒反応 –メタルフリー酸化的カップリング反応への触媒設計

15 章 有機分子触媒と遷移金属触媒とを協奏的に利用した分子変換反応

16 章 光を用いる有機分子触媒反応

17 章 ペプチド触媒

18 章 有用物質合成(医薬品等)への応用

最後の 「Part III 役に立つ情報·データ」には、有機分子触媒を発展させた権威的論文や、覚えておくべき重要語句集、本書の執筆に関わった研究者の情報が書かれています。

本書の読み方

Part I さえ読んでおけば、各論である Part II は順番どおりに読まなくても、十分理解できるようになっていると思います。そのため、この本の使い方として、Part I を読んで、その後自分の興味のある分野の詳細を Part II で読むということも可能です。また、Part III は、実際にこの分野で研究をしたいという方にとって、有用なデータベースになっています。したがって、有機分子触媒の研究に関わっている、あるいはこれから関わろうとしている人にとって必読書になるでしょう。

ちなみに私がこの本(だけでなくこの「CSJ カレントレビュー」のシリーズ)を読んだ一番の動機は、大学院での研究室選びです。通常の大学生なら学部卒業の際にわざわざ外部の大学院を受験して研究室を変えるということは稀かもしれませんが、私は現在高専の専攻科 1 年生(学年的には学部 3 年)で、進学するには必然的によその大学院を受験しなければなりません。そこで、第一線を躍進している研究室を探したいということで、本書の購読に至りました。大学の研究室のホームページを片っ端から読むのは疲れますが、このシリーズならある程度絞られたテーマのなかから最新の研究を知ることができ、かつ基礎的な知識も得ることができたので一石二鳥でした。特にPart II では、”いま一番気になっている研究者”というコラムがところどころ散りばめられており、望んでいた情報が得られたと満足しています。もし同じような境遇の方がおられたら、本シリーズを読むことをお勧めします。

関連記事

外部リンク

関連書籍

やぶ

投稿者の記事一覧

PhD候補生として固体材料を研究しています。学部レベルの基礎知識の解説から、最先端の論文の解説まで幅広く頑張ります。高専出身。

関連記事

  1. ペリ環状反応―第三の有機反応機構
  2. 化学 美しい原理と恵み (サイエンス・パレット)
  3. Purification of Laboratory Chemi…
  4. 有機合成のための遷移金属触媒反応
  5. 【書籍】セルプロセッシング工学 (増補) –抗体医薬から再生医…
  6. フラックス結晶育成法入門
  7. えっ!そうなの?! 私たちを包み込む化学物質
  8. 基礎材料科学

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 高脂血症治療薬の開発に着手 三和化学研究所
  2. Passerini反応を利用できるアルデヒドアルデヒド・イソニトリル・カルボン酸・アミン(
  3. DNA origami入門 ―基礎から学ぶDNAナノ構造体の設計技法―
  4. クラレが防湿フィルム開発の米ベンチャー企業と戦略的パートナーシップ
  5. Carl Boschの人生 その9
  6. 佐伯 昭紀 Akinori Saeki
  7. 湿度変化で発電する
  8. ニセクロハツの強毒原因物質を解明 “謎の毒キノコ” 京薬大准教授ら
  9. 韮崎大村美術館が27日オープン 女性作家中心に90点展示
  10. 分子集合体がつくるポリ[n]カテナン

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年12月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

超塩基に匹敵する強塩基性をもつチタン酸バリウム酸窒化物の合成

第604回のスポットライトリサーチは、東京工業大学 元素戦略MDX研究センターの宮﨑 雅義(みやざぎ…

ニキビ治療薬の成分が発がん性物質に変化?検査会社が注意喚起

2024年3月7日、ブルームバーグ・ニュース及び Yahoo! ニュースに以下の…

ガラスのように透明で曲げられるエアロゲル ―高性能透明断熱材として期待―

第603回のスポットライトリサーチは、ティエムファクトリ株式会社の上岡 良太(うえおか りょうた)さ…

有機合成化学協会誌2024年3月号:遠隔位電子チューニング・含窒素芳香族化合物・ジベンゾクリセン・ロタキサン・近赤外光材料

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年3月号がオンライン公開されています。…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part3

日本化学会年会の付設展示会に出展する企業とのコラボです。第一弾・第二弾につづいて…

ペロブスカイト太陽電池の学理と技術: カーボンニュートラルを担う国産グリーンテクノロジー (CSJカレントレビュー: 48)

(さらに…)…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part2

前回の第一弾に続いて第二弾。日本化学会年会の付設展示会に出展する企業との…

CIPイノベーション共創プログラム「世界に躍進する創薬・バイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第104春季年会(2024)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「世界に躍進…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part1

今年も始まりました日本化学会春季年会。対面で復活して2年めですね。今年は…

マテリアルズ・インフォマティクスの推進成功事例 -なぜあの企業は最短でMI推進を成功させたのか?-

開催日:2024/03/21 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の影…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP